『わたし、定時で帰ります。』ネット上で阿鼻叫喚の嵐! ドラマで描かれる“働き方”の変化

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2019年05月07日 06:11  リアルサウンド

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 火曜夜10時から放送されている『わたし、定時で帰ります。』(TBS系、以下『わた定』)が盛り上がりをみせている。本作はWEB制作会社を舞台にしたドラマだ。主人公は32歳の制作部ディレクター・東山結衣(吉高由里子)。彼女は、前の職場で過重労働が原因で意識不明の重体になった経験から、残業ゼロをモットーとしており、仕事を効率よく切り上げ、定時になると退社する。


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 劇中では毎回、労働観の違う社員たちの世代間の衝突が描かれるのだが、ハードな内容に第一話終了後、SNSでは阿鼻叫喚の嵐。放送前からタイトルに対して、「そんなの当たり前だろ」という意見や「ウチでは絶対ムリ」といった会社あるあるで盛り上がっていたが、柔らかいタイトルに反して、シリアスな問題作である。


 『わた定』を筆頭に、近年は、会社を舞台にしたドラマが、リアルで面白いものに再編成されつつある。


 80年代はトレンディドラマを筆頭に、会社を舞台にしたドラマは多数作られていた。しかし、90年代以降は、バブル崩壊とグローバリズムの進行により、終身雇用、年功序列といった昭和の仕組みが崩壊し、雇用の流動化で非正規雇用の派遣社員が増えていく。 


 会社に対するイメージが年齢や立場によってバラバラになり、昭和のような同じ価値観を共有する人々が集う場所として描くことが次第に難しくなっていった。


 その結果、組織を描く作品は、『踊る大捜査線』(フジテレビ系)のような刑事ドラマや『コード・ブルー』(同)シリーズのような医療ドラマが中心となり、恋と仕事の場としての会社は、主流から外れていった。


 『ショムニ』(フジテレビ系)や『ハケンの品格』(日本テレビ系)のようなドラマも例外的に存在したが、そこで描かれる主人公は、何でもこなすことができるスーパーヒロインで、現実に働く女性を描いているとは言いがたかった。


 『女王の教室』、『家政婦のミタ』(日本テレビ系)といった遊川和彦脚本のドラマに登場するヒロインが象徴的だが、深読みするならば、女性がロボットのように働かないと問題を処理できないくらい、社会が複雑化してしまったということなのだろう。


 それが2010年代に入ると、新しい会社ドラマが増えてくる。大きかったのは『半沢直樹』(TBS系)以降の日曜劇場の企業ドラマ路線のヒットだろう。中小企業が、少数精鋭ながらも優れた技術力を武器にして生き残りをかけて大企業に闘いを挑む姿を描いた日曜劇場は中年男性を中心に絶大な指示を受けている。


 現在放送中の銀行を舞台にした『集団左遷!!』(TBS系)もこの路線の作品なのだが、面白いのは『わた定』とは真逆の労働観を打ち出していること。劇中では、銀行の再編成のために一年後に廃店となることがすでに決まっている三友銀行の支店長となった片岡洋(福山雅治)が、ただ流されるのではなく「がんばりたい!」「ちゃんと仕事がしたい」と部下たちに訴える。これは『わた定』の結衣とは真逆の労働観で、むしろ、定時に帰る副支店長の真山徹(香川照之)の方が悪役として描かれている。


 この二作がTBS系で同じクールに放送されているのは面白い現象だが、それだけ年齢によって労働に対する考え方がバラバラだということだろう。


 『わた定』もそうだが、こういった世代による労働観の違いによって起きる混乱を捉えた作品が、近年は面白い仕上がりとなっている。代表作は宮藤官九郎脚本の『ゆとりですがなにか』(以下、『ゆとり』)と野木亜紀子脚本の『獣になれない私たち』(以下、『けもなれ』)だろう。


 どちらも日本テレビ系で水田伸生がチーフ演出を務めた作品だが、『わた定』も含めたこの三作は、主人公の年齢が近い。


 『ゆとり』の主人公・坂間正和(岡田将生)は1987年生まれの29歳(放送当時の2016年)。『わた定』の結衣とは、同世代だと言える。87年生まれはゆとり第一世代と呼ばれた世代だが、2009年のリーマンショック以降の就職氷河期の中で、なんとか就職活動をして会社に潜り込んだ世代だ。


 『けもなれ』の深海晶も(2018年の放送時点で)30歳だから、就職氷河期を体験している世代だと言えるだろう。晶は派遣社員として働いた末に、IT企業に正社員として採用された。しかし社長は恫喝ばかりするパワハラ男、逆に部下の新人社員は自分勝手で傷つきやすく、すぐに無断欠勤をする。労働観の違う先輩と後輩に挟まれた晶は、次第に心が疲弊していく。


 おそらく、働き方改革のしわ寄せを一番受けているのが「ゆとり第一世代」なのだろう。


 70年生まれの宮藤と74年生まれの野木は、バブル崩壊後に社会に出た第一次就職氷河期世代に当たるのだが、自分たちの世代が体験した就職氷河期の苦労と重ねることで、現在30代前半となるこの世代の苦悩を引き上げている。


 最終的に『ゆとり』と『けもなれ』は、ゆとり第一世代の主人公が会社を去ることになったが、『わた定』の結衣は、上の世代と下の世代の架け橋となれるのか? どうにも先行きは不穏である。


(成馬零一)


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  • 『わたし、定時で帰ります。』なんで、あそこまで反感を買うように描くかな。働き改革を阻止するため?そう疑いたくなる。
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