ジャニーズのバーチャル進出は本当に必要なのか?配信を見て考えてみた

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2019年04月22日 20:20  CINRA.NET

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バーチャルジャニーズ・苺谷星空による2019年2月19日のSHOWROOM配信画面
ジャニーズ事務所とSHOWROOMによる「バーチャルジャニーズプロジェクト」。2月19日に初の配信を実施してから、ちょうど2か月が経過した。

バーチャルジャニーズプロジェクトは、ジャニーズ初のバーチャルアイドルをデビューさせるもの。オリジナルのバーチャルキャラクターによる動画生配信をSHOWROOMでほぼ毎日(!)実施している。

プロジェクトの第1弾としてデビューしたのは、関西ジャニーズJr.内のユニット「なにわ男子」の藤原丈一郎が扮する「海堂飛鳥」、大橋和也が扮する「苺谷星空」の2名。どちらも「普通の学校に通いながらもアイドル活動に励む高校生」という設定だ。キャラクターデザインはヤマコ(HoneyWorks)が務めた。彼らのマネージャーである高校生「前田くん」というキャラクターもいる。

プロジェクト発表当初は「なぜジャニーズがわざわざバーチャルキャラクターを使う必要があるのか」と疑問視する声もあった。本当にジャニーズがバーチャルキャラクターを使うことには意味が無いのだろうか? 実際に配信を見て考えてみた。

■そもそもバーチャルキャラクターとは? VTuberを知らない人向けに解説
バーチャルYouTuber(以下VTuber)の動画や生放送を見たことがない人のために、どんなものか一応説明しておきたい。VTuberのアバターは通常、モーショントラッキングを用いて身体の動きや表情をある程度同期させることが可能で、一般的に演者は声と動きを担当する。VTuberの説明として「デジタルなきぐるみ」「デジタルなゆるキャラ」などと表現されることもあるが、声優であり、意思をもった演者でもあるという、いわゆる「中の人(VTuber界隈では「魂」と呼ぶこともある)」が存在するという側面を見れば、たしかにこれはわかりやすいたとえだ。

VTuberが担っているのは必ずしも「中の人」としての役割だけではないのだが、それはのちに改めて説明するとして、バーチャルジャニーズの話に戻そう。

■海堂飛鳥と苺谷星空、最初から「ちゃんとしたVTuber」をこなすリアルアイドルのすごい底力
藤原丈一郎が扮する「海堂飛鳥」と大橋和也が扮する「苺谷星空」。それぞれの初回配信を見た率直な感想は、プロのアイドルに対してはやや失礼ではあるが、「すごい、ちゃんとしている」というもの。彼らは最初からちゃんと「VTuberの生配信」ができていた。トークもちゃんとできるし、視聴者のコメントもちゃんと拾うし、VTuber独特のロールプレイ(キャラクター設定にあわせたトークを展開すること)もちゃんとできる。本職のタレントなのだからできて当たり前、といういじわるな見方もできるが、やっぱり最初から「ちゃんとできる」のはすごい。本田翼のゲーム実況配信を見たときも感じたけれど、物怖じしないトーク力や対応力は、さすが芸能人という感想を抱かせるものだった。

生配信時の視聴者によるコメントはどうだったのかというと、一部には困惑も見られたが、ちゃんとそれぞれのキャラクター名で呼びかけていたし、「普通の学校に通いながらもアイドル活動に励む高校生」という設定に沿った内容。フィクションだとわかりきっている設定をあえて遵守することで生まれる、「VTuberと視聴者の共犯関係」とでも言うべき関係がちゃんと生まれていた。

スタート直後の配信では数万人の視聴者を集め、世界トップクラスの視聴者数を誇っていた彼ら。現在は勢いがやや落ち着いてきたものの、毎回数千人の視聴者が集まるし、ファンとの幸福な繋がりは俄然濃くなっている印象を受けた。

■「ジャニーズにバーチャルは必要?」その疑問に対するとりあえずの結論
そんな「ちゃんとした」VTuberとしての配信を日々行なっているバーチャルジャニーズだが、「なぜジャニーズがわざわざバーチャルキャラクターを使う必要があるのか」という問いにはどのように答えるべきなのだろう。

筆者の答えは、「絶対に使わなければいけないようには思えないが、面白い」。彼らは本職のアイドルなのだから、実際の容姿を晒すことにデメリットはないし、基本的にはファンも彼らのリアルの姿が見たいだろう。アバターは要不要でいえば、不要である。不要だが、面白い。アバターを介したファンとの双方向コミュニケーションの新鮮さ。それに初めて触れる視聴者の反応。ジャニーズがこれまで出遅れていたネットメディアへの進出も容易になるだろう。加えて、リアルな姿を隠すことで生まれる豊かさもある。必要ではないが、新しくて、楽しいものだ。

■たんなる「中の人」だけではないVTuber、その自由なあり方
VTuberが担っているのは、演者たる「中の人」としてだけではないと先に書いたが、その点について補足しよう。VTuberは企画や動画編集を自分で担当するケースが多いし、世界観の設定やキャラクターデザイン、3DCGのモデリング、BGM制作などを自ら手掛ける人も少なくない。DIY精神に溢れる界隈なのだ。配信やSNSなどでの発言もそれなりに自由である。企業が運営していない、いわゆる「個人勢」のVTuberたちは特にこういった傾向が強く、彼らの自由な振る舞いや企画もVTuber界隈の魅力の1つである。

ほとんど不文律のように、頑なに「中の人」が明かされない点もVTuberの特徴の1つだ(もちろん例外もある。秋元康がプロデュースするデジタル声優アイドル「22/7」など)。匿名的な存在である「中の人」と視聴者は、一般的なタレントとファンというよりは、一種の仲間意識によって結びついているように見える。それは現実のルッキズムやエイジズム、セクシズム、そして「人間」という枠組みからも一時的に解放されうる、自由なコミュニケーションのあり方の可能性の1つなのだ。

バーチャルジャニーズでは、こういった既存のVTuberが備える魅力は残念ながら半減している。しかし安定したトークや振る舞い、そして「中の人」がわかっているという安心感は、バーチャルキャラクターに触れたことがない人にとって、絶好の入り口になるだろう。現在は女性キャラクターのVTuberが主流だが、男性キャラクターの需要を掘り起こすきっかけにもなるかもしれない。

■ジャニーズのバーチャル参入はアバターコミュニケーションにどんなインパクトを残すか?
2月21日に配信された「Mogura VR」の記事によれば、VTuberの数は7000人を突破したという(「VTuber、7,000人を突破」https://www.moguravr.com/vtuber-7000/)。手軽にバーチャルアバターを作成できる「カスタムキャスト」「Vカツ」「エモモ」といったアプリがリリースされていることも裾野を広げる一因となっている。

カメラアプリ「SNOW」で知られる韓国のSnow Corporationでは、自分そっくりの3Dアバターを作成できるアプリ「ZEPETO」を配信。K-POPグループのBTSのアバター「BT21」とのコラボレーションでも人気を集めている。アップルのiOS 12には自分のアバターを作成し、インカメラを使用して実際の表情にあわせて動かすことができる「Memoji」という機能が搭載されているが、これもアバターを介したコミュニケーションの一種である。

バーチャルジャニーズの登場は、エンターテイメントの歴史にどのように刻まれるだろう? それは現在注目を集めており、今後も発展が見込まれるバーチャルアバターを介したコミュニケーションという大きな文脈で捉えたとき、強烈なインパクトを持った出来事だったと記憶されるに違いない。
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