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第2回「運動のできない僕は、ミサイルが落ちてくるのを待っていた」

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2019年04月05日 15:50  ソーシャルトレンドニュース

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"第2回「運動のできない僕は、ミサイルが落ちてくるのを待っていた」"

劇団「ゴジゲン」所属の俳優であり、脚本家・善雄善雄さんによる連載第2回。
第1回「女子高に通っていたあのころ」に続く、1985年生まれの善雄さんが「卒業」できない“あの頃”の話です。



前回、男女比率で女子が異常に多い高校に通っていたことを書き、「それはつまりハーレムってこと?」とよく抱かれがちな妄想を、新型発売のたびYouTuberにミキサーにぶち込まれるiPhoneぐらい粉々に砕きましたが、この女子高に通っていた話をしたときにはもう一つ、よく言われる言葉があります。

それは、
「それだけ男子少なかったんなら、男同士めちゃくちゃ仲良かったでしょ!」
というものです。

高校2年3年時、記憶では僕のクラスの男子は、僕を含めて7人でした。
たった7人の同性。それはもう肩を寄せ合い、手を取り合い、ささいなことで笑い合う。
そうであったら、どんなによかったか。世界がそう単純ならば、生きていくのはもっと簡単。


あれは、ある日の体育の授業のことでした。

うちの高校の体育の授業は、2クラス合同、男女別で行われていました。その日の授業は、男子14人くらいがグラウンドに出て、クラス対抗で野球をするというものでした。

とりあえず野球経験なんて爪の先ほどもない僕は、レフトだったかライトだったか、ともかく外野の方に回されました。
その日はとてもよく晴れた日で、真っ青な空の中を、さんさんと太陽が照り付けていました。


ふいに、遠くでバットの軽快な金属音がしたと思うと、ボールが天高く打ちあがっていくのが見えました。
野球用語でフライと呼ばれるその球は、明らかに僕がいる方に向かって飛んでくるのがわかりました。

これをキャッチすればなんかたぶんあれだ。こっちのチームがいい感じになるやつだ。そんな簡単な野球のルールすら曖昧でしたが、このボールを捕るべきということだけはなんとなくわかりました。
これが捕れたら、学校で浮きがちな僕でも、ほんの少しヒーローみたく扱ってもらえるかもしれない。そんな都合のいい妄想を目一杯しながら探した白球の行く先は、照り付ける太陽がまぶしくて何一つ見えませんでした。


「嘘だろ……」と思いました。本当に、全然、見えない。昼に野球してる人たちはこれどうしてるんだ。フライのたびに目を焼いているとでもいうのか。昔「太陽を直接見るな!」とじいちゃんに死ぬほど怒られたのは俺だけなのか。

それでもどうにかこの球を捕らねばならない。その義務感でなんとなく球の来そうな場所に走り、予想した落下地点目指して思い切り飛び込みました。太陽光線から外れてようやく見えるようになったその球は、僕が飛び込んだのとは全然違う方向の、僕から3メートルくらい離れた場所に落ちるのもよく見えました。「うおおい!」という変な声が出ました。同時に、「はぁ!?なにやってんだよ!」と、野球部のクラスメイトが怒鳴っているのも聞こえました。

そしてどうにか急いで球を拾って投げましたが時すでに遅く、うちのチームは何点かを奪われた後でした。

「意味わからん!」と、先ほどの野球部が憤る声が聞こえました。

意味?

意味ってなんだ。俺だってわかんねえよ。太陽がまぶしかった、それだけだ。そんなカミュの異邦人みたいな反論も浮かびましたが、そんなことは一言も言えず、僕はただただそれ以上怒られないよう、俯いていました。


そんなふうに、少ない男子の中にも明確なヒエラルキーは存在していて、僕はあきらかにその最底辺のようでした。

女子には「キモい」と陰口をたたかれ、数少ない男子にも怒られる。きっと自分が招いたことなのでしょうが、その現状はすでに取り返しがつかなくて、でも親が心配するから高校を辞めて逃げ出すこともできず、あのころは息を止めるようにして、日々高校に通い続けていました。


運動ができない。その生まれ持った性質は、ただでさえ辛い高校生活にさらに暗い影を落としていました。


あれは3年の卒業間近のこと。大学も推薦で決まり、すべての単位も取り終え、ようやくこの地獄のような場所から解放されるという気持ちになっていたころ。

そんな自由登校のはずの時期に、僕を含む一部男子生徒が体育館に集められました。
そこにいたのは、学校をサボリがちだったヤンキー達と、僕のようにあまり運動が得意ではない連中でした。

そこに現れた体育教師の言うことには、
「体育の成績が悪いやつと、出席が足りてないやつへのペナルティ」
として、招集をかけたそうでした。

そうして、「バスケットボールで何分以内に何回以上のゴールを決めろ」的な課題を突き付け、
「できなかったやつは卒業させてやんねーぞ!」
と、言いました。


実際、進学も決まっている人間をそんな理由で卒業させないなんて有り得るはずもないのですが、その「卒業させてやんねーぞ!」発言は当時の僕にとってなによりも怖く、ただただその課題を果たすため、必死に体育館の中を駆けずり回っていました。

そんな僕を尻目に、出席が足りてなかったであろうヤンキーたちはやすやすとその課題をクリアしていきました。運動ができないヤンキーはあまり見たことがない。人は運動ができるとグレるのか。グレると運動ができるようになるのか。もし後者ならグレてしまえばよかった。
だって、ずるいじゃないか。僕が息を止めるようにして稼いだ出席を、そうやってやすやすとチャラにしていくなんて、ずるい以外にどう思えっていうんだ。

そして僕はといえば、どれだけ必死にやっても、全力でやっても、一度もその課題をクリアすることができませんでした。

それを見た体育教師は、
「こんくらいできなくてどーすんだ!親になったら、子供に笑われっぞ!」
という怒号を、飛ばし続けていました。


どーすんだ、って言われてもなあ。
やりたい気持ちはあるんだよ。真剣にやってんだよ。でも、できないんだよ。

いつかもし僕が親になったら、本当に僕の子供は、僕を笑うのだろうか。
そのときは、それはよくないことだって教えてあげたいよ、先生。


時はまたさかのぼり、高3の初夏。
またしても体育の授業で、嫌で仕方ないと思いながらグラウンドに出ていたときのこと。

その日もよく晴れていて、ふと見上げたその広い空の中を、なんだかよくわからない飛行物体が飛んでいました。
おそらく飛行機かなにかだと思うのですが、実態は定かでない。それを見上げていたクラスメイトたちが口々に「あれはなんだ」と言い、
そのうち、
「テポドンじゃね?」
と、誰かが言いました。


ああ、いっそそうならいいのに。テポドンが、あの日捕れなかった野球のボールみたいにこのグラウンドに落ちてきて、こんな意味もなく面倒な世界なんて、なにもかも、壊れてしまえばいいのに。
実際にそうなったら絶対に後悔するくせに、僕はぼんやりと空を見ながら、そんなことを考えていました。


よく晴れた空の中を飛んでいくその謎の飛行物体は、悲しいくらい、綺麗に見えました。

(文:善雄善雄)


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