『コーチェラ』に感じた時代の変化 ビリー・アイリッシュ、BLACKPINKら1週目ステージ振り返る

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2019年04月21日 08:01  リアルサウンド

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 今年も『コーチェラ・フェスティバル』(以下、コーチェラ)が、アメリカ・カリフォルニアで開催され、例年通りその模様がYouTubeで世界中にストリームされた。2週に渡って催されるフェスティバルの1週目を通して得た発見、今後のシーンへのインパクトについて展望したい。


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 アルバム『DAMN.』を披露した2017年のケンドリック・ラマー、パフォーマンスがつい先日Netflixで映画化されたばかりの2018年のビヨンセなど、その年のシーンの動きに大きな影響を与える意味でもより重要なイベントとなったコーチェラフェスティバル。とりわけフェミニズムやブラックカルチャーの多様なルーツなどを引用した大掛かりな後者は”ビーチェラ”と呼ばれ、各メディアで「歴史的」と大絶賛を浴びた。「ビーチェラを超えられるか?」そんなプレッシャーを背負いながらも気合いの入ったポップアーティストたちのステージにまず圧倒された。


 一日目のヘッドライナーを務めたチャイルディッシュ・ガンビーノは、ドナルド・グローヴァー名義での俳優、コメディアン、脚本家も含めたマルチエンターテイナーぶりを武器にすることで、ビーチェラに劣らない興奮を届けた。“ここはコンサートじゃない。俺のチャーチだ”と宣言し、「This is America」のMVで見せていた狂気的な目つきで会場の雰囲気を制圧すると、多数の楽曲を披露したアルバム『Awaken, My Love!』のファンクネスも相まってスピリチュアルな空間を演出した。


 驚きはストリームされた映像のクオリティだ。観衆にスマートフォンを下げさせる代わりに、まるで映画のようなカメラワークでガンビーノの背中を追うカメラは、興奮と感動を増大させた。また、フェス中には自身が製作・主演を務める映画『Guava Island』を公開。キューバで撮影され、トロピカルテイストの強い昨年のシングル「This is America」、「Summer Park」を大々的に使うことで、映画だけでなく、次のアルバムへのヒントまで匂わせていた。総じてガンビーノにしか出来ないやり方で週末を制したといえる。


 そして、今年のコーチェラの影の主役だったのはビリー・アイリッシュだろう。パフォーマンス中鳴り止まなかった悲鳴のような熱狂に、数週間前に発表したばかりのデビューアルバムの楽曲でさえ起こってしまう大合唱。その異様な雰囲気は、強く影響を受けたというダークポップの先輩、ラナ・デル・レイのライブを連想させた。しかし、ラナと違って、ビリーはそこにロックやヒップホップ的な迫力、ハードさを一緒くたに加えた上で、ハイとロウを行き来する。そのローラーコースター的なスリルは、歌詞と共にティーンの心象を体現しているかのようだったし、このファンダムの熱も含めて完結するからこそビリーは正真正銘のポップスターなのだと思えた。また、宙吊りになって傾いたベッドの上で「bury a friend」を歌った演出には驚いたが、きっとそれも今後スケールが大きくなっていく過程の序章に過ぎないはず。今年アリアナ・グランデが25歳にしてヘッドライナーを飾ったことで「最年少」となったが、数年後に必ずビリー(現在17歳)がその記録を大きく更新するはずだ。


 また、今年のコーチェラを通して感じた一つのテーマとして「ポジティブなムード」を挙げておきたい。最終日のヘッドライナー、アリアナ・グランデはラストの「no tearslLeft tocCry」、打ち上がる花火とレインボーフラッグをバックにした「thank u, next」で3日間のフェスティバルを讃えた。初日にガンビーノの直前に登場したジャネール・モネイも、ブラックウーマンの視点に、アルバム『Dirty Computer』のコンセプト=“多様性の祝福”を重ね、ビーチェラとリンクしながらも時代を前に進めた。さらにジャネールのステージにも登場し大柄な体でトゥワークしたリゾは若手の中でのその象徴だ(コーチェラで彼女を知った人は是非「Juice」のリリックを読んでみてほしい)。


 そんな「ポジティブなムード」のほかに時代の変化を感じさせたことは、非英語圏のアーティストたちの活躍だった。例えば、J.バルヴィンとバッド・バニーがメインステージに持ち込んだレゲトンパーティ、スペインのロザリアであればフラメンコ、フランスのクリスティーン&ザ・クイーンズであればジャズダンスを織り交ぜた情熱的なステージはハイライトと呼ぶにふさわしい。他にもアフリカ・ナイジェリア出身のMrイージーやバーナ・ボーイ、チリのモン・ラフェルテ、The 1975と共演したフィリピンのノー・ロームなど挙げればきりがない。だが、中でも一番の衝撃はK-POPグループの歴史的デビューとなった、BLACKPINKのパフォーマンスだろう。


 そもそもフェスの前の週に、マーチングを取り入れたサウンドや女性の隊列を使ったMVの演出でビーチェラを意識したシングル「Kill This Love」を発表したことからもコーチェラへの相当な気合が伝わって来ていた。直近のツアーでお披露目され始めたという生バンドの迫力はもちろんのこと、マイクを通してもいつもの何倍もの熱量がメンバーから伝わってきた。ビリー・アイリッシュに劣らぬ観衆の熱狂ぶりも後押しし、以前実際にライブを見たことのある私でさえ、画面を通してこれまで以上にグループの魅力に圧倒された。


 普段はアメリカのメインストリーム音楽の中で「ユニークなもの」として受け入れられがちなこれらのアーティストの表現が、ヘッドライナー級のアーティストと変わらぬ熱狂を当然のように受けていた今回のコーチェラはとても感動的だった。近い将来、この中からヘッドライナーを飾るアーティストが出てくるのも時間の問題だろうし、そればかりか非英語圏アーティストによる表現こそがシーン全体の動きをリードするようになったって驚きはない。世界中にローカルシーンの魅力をアピールした今回のコーチェラでこれらのアーティストの功績はとても大きい。この原稿を書いている途中で2週目のストリームアーティストとして発表されたPerfumeのステージでは何が起きるだろうか。(山本大地)


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