『ふたりの女王 メアリーとエリザベス』“孤独な女の王”としての2人の生き方 現代にも通ずる物語に

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2019年04月02日 10:01  リアルサウンド

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■舞台は16世紀の王朝だが、現代社会にも通ずるストーリー


 0歳でスコットランド女王、16歳でフランス王妃となったメアリー・スチュアートは、未亡人となった18歳にスコットランドへ帰国し王位に戻る。


 しかし当時のスコットランドは、隣国イングランドの女王エリザベス1世の強い影響下にあった。メアリーはイングランドの王位継承権を主張し、エリザベスの権力を脅かす。従姉妹でもあるふたりの女王は、それぞれ陰謀渦巻く宮廷の中で運命に翻弄されていく……。


 シアーシャ・ローナンがメアリーを、マーゴット・ロビーがエリザベス1世を演じた『ふたりの女王 メアリーとエリザベス』の大まかなストーリーはこの通りであるが、この作品は単なる歴史映画ではない。ありとあらゆる謀略や悪意の中で、「無垢なままではいられない女性たち」の変化と成長、そして対決の物語なのである。


■メアリーとエリザベス、それぞれの生き方


 イングランドの女王であるエリザベスは、本作中では描かれていなかったが数多の修羅場を潜り抜けてきた女性である。


 父王・ヘンリー8世に実の母であるアン・ブーリンを処刑され庶子として育ち、即位前には前イングランド女王で腹違いの姉によりプロテスタントだということでロンドン塔へ幽閉されていた。そのために彼女は、ロンドン塔から生きて帰還した唯一の王公貴族とも呼ばれている。女王として即位したのは27歳の時で、この頃までには既に内密に子どもも産んでいたという。


 そして即位してからは政治を動かす周囲の男性貴族たちとも対等に語り合い、男妾を侍らせる。男よりもキャリアを優先する女性であった、といえよう。


 一方の本作の主人公であるスコットランドのメアリーは、産まれた瞬間から女王でありキリスト教の伝統ある宗派であるカトリックの信者だ。本作では彼女がフランスからスコットランドに帰国する、18歳の頃から物語はスタートする。


 まだうら若き少女のような彼女は、王位を狙う異母兄の思惑も知らずに兄による帰国の歓迎を素直に喜び、自分こそ正統なる女王であるということから側近である男性貴族たちを信頼し、そして新しい恋愛や次なる結婚に夢を抱いている。エリザベスとは異なり、恋と仕事の両方を手にした女性である、といえるだろう。


 母を処刑され自らも処刑寸前だったという、死を目の当たりにしてきたきたエリザベスとは違って、無邪気過ぎるとも言えようメアリー。彼女は王位というものが死といかに身近であるかということをまだ知らなかったのだ。自分が王となれば、その地位を狙い陰謀や暗殺を企てる者たちが必ず現れる。


■確執のはじまりは


 対極的なふたりが執着し優先させたものとは、エリザベスは権力であり、メアリーは心であったといえよう。本作はそんなふたりの生き方、女性としてのイデオロギーの対決の物語であるともいえるのだ。


 だがしかし、そんな対照的なふたりには唯一の共通点があった。それは、“女王”であるということ。メアリーとエリザベスは共に孤独な“女の王”であったのだ。男性たちが君臨する世界で女性ひとり、彼らと渡り合っていかなければいけない。そのこともあってか、二人は実際に多くの手紙のやり取りをし、お互いを姉妹とまで呼び合うほどの友情を育んでいた。だが次第に二人の友情はライバル心に変わり、そしてそれは陰謀と戦争を巻き起こすのであった。


 “ヴァージン・クイーン”としての道を選んだエリザベスは自分の王としての優位を見せつけるため、愛人であるロバート卿をメアリーの結婚相手として提案するのである。しかしエリザベスの思惑を知っていたメアリーは、その申し出を快諾する旨を伝えてしまう。こうなっては自分よりも若く美しいメアリーにロバート卿を奪われてしまう、とエリザベスは狼狽する。


 エリザベスは成熟した女性ながら真の“ヴァージン・クイーン”ではなかったのである。華美に着飾り、彼女もまたひとりの女性であったのだ。


 比べてメアリーの若さと美貌は、その洗練された身なりから見てとれる。女性として、エリザベスはメアリーに自分は劣っているのかもと感じたのかもしれない。さらにメアリーの再婚と出産により、エリザベスは自分が選んだ道であるにしても、権力に執着した自分に後悔を抱きはじめた。


 自らを律し、国家、そして権力と自身の命を優先させたエリザベスにはないものを、奔放に振る舞い女王としての信念、そして女性としての心を優先させたメアリーは持っていたのである。何かを得るには、他のものを諦めざるを得ない場合がある。このことは現代に生きる女性たちにも通じる難しい問題である。


 時代や立場こそ異なれど、あらゆる思惑や悪意の渦巻く世界で我々は、そして女性たちは決してメアリーのような無垢な少女のままではいられないのであろう。また、そうであってはならないのかもしれない。ここにジョージー・ルークという女性監督が主人公をメアリー・スチュアートにした思惑があるのではないだろうか。


 だがラストのメアリーの処刑で彼女はキリスト教の殉教者のように真っ赤なドレスを身に纏っている。メアリーという女性は、命を賭して自らの無垢さ、そして女王としての信念を貫いたのである。


 最後に、もしこの作品を観て同時代の主にイングランドの歴史や、エリザベス1世女王の治世に興味を持ったなら、『エリザベス』(98年)、『エリザベス・ゴールデンエイジ』(07年)の他に、『ブーリン家の姉妹』(08年)、『もうひとりのシェイクスピア』(11年)をおすすめしよう。そこには華麗な宮廷物語ではない、人間の欲望と陰謀が渦巻く真実の姿があるのだ。(文=九悩ちか千代)


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