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認知症のハッピーな一面を…「注文をまちがえる料理店」の魅力

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2019年04月07日 08:00  AERA dot.

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写真テラス席に座る女性客にランチを運んできたスタッフ。配膳も手慣れたものだ (撮影/岡田晃奈)
テラス席に座る女性客にランチを運んできたスタッフ。配膳も手慣れたものだ (撮影/岡田晃奈)
 認知症は怖い。徘徊をするし、暴言も吐く……。そんな印象を持っている人は、一度、「注文をまちがえる料理店」を訪ねてみてはどうでしょう。この店では注文をとるのも、料理を運ぶのも、接客するのも、みんな認知症の人たち。その姿を目にしたあなたは、きっとそのイメージが変わると思います。

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*  *  *
 3月10日の日曜日、花曇りのなか、1日限定で開かれたのが「注文をまちがえる豆腐屋カフェ」。場所は、神奈川県湯河原町にある町立湯河原美術館に併設するand garden。デートの途中に寄りたくなる、おしゃれなカフェテラスだ。

 いつものカフェの光景と少し違っているのは、料理のオーダーをとり、食事を運んでいるスタッフが、おばあちゃんだからだろう。しかも、このおばあちゃんはみんな認知症。料理を間違えるかもしれないし、オーダーをとったことさえ忘れてしまうかもしれない。でも、全然OK。だってお客さんもそのことは織り込み済みだからだ。

 テラス席にいた40代の女性3人組に、緊張した面持ちでオーダーをとっていたのは、スタッフのあやこさん。「注文をまちがえる料理店」のトレードマークでもある、あっかんべーと舌を出した「てへぺろ」エプロンがとても似合う。

 このカフェでは、スタッフがオーダーのとり方を忘れないように、テーブルの上にはメニューが書かれたオーダー表が置かれている。スタッフはメニューにチェックをするだけだから、間違えず、かつ簡単にオーダーが通る。

 だが、それも慣れていないあやこさんには難しそう。戸惑っていると、3人組の一人がオーダー表を受け取り、代わりに書き始めた。「これで、大丈夫!」。

 あやこさんは「ありがとう」と満面の笑みを見せ、手渡されたオーダー表を持って厨房(ちゅうぼう)へ向かった。そんなあやこさんの後ろ姿を見ていた女性たちも顔をほころばせる。実は3人は福祉関係者で、チラシを見て興味を持ったという。

「施設にいると、あんな笑顔は見られない。ここにいると、こちらもなんだかうれしくなります」

 昼どきだったこともあり、カフェは大盛況。40代の女性は夫と70代の母親と一緒に熱海から来た。「認知症の人でもこうやって働ける。それにびっくりですし、ほっこりしますね」とほほえむ。店内には、お冷やをつぐために席をまわるしっかり者のスタッフもいれば、空いている席に座って、お客さんと談笑するスタッフもいる。「それでもいいんじゃない」。店内はそんな温かな雰囲気だ。

 地元で「注文をまちがえる料理店」を開きたい。グループホーム乃えんを運営する川井悠司さんがそう思ったのは、半年ほど前のこと。直後に豆腐料理店・湯河原 十二庵の代表、浅沼宇雄(たかお)さんとつながり、「豆腐屋カフェ」が誕生した。

 スタッフは5人1チームとなり、1時間半ずつ働く。今回は71歳から94歳まで(たまたま全員女性)の18人が集まった。

 メンバーは川井さんの関係する施設から募ったほか、同県小田原市や湯河原の介護施設に協力を求めた。雇用契約を結び、報酬も支払う。一方で万全を期して、スタッフ1人に対して介護職員とボランティアが1人ずつ付いた。

 もちろん、カフェとして運営するからには、お金を払ってくれるお客さんに満足してもらうことが大前提。「豆乳スープセット」など、飲みものを含めて10種類。ランチは浅沼さんがオリジナル料理として考案した。

 川井さんは言う。

「最初は緊張もあってこわばっているんですが、それがどんどんほぐれて、笑顔になっていって。お客さんが醸す空気もあって、“今ここで働いている”ことを、少しずつ実感していったようです」

 浅沼さんはカフェの入り口に立って、お客さんに説明する係を担当した。

「多くはチラシなどを見て来てくださった方ですが、なかにはふらっと立ち寄った人もいて。趣旨を説明すると、『え? 何、それおもしろそう』と。そのまま帰った人は一人もいなかったです」

 来客数は、主催者側の予想を大きく超えて、250人あまり。浅沼さんが発信したSNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)にも、大きな反響があった。手応えを感じた川井さんは意気込む。

「できれば認知症の人たちがいつでも働ける場、居場所を作りたい。今度は常設カフェを目指します。Tシャツもエプロンも作ってしまいましたしね(笑)」

 そもそも、「注文をまちがえる料理店」という一風変わった店は、当時NHKのディレクターだった小国士朗さんが、番組づくりのなかでグループホームに暮らす認知症の人たちと出会ったところに端を発する。

「グループホームでお昼をいただくことになって。昼食はハンバーグと聞いていたのですが、出てきたのはなんと“餃子”。ひき肉は使っているけれど、全然違うじゃんって(笑)。でも、誰一人それを気にせず、おいしそうに食べているんですよね」(小国さん)

 その場にいる人が受け入れれば、間違いは間違いじゃなくなる……。そのときにひらめいたのが、このネーミングと企画だった。それが2012年のこと。5年後の17年にはアルツハイマーデーを前に3日間にわたって「料理店」を開催し、大きな話題となった。

 小国さんがまいた種は、この思いに共感する人たちに瞬く間に届き、国内どころか世界で芽を出し、花を咲かせつつある。国内では湯河原のほか、京都や岡山の倉敷、東京の町田などでも開かれ、韓国や英国などでも試みられている。3月には厚生労働省の職員用食堂でも同様のイベントがあり、議員らも立ち寄った。

「僕らメディアの責任もあるけれど、認知症というと『徘徊』とか、『暴言』とか、そういうネガティブなイメージが強い。確かにそういう一面もあるかもしれませんが、話すと楽しい、おもしろいという一面だってある。僕らのような素人がこういう形で認知症の人と出会えたら、ハッピーだと思うんですよね」(同)

 認知症の人を働かせて見せ物にしている……。そんな声がないわけではない。「まちがえる料理店」というネーミングにも眉をひそめる人たちもいる。だが、湯河原で豆腐屋カフェを主催した川井さんは言う。

「“間違える”という部分だけ切り取ってしまえば、誤解が生まれるかもしれません。でも、趣旨を理解したお客さんがスタッフの立場に立って、ときに手を差し伸べ、ときに温かい表情で見守る。多くの人たちにあのスタッフの表情や店の雰囲気を見て、感じてもらいたい」

 豆腐屋カフェのスタッフの一人、洋子さんは戦時中に生まれ、若いときには病院の食堂で働いていた。

「人と接することはとてもいいことだし、いろんなことを学べる。今日はちょっと疲れましたが、(働きに)来てくださいって言われたら、またやりたいわ」

(本誌・山内リカ)

※週刊朝日  2019年4月12日号

このニュースに関するつぶやき

  • 認知症でも、働き口があるだけまだまし。父は、些細な事も憶えられない、喋れない、感情の制御が出来ない…。年金が貰えている方なので、国から不当に税金ぼられてる…。本当に、悔しいです。
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  • じいちゃんばあちゃんと同居で育った身だから、こういう取り組みは素晴らしい話だと思う。けど、心にゆとりを持てない方は行かない方がいい。間違いを受け入れるのはある意味我慢するという事。
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