エレカシ 宮本浩次、ソロワークで見せた“誰も知らなかった姿” 歌謡曲へのアプローチを読む

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2019年03月22日 19:11  リアルサウンド

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 2018年に、デビュー30周年を迎えたエレファントカシマシ。この直後に、ボーカル・宮本浩次は椎名林檎や東京スカパラダイスオーケストラとのコラボを発表。今年1月には、ソロプロジェクトの本格始動が明らかになった。公式Twitter、Instagramも始動させ自身が投稿するなど、ファンが「きっとしないだろう」と思っていたことをやってのける、驚きのなかでのソロデビューだった。


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 各媒体のインタビューによれば、もともと宮本は、30周年ツアー(『TOUR 2018 “WAKE UP!!”』)が終わったらソロ活動をするとメンバーらに宣言していたという(参考:『MUSICA』2019年3月号)。これまで脇目も振らず“エレファントカシマシ”として生きてきた宮本が、バンドではできない楽曲を表現することに重きを置き、ソロミュージシャンとして改めて音楽と向き合った。そうしてできたのが第1弾シングル曲「冬の花」だ。この曲は3月19日に最終回を迎えたドラマ『後妻業』(カンテレ・フジテレビ系)の主題歌になっていて、エレカシで作ってきた“ロック”とはまた違う、壮大で情緒的な“歌謡曲”となっている。ここが、ソロ・宮本浩次の真骨頂だ。


 プロデューサーは、小林武史。2002年にエレカシとしてリリースしたアルバム『ライフ』以来のタッグで、奇しくも宮本が同アルバム制作時、一緒にソロ活動をしてみたいと思っていた相手だ(参考:『MUSICA』2019年3月号)。多彩でアコースティックアレンジに強い小林は、「冬の花」に重厚なストリングスを加え、宮本の歌声を際立てた。宮本本人も「作りたいと思っていた」という歌謡曲は、最高の形で念願叶った(参考:ソロ発表時のコメントhttps://www.m-on-music.jp/0000321111/)。


 この曲で宮本は歌詞に綴った思いを感情の向くまま歌い上げる、これまでと変わらぬスタイルを見せている。しかし、そこに切なさやもどかしさやるせなさが加わった、あるいはぐっと増したようにも思う。宮本は、52歳にして自身の新たな可能性を世に示したのだ。100%とは言わずとも、ほぼ見せてくれていると信じて疑わなかった宮本の音楽表現だが、その考えは甘すぎた。彼には、まだ見せていない“歌謡曲”という表現があったのだ。


 また女性目線の歌詞もソロでの新たな挑戦のように思う。ドラマ『後妻業』のストーリーを把握した上で作られたこの曲は、主人公・小夜子(木村佳乃)を思い作られたのだろう。エンディングに流れるだけで小夜子が隠す心を浮き彫りにするようだ。小夜子は、後妻業(“財産目当て”で高齢男性に近づき、入籍あるいは内縁関係になったあと、遺産を相続する女性)で荒稼ぎをする、一見すると悪女のようなキャラクターだが、実は親からの虐待や愛した男からの裏切りなど、悲痛な過去を背負っている。


 それに、彼女が老人に近づく理由からは、孤独な彼らの心の寂しさを埋めてあげたいという優しさも垣間見え、一概に“犯罪”=“悪”と言えないところもドラマを一層奥深くしていた。そんな小夜子の悲喜こもごもに、人生の奥深さを表現するかのような〈悲しくって泣いてるわけじゃあない 生きてるから涙が出るの〉〈ひと知れず されど誇らかに咲け ああ わたしは 冬の花〉という歌詞は、ドラマチックなメロディも相まって作品と見事な親和性を見せていた。改めて、ミュージシャン・宮本浩次は底知れない。


 宮本曰く、50代は「老人の青春時代」だという(参照:『ROCKIN’ON JAPAN』2019年2月号)。この年代にさらなる音楽表現に目覚め、青春を謳歌する彼の“散歩”に、歩幅を合わせついていきたい。(松本まゆげ)


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