Helado Negro、アレックス・リリー……オルタナティブな音楽性を持った新世代SSW新譜5選

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2019年04月21日 11:11  リアルサウンド

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 今回はオルタナティブな音楽性を持った、新世代シンガーソングライターの新作を中心に紹介。


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 まずは、フロリダ出身で現在はNYを拠点に活動するロベルト・カルロス・ラングのソロユニット、Helado Negroの『This Is How You Smile』から。これまでPrefuse 73やSavath & Savalasの作品に参加し、ジュリアナ・バーウィックとOmbreというユニットを結成するなど様々な場所で才能を発揮してきたラング。電子音楽系レーベル<RVNG Intl.>からリリースされた本作では、アンビエントなシンセを下地にして、打ち込みやギターなど必要最小限度の楽器を加えたミニマルなサウンドに、呟くような歌声が乗る。音の余白や歌の間合いが絶妙だ。ロベルトはエクアドルの血を引いていて、メロディに南米のエキゾチックな香りが漂うのも特徴のひとつ。デヴェンドラ・バンハートや細野晴臣にも通じるトロピカルダンディーぶりを発揮したアルバムだ。


 これまでUn Blonde名義で活動してきたモントリオールのシンガーソングライター、ジャン・セバスチャン・オーデットが<ANTI- Records>に移籍。名前をイヴ・ジャーヴィスに改名して発表したのが『The Same But By Different Means』だ。宅録っぽい生々しいサウンドのなか、キーボードやハーモニカがヴィンテージな風合いを醸し出すソウルフルでフォーキーな歌。そこに奇妙なノイズやエフェクト、フィールドレコーディングした音源などを織り交ぜて不思議な浮遊感を生み出すなか、切なげなウィスパーボイスが語りかけてくる。官能的でサイケデリックな歌の世界は、レニー・グラヴィッツの魂を持ったアリエル・ピンクのようでもあり、気がつけば何度も聴いてしまう中毒性が高い一枚。


 LAのシンガーソングライターで、ベックのバンドでキーボーディストとしても活躍するアレックス・リリー。1stアルバムとなる本作は、彼女の親友のイナラ・ジョージ(The Bird and the Bee)が立ち上げたレーベル<Release Me Records>からのリリースだ。ゲストには、ビートミュージック界のベテラン、Daedelusやジェイコブ・バーコヴィッチ(The Voidz)らが参加。エレクトロニックなサウンドをベースにしながら、クラシックからダンスミュージックまで様々な要素が盛り込まれていて、ロマンティックなメロディと実験的なポップセンスが絶妙なバランスで融合。ベックやSt. Vincentに通じるアート色の強いサウンドを生み出している。


 かつてはサイケデリックな音楽集団・Jackie-O Motherfuckerの一員として活動していたナタリー・メーリングのソロユニット、Weyes Blood。最近ではFather John Misty、アリエル・ピンク、Perfume Geniusなどの作品に参加して注目を集めてきた彼女の新作は、名門サブポップに移籍しての第一弾。本人は本作を「ボブ・シーガー meets エンヤ」とコメント。これまでのシンセ中心のサウンドから、生演奏を加えた重層的でスケールの大きなサウンドに変化。少女時代に聖歌隊で歌っていたという彼女の優美で神秘的な歌声を彩り豊かに支えている。そして、ノスタルジックでありながら、どこに着地するかわからない不思議なメロディにも磨きがかかった本作は、間違いなく現時点の彼女の最高傑作だ。


 オルタナカントリーバンド、Rilo Kileyのボーカルとしてキャリアをスタート。2006年からソロ活動をスタートさせたジェニー・ルイスの5年振りの新作は、リンゴ・スター、ベック、ライアン・アダムス、ドン・ウォズ、ジム・ケルトナーなど錚々たるアーティストがバックアップ。腕利きミュージシャンたちによるバンドサウンドを軸に据えて、細部まで磨きあげたプロダクションは、今回紹介した作品のなかでも群を抜くリッチさだ。そして、ルーツミュージックに根差したソングライティングも円熟味を増すなか、歌声には妖艶さも加わって、オルタナ世代のスティーヴィー・ニックスみたいな風格も感じさせたりもして。セクシーでありながらも媚びたところを感じさせないジャケットのデザイン同様、堂々たる仕上がりだ。ジャケットでは切れている顔は、きっと満面の笑顔に違いない。(村尾泰郎)


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