『アベンジャーズ/エンドゲーム』への期待 MCUの一大シリーズ10年の歩みを総括する

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2019年04月23日 16:01  リアルサウンド

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 思えば遠くへ来たもんだ……。武田鉄矢も裸足で逃げ出す巨大プロジェクトが、まもなく初めての“一区切り”をつけようとしている。『アベンジャーズ/エンドゲーム』(2019年)だ。マーベル・コミックの世界を完全映画化するプロジェクト、いわゆるマーベル・シネマティック・ユニバース(MCU)が始まったとき、まさかこんなことになるとは思わなかった。今やマーベル、ひいてはアメコミのファンは数十年前とは比べものにならないほど増えた。ここ日本でもマーベルのグッズをそこら中で見かける。大げさかもしれないが、世界が変わったとすらいえる。スタッフでもないのに感無量、私は客として観ていただけだが、やりきった気持ちで一杯だ。そんなわけで今回はMCUの足跡を総括しつつ、『エンドゲーム』への期待を書いていきたい。


参考:『アベンジャーズ/エンドゲーム』公開直前! 過去作を振り返りながら見どころを徹底解説


 すべての始まりはゼロ年代まで遡る。あの頃は、ちょうどスーパーヒーロー映画がドル箱ジャンルとなりつつある時代だった。サム・ライミ版の『スパイダーマン』(2002年)シリーズ、そして『ダークナイト』(2008年)旋風が巻き起こるなか、マーベルも自社ブランドで映画を作り、クロスオーバーさせるMCU構想をブチ上げる。初手に当たるフェーズ1で、MCUはいきなり大胆に仕掛けた。『アイアンマン』(2008年)と『インクレディブル・ハルク』(2008年)を同年に公開したのである。しかも映画の内容も非常に挑戦的で、何はさておきロバート・ダウニー・Jr.がトニー・スタークを演じることに驚いたのを覚えている。今でこそ彼以外は考えられないほどの当たり役だが、当時のダウニーは薬物問題を抱えており、経歴も非アクション映画が圧倒的に多く、まさかアイアンマンになるとは予想しなかった。ところが蓋を開けてみれば……ご存知の通り、今やダウニーはMCUの顔である。


 もちろん全てがうまくいったわけではない。『インクレディブル〜』でハルクを演じたエドワード・ノートンや、『アイアンマン』でローズを演じたテレンス・ハワードは諸般の事情から降板した。それにバナー博士がヒクソン・グレイシーに教えを乞うくだりなど、今だとあまりないかもしれない(つまりMCUにはヒクソンがいるのだ。サノスと戦わせろ)。そして正直に言うと……この頃、私はまだクロスオーバーが実現すると本気で思っていなかった。2つの作品にはエンドロール後の繋がりがあったものの、それは『プレデタ−2』(1990年)の宇宙船にエイリアンの骨があったようなもので、ある種の小ネタとして終わってしまうのではないかと捉えていたのだ。しかもアメリカでは『アイアンマン』→『ハルク』の順で公開されたのに、日本では『ハルク』→『アイアンマン』と逆に公開された。日米で公開時期はズレるものだが、逆になるというのも珍しい。今では絶対にありえないが、当時はそういう時代だった。


 しかし、私の勝手な心配をよそに『アイアンマン』『ハルク』はどちらも成功、マーベルは順調にフェーズを進めていく。まずは安定の続編モノ『アイアンマン2』(2010年)、次は宇宙の領域まで話がスケールアップする『マイティ・ソー』(2011年)、「アベンジャーズ」の原点となる『キャプテン・アメリカ/ザ・ファースト・アベンジャー』(2011年)を発表。宇宙の彼方に住む神様と、第二次大戦時の改造人間という振り幅が広いにも程がある2作を立て続けに成功させた。この頃になって、ようやく私は確信した。もしかして本当にクロスオーバーが実現するのではないか。それも最高の形で……。


 この期待はフェーズ1の最終段階、つまり2012年の『アベンジャーズ』で見事に叶えられる。ソーで登場した悪役ロキがニューヨークを襲撃し、それまで「主役」を張っていたキャラクターが一致団結して戦う。シンプル極まりない話だが、何せ全員が主役なのだ。しかも、それぞれ別の監督が手がけた作品の。『アイアンマン』の監督であるジョン・ファヴローはコメディ畑の出身、『インクレディブル〜』のルイ・レテリエはリュック・ベッソン門下のアクション畑、『キャプテン・アメリカ』のジョー・ジョンストンはSF畑で、『ソー』のケネス・ブラナーはシェイクスピア作品を得意とする。傾向も何もかもがバラバラだ。ところがジョス・ウェドン監督は、何人もの監督が作り上げた作品世界を受け継ぎつつ、個性的な主人公たちを見事にまとめ上げ、魅力的に描いてみせた。『アベンジャーズ』は最初から最後まで大騒ぎのお祭り映画に仕上がり、世界中で大ヒット。集結したアベンジャーズの周りをカメラがグルグル回ったとき、それは数年間に渡る物語が結実した瞬間でもあった。ついでに言うと「日本よ、これが映画だ」というデカすぎる惹句は良くも悪くも話題となり、今なお「日本よ、これが〇〇だ」とパロディの定番になっている。映画が終わったとき、素直に「最高の最終回だ」と感心した。ここで終わってもいいと思ったが……。しかし、MCUは終わらなかった。ここから先が、いわゆるフェーズ2である。


 フェーズ1の段階でMCUは過去に類を見ない映画だった。それを超えるのは並大抵のことではない。おまけにシリーズ映画のジレンマ、一見さんお断り感やマンネリ化といった問題もある。この問題はもちろんつきまとったが、ところがどっこい、MCUは新たな人材を得て勢いを増すことに成功した。のちにMCUのキーパーソンとなるルッソ兄弟、そしてジェームズ・ガンの加入だ。フェーズ2の重要作といえば、恐らく『キャプテン・アメリカ/ウィンター・ソルジャー』(2014年)と『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』(2014年)になるだろう。ルッソ兄弟が手がけた前者は、過去作を踏まえながら、香港も真っ青の格闘アクションで観客を魅了。MCUの過去作品どころか、単体のアクション映画として極めて高いレベルの作品に仕上がった。ガンが監督した後者は、魅力的なキャラクターたちの大冒険をMCU史上、最もユーモラスに描きスマッシュ・ヒット。とりわけ後者は、今までのMCUとは関わりの薄い世界観を舞台にしたのも功を奏し、いわばシリーズへの“入口”としても機能した。そして再びのお祭り映画『アベンジャーズ/エイジ・オブ・ウルトロン』(2015年)と新キャラクター『アントマン』(2015年)を経て、フェーズ2を終えた。フェーズ1〜2を支えたジョス・ウェドンはマーベルを離れたものの、代わりにルッソ兄弟がシリーズのキーパーソンとなってゆく。


 そしてやってきたのがフェーズ3、これが現在進行形の段階だ。フェーズ3の作品はどれもこれもフェーズ1〜2以上に複雑に絡み合っている。フェーズ3の1作目に当たる『シビル・ウォー/キャプテン・アメリカ』(2016年)は、事実上の“アベンジャーズ2.5”というべき内容だ(逆にいうと、この映画を観ておけばフェーズ3の大まかな内容は把握できる)。『ドクター・ストレンジ』(2016年)や、前作同様に既存の世界観との繋がりが薄い『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー:リミックス』(2017年)は敷居が低いが、『スパイダーマン:ホームカミング』(2017年)、『マイティ・ソー バトルロイヤル』(2017年)、『ブラックパンサー』(2018年)、『アントマン&ワスプ』(2018)といった作品は、ある程度の予備知識が必要であることは否定できない。


 しかし、それぞれ個性的な監督が単体の作品としても楽しめるように工夫しており、特に『マイティ・ソー バトルロイヤル』は過去最高の作品と言えるほどの快作に仕上がった。そして情報量が増して敷居が高くなりすぎる直前、マーベルは『アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー』(2018年)という衝撃作を発表。全てのキャラクターに見せ場を用意しつつ、MCUを最初から追いかけてきたファンから、いくつかは観ているというお客さん、これが初MCUですという一見さんまで、観客全員に「これどうなるんだよ!?」と思わせる強烈なクリフハンガーを用意したのだ。普通なら広がりすぎた風呂敷を畳もうとするものだが、ここに来てさらに風呂敷を広げた。おまけに物凄く綺麗な形で。まさに神がかり的なセンスと度胸である。


 今、観客の目の前には、映画史上かつてないほど広がった風呂敷がある。プロデューサー、監督、キャスト、スタッフ……関わった人間を数え始めるとキリがない。世界中の豊かな才能を持った人々が、10年かけて広げてきた巨大な風呂敷だ。これをいったいどう畳むのか? もはや「映画」という以上に、一つのプロジェクトとして『アベンジャーズ/エンドゲーム』が楽しみで仕方ない。世代のせいか、この原稿を書く私の頭の中では中島みゆきの「地上の星」が流れている。あと数日後には、これが「ヘッドライト・テールライト」になっているはずだ。もちろん世の中に絶対はない。悲しい結果になってしまい、同じ中島みゆきでも「時代」が流れている可能性もあるし、ヤケになってt.A.T.u.にドタキャンされたときのMステばりにTHEE MICHELLE GUN ELEPHANTの「ミッドナイト・クラクション・ベイビー」が流れている可能性もある。


 しかし、今までMCUが様々な困難を乗り越えて、不可能を可能にしてきたのも事実だ。実際に数々のヒーロー映画を作り、ヒットさせ、クロスオーバーさせることに成功した。決して知名度が高いとはいえなかったヒーローたちまで、街中でよく見かけるアイコンにまで押し上げ、世界を変えた。MCUが成し遂げてきたことを振り返れば、きっと次もうまくいくはずだろうと言い切れる。それに、もしもうまくいかなくても、きっとうまくいくまで挑戦するだろう。MCUはそういう物語を何度も何度も描いてきたのだから。それでは、10年も追いかけ続けた一大シリーズのフィナーレに向けて、MCUの中心キャラクターであるキャプテン・アメリカの名セリフの引用で記事を終えたい。「最期まで、とことん付き合うよ」。(加藤よしき)


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