バーレーンGP予選で手痛いミス。大混戦の中団グループを戦う上で必要なこと/トロロッソ・ホンダF1コラム

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2019年04月09日 12:21  AUTOSPORT web

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2019年F1第2戦バーレーンGP決勝 ダニール・クビアト(トロロッソ・ホンダ)
トロロッソ・ホンダにとってバーレーンは1年前に4位入賞という快走を見せた思い出の地だ。今年もその再現がなるか。速さは見せながらもやや不完全燃焼に終わった開幕戦の後だけに、幾ばくかの期待感があったことも事実だ。

 しかし今年のトロロッソSTR14は昨年型マシンとは特性が大きく異なる。完全なオリジナルシャシーだった昨年型とは違い、STR14はレッドブルRB14の空力をベースとしたマシンだからだ。

 それゆえにチーム内ではポジティブな雰囲気と同時に慎重な見方もあった。特に経験者であるダニール・クビアトは慎重だった。

「毎年状況は違うものだし全てはゼロからの再スタートだからね。もちろん去年のことは心のどこかにあるけど、コピー&ペーストで今年も速く走れるほどF1は甘くはないよ。コンディションとかいろんなことが去年とは違うし、今年は今年で今の自分たちに合わせた作業をしていかなければならない。去年が良かったから今年も無条件で良いなんてことはないんだ」


 金曜はスムーズにプログラムをこなし、レースペースは上位勢に匹敵するほどの速さと良好なデグラデーション比率を見せた。

 だがレース週末の中で最も肝要なのは予選だった。

 かつてないほどにタイトな中団グループの中では、0.1秒の違いで順位が大きく変わり、0.3秒もロスすれば中団トップから一番下まで落ちてしまうほどに激しい戦いが繰り広げられている。つまり、どんなドライバーでもどんなマシンでも、Q2で完璧なアタックができなければ予選結果はQ3進出から15番手までいかようにも変わりうるということだ。

 そして、実力差がほとんどないがために決勝でもその順位をひっくり返すことは難しくなる。

「中団グループはスーパータイトだから、予想は難しいね。僕の前も後ろも、7位から最後尾までものすごくタイトだからね。それが明日どうなるかなんて、誰にも分からないよ。とにかく落ち着いてマシンを少しでも速くインプルーブさせるために今夜ハードワークをするしかないんだ。どのチームも同じようにそうやって明日に向けて努力してくるだろうからね」

 3回のフリー走行の全てで10番手以内のタイムを記録していたクビアトは、予選に向けての見通しをそう語っていた。

 しかし予選ではクビアトが危惧した以上のことが起きてしまった。

「タイヤを交換する時間はある?」

 Q2最後のアタックに出ていったクビアトは無線でチームに問い合わせた。

「残念ながら時間はもう無いよ」


 コースインしたクビアトのマシンにはQ2最初のアタックで使用した中古タイヤが履かされていた。これではタイムアップは望めず、クビアトは仕方なくアタックを断念してピットに戻り、15位Q2敗退が決まった。

「一体どういうことなんだ!?」

 1年ぶりに現役復帰したクビアトは精神的に大きく成長し、以前とは比べものにならないほど冷静で大人なアプローチを採ることができるようになった。しかしこの時ばかりはさすがに感情の高ぶりを抑えることができなかった。レース週末の中で予選が最も重要であることは、開幕戦の予選でも学んだはずのことだったからだ。

 予選直後の取材対応でも苛立ちは抑えられない様子のクビアトだったが、それでも直接的なチーム批判になるような詳細を語ることはしなかった。

「あれはオペレーションの問題だよ。詳しいことは僕に聞かないでくれ。(タイヤが足りなかった?)そうかもしれないし、そうではないかもしれない。オペレーションの問題がなければ普通にアタックできていたんだけどね」

 通常、レースエンジニアからインターコムを介してマシンに装着すべきタイヤのセットナンバーがメカニックに伝えられ、ガレージ内のタイヤ保管場所から運び込まれたタイヤがマシンに装着される。エンジニアが誤ったセットナンバーを伝えてしまったのか、聞き間違いがあったのか、タイヤを運んだタイヤマンがミスをしたのか、その詳細は明らかではない。

 いずれにしてもタイヤはガレージから出る直前までタイヤウォーマーを被っており、その中身は目視できない。しかし出ていく瞬間に新品か中古かくらいは分かったはずだ。

 タイヤウォーマーにはセットナンバーが表記されているため、それをきちんと見て理解していれば、間違いに気付くことができるのだ。そして、コースに送り出す前に気付いて新品に交換していれば、時間内にタイムアタックすることは可能だったはずで、トロロッソ・ホンダの実力からすればQ3進出の可能性も充分にあったはずだ。

 タイヤの装着ミスが起きたことだけでなく、ガレージ内には何十人ものスタッフがいたにもかかわらず、すぐにミスに気付かなかったこと、もしくは気付いていたとしてもレースエンジニアに報告が行かなかったことは、組織としての弱点だ。バーレーンGPでの好結果は、このミスによって失われたと言っても過言ではなかった。

 クビアトもアレクサンダー・アルボンも決勝では中団グループの集団の中でのレースを強いられた。しかし前がクリアになった時には上位勢にも匹敵する速さを見せた。


 12周目のアントニオ・ジョビナッツィとの接触によってコースオフとパンクで約15秒を失い、さらにピットスピード違反で5秒加算。これがなければ入賞圏を争うことも可能だったが、ジョビナッツィとの接触は全く予期せぬものだったとクビアトは語る。

「正直なところ、彼とポジションを争っていたわけではないし、僕はあの時タイヤのタレに苦しんでいたから、彼に対してドアを閉じることもしなかったし、僕は彼と争ってタイムロスをするのもイヤだしさっさと抜いて行ってくれと思っていたくらいなんだ」

「彼を先に行かせるために、早めにブレーキングをしてドアを開けたままターンインしていったんだからね。1台分のスペースは残していたんだけど、彼にはそれでも充分じゃなかったんだろうね。なんで彼がオーバーテイクせずに僕のクルマに突っ込んできたのか、こっちが知りたいくらいだよ(笑)」

 アルボンは安定した走りで9位入賞を果たしF1初ポイントを獲得したが、早めに2回目のピットストップを行なって3台をアンダーカットすることに成功した戦略と、ルノー勢の2台がリタイアという幸運にも助けられた。

 しかしトロロッソ・ホンダの実力を考えれば9位2ポイントというのはまたしても不完全燃焼のレース週末だったと言わざるを得ない。予選の致命的なミスさえなければ、もっと良いレースができていたはずだ。

 大混戦の争いの中では、レース週末を完璧にクリーンに過ごすことが何よりも重要になる。今年のトロロッソ・ホンダにはまだそれができていない。それが果たせたとき、トロロッソ・ホンダには中団のトップに立てるだけの力はあるはずだ。

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