森七菜、『3年A組』で一躍ブレイク 『東京喰種2』『天気の子』話題作にも出演するその魅力とは

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2019年04月03日 06:11  リアルサウンド

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 永野芽郁や今田美桜といった、今まさにブレイクまっただ中の若手俳優から、これから伸びてくるであろう原石までもが大挙に出演し、この1月クールに大きな話題を集めた日本テレビ系列の日曜ドラマ『3年A組−今から皆さんは人質です−』が放送終了してから早くも3週間が経った。出演者の多くが本作をきっかけに飛躍を見せることは言うまでもないが、その中でも最大のブレイクを果たす逸材は誰だろうかと考えをめぐらせれば、それは森七菜をおいて他にはいないだろう。


参考:森七菜の魅力とは


 現在17歳の森について語る前に、まずは彼女が『3年A組』の中で演じた役柄について振り返ってみたい。彼女が演じていた堀部瑠奈は、電脳部に所属するアニメ好きな女子生徒で(たしか第1話でクラス全員が菅田将暉演じる柊の人質になった際に、深夜アニメが観られないことを嘆いていたはずだ)、教室の最前列に座っていた。古典的な学園ドラマのルールに則るように、このドラマでは座席配置によってクラス内のヒエラルキーや各々の性質を示していたといえる。


 何人かの例外はあれども、廊下から窓側に向かうにつれて内面に秘める意志の強さ、前方から後方に向かうにつれて外部に向けた主張の強さが高まっていく形になっていたはずだ(その最上位にいるのが片寄涼太演じる甲斐隼人であり、正反対の位置にいるのが永野芽郁演じる茅野さくらという点でそう判断できる)。そうした相関図は、人質になるという状態の変化を持ってしても変わることがなかった一方で、ドラマ後半に全員が“共犯”として一つの目標に向かうと同時に崩壊し均一化され、各々の“個”が高まるようになっていったのだ。


 座席配置から見える前提としての堀部瑠奈のクラス内の位置付けは、いわば“隠キャ”と呼べるような下層であった。しかしながらドラマ終盤で彼女は、田辺誠一演じる教師・武智を追い詰める監視カメラ映像の解析を行い、クラスの誰よりも先にそれがフェイク動画であったという真実に気が付く。さらに甲斐の右腕的なポジションにいる佐久本宝演じる石倉が、彼女に対して好意を持っていることがこの辺りから描かれるようになることで、クラス内での存在感を高めていったのである。


 もっぱらSNS社会への問題提起が大きく取りざたされた本作ではあるが、その根底にあったものはイジメという社会問題に子どもたち自身がどう向き合っていくのかということだったと忘れてはならない。SNSという得体の知れない強大なコミュニティと対になるように明確に存在する“クラス”という狭小なコミュニティ。その中におけるヒエラルキー構造を自分の個性で覆し、その無意味さを説く。堀部瑠奈という役柄はその重要な役割を果たしており、その点では茅野さくら以上に上白石萌歌演じる澪奈と対照的な生徒であったともいえる。


 そう考えると、これだけ群雄割拠なキャスティングの中でこのポジションを任せられた森に対する作り手側の期待度の高さを窺い知れる。ドラマ前半では“その他大勢”の一生徒として埋もれていながらも、後半に向かい役柄の存在感が高まると同時に、強い自信にあふれたオーラが放たれ、それが明確に演技を介して画面に表出しはじめていく。とくにメインキャラクターとして描き出された第8話のクライマックス、今井悠貴演じる西崎が前述の監視カメラ映像がフェイクであることを公表しようとするのを阻止する場面こそそのピークであろう。体格差を気にせずに突っ込んで倒れこみ、澪奈の死への後悔をあらわにしながら、踏みとどまって考えるという柊の教えを力説する。


 突発的に繰り出される大きな動きから、徐々に小さな動きへと変化させていきながらも、対照的に感情の起伏は大きくなっていく。キャスト陣の中でも小柄な印象が強い彼女は、単純なモーションの激しさではなく正攻法の演技メソッドを繰り出すことで自分を大きく見せる。さながら堀部というキャラクターの持つディテールすべてを森が吸い取って、それを森自身のままで大きくアウトプットしているかのような堂々とした演技表現であった。まだ何者にも染まる新進女優でありながら、決して役に呑み込まれている様子はない。それは彼女自身が与えられた役柄を見抜き、考えながら吸収していく力を持っているからではないだろうか。


 このドラマが始まる直前、出演する若手俳優たちを紹介する記事の中でも、彼女の名前をピックアップしたわけだが、ほぼ100%と言っていいほどの確率で森七菜はこの先数年間の若手女優界のトップを走る逸材である。2016年に行定勲がメガホンをとったWeb CMをきっかけに芸能界入りをした彼女は、オーディションを経て園子温監督の『東京ヴァンパイアホテル』に出演。吉高由里子、満島ひかり、安藤サクラ、二階堂ふみ、清野菜名と、園監督に見出された女優のその後の活躍ぶりはあえて説明する必要もないだろう。


 そして実写版『心が叫びたがってるんだ。』や、櫻井翔主演の『先に生まれただけの僕』、重要な生徒役を演じた昨年のNHKドラマ『やけに弁の立つ弁護士が学校でほえる』に、昨年秋クールに大きな話題を博した『獣になれない私たち』と着実に経験を積みあげてきた森。彼女の存在が2019年に“発見”されることは、昨年末に『君の名は。』の新海誠監督の最新作『天気の子』のヒロイン役に抜擢された時点から決まっていたことであろう。その制作発表会見の場で新海監督は、森の魅力について新作の内容と絡めながらこう語っていた。「捉えどころのない天気のような子。予想がつかないし、目が離せなくなる」。


 その言葉通り、正直なところどんな役ができる女優で、その強みはどのように活かされるのか、まだまだ未知な部分だらけである。だが『3年A組』で繰り出した前半と後半での空気感の変化や、堂々とした表現力の強さを目の当たりにすると、その“未知さ”がとても楽しみになってくる。多くの実績を持つ監督たちを惹きつけるのも、そういった部分であろう。奇しくも『天気の子』と同じ日に公開される『東京喰種2』を皮切りに、秋公開の『地獄少女』、そして岩井俊二監督の最新作『Last Letter』と映画出演が続くだけに、スクリーン上で彼女の女優としてのスケール感がさらに拡がるのかどうか注目したい。いずれにしても、常套句ではなく文字通りの意味で“目が離せない”女優が久々に現れたのだ。 (文=久保田和馬)


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