『二つの祖国』小栗旬が表現する“日系人としての葛藤” ムロツヨシとは対照的な存在に

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2019年03月24日 18:31  リアルサウンド

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 3月23日、山崎豊子の同名小説が原作のスペシャルドラマ、『二つの祖国』がテレビ東京系で放送された。


 日系二世である天羽賢治(小栗旬)は、日本で教育を受けたのち、UCLAを卒業し、日系人向けの新聞の記者として働くが、日本人とアメリカ人という双方のアイデンティティを持ちながら、彼ら彼女らに対する差別や迫害に葛藤し翻弄される。太平洋戦争が開始すると、日系人たちは厳しい立場に追い込まれ、1941年12月8日の真珠湾攻撃(パールハーバー)が発生すると、本格的に迫害の対象となり、天羽家も例外ではなく、一家は収容所に送られる。食堂からスプーンが一本なくなったことを理由に、裸にされ尋問されるシーンが痛々しい。


 そして戦争が進むにつれ、日系人たちは「どちらの国に忠誠を誓うのか」という厳しい選択を迫られる。賢治は祖国日本に敵対することになると悩みながらも、米陸軍情報部の日本語教師として赴任することで、収容所を脱出し家族を守ろうとする。一方で賢治の友人であり、チャーリー田宮(ムロツヨシ)は、初めから日本人としての立場を捨て、あくまでアメリカ人として軍の出世階段を登ろうと試みる。チャーリーは賢治が密かに想いを寄せていた井本梛子(多部未華子)と交際・結婚するが、日本人としての生き方を捨てられない彼女とは、やがて別れを迎える。また梛子の友人であり、賢治の妻となった天羽エミー(仲里依紗)もまた、白人からのレイプ被害に苦しむ。


 賢治の弟の忠(高良健吾)は、ロースクールを中退し、母国日本へと向かい、日本兵として徴兵される。もう一人の弟の勇(新田真剣佑)は、日系人が迫害されるのは「アメリカ国民としての義務を果たしていないからだ」と考え、「アメリカ兵士」として生きることで、迫害を回避しようと試みる。しかし勇はヨーロッパ戦線で戦死してしまう。戦死の報を聞いた時の、父・乙七(松重豊)の「子どもを死なせるためにアメリカに来たのではない」というセリフが、胸に刺さる。


 そしてついに賢治は、日本語教師として赴任していたアメリカ本土ワシントンを離れ、前線に赴く決心をする。教え子の兵士たちが前線で命を落とすなかで、安全地帯にいる自分に我慢できなくなったと語る。しかしクライマックスでは、フィリピンの戦線で再会した賢治と忠は敵として合間見えるが、賢治は忠の脚を誤って撃ってしまう。日系人の兄弟にしか起こり得ない悲劇が訪れてしまうのだ。


 さて、本作の見どころは、日系人がそれぞれのアイデンティティを抱え、その境遇に苦悩する点だろう。賢治が「二つの祖国」に対する揺れ動く想いを抱き続けるのに対し、アメリカ人として割り切って生きていこうとするチャーリーの対比が鮮明だ。また、賢治やチャーリーだけでなく、それぞれの妻や家族一人一人の葛藤が描かれてゆく。フィクションでありながら、綿密な時代考証に裏付けされたストーリーは、日系人たちの置かれた当時のリアルな状況を想起させる。


 重厚な原作小説を持つ本作は二時間半という長編ドラマでありながら、息つく暇もないほど目まぐるしく展開され、視聴者を飽きさせない。そしてその中でも、軸となる主演の小栗の演技が光る。葛藤を内に秘めながら、ついに戦場に赴くことを乙七に告げるシーンでは、涙ながらに決然とした想いを開陳する。それはこの作品のメインテーマを見事に表現しており、豪華なキャスト陣によって散りばめられた多彩なエピソードを束ねる役割も果たす。


 家族や友人としての関係が、属する国家によって引き裂かれ、時に差別され迫害されていく様子が描かれる本作は、今の日本社会にこそ観られるべき作品かもしれない。そもそも国とは何か、アイデンティティとは何か。本作を通じて今一度考え直してみるのも悪くはないだろう。


 本日放映される後編では、梛子の故郷である広島への原爆投下や、東京裁判のシーンが描かれるだろう。A級戦犯としてビートたけし演じる東條英機や笑福亭鶴瓶演じる大川周明らが登場する。そしてアメリカ側として裁判の通訳をすることになる賢治の胸中を、小栗はどのように表現するのだろうか。目が離せない。(文=エオミナカヒサ)


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