『ザ・ノンフィクション』26歳のラウンジママ・沙世子に感じる“爽やか”さ「歌舞伎町で生きる〜その後の沙世子〜」

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2019年05月13日 21:52  サイゾーウーマン

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サイゾーウーマン

『ザ・ノンフィクション』(フジテレビ系)公式サイトより

 NHKの金曜夜の人気ドキュメント番組『ドキュメント72時間』に対し、こちらも根強いファンを持つフジテレビ日曜昼のドキュメント『ザ・ノンフィクション』。5月12日放送のテーマは「歌舞伎町で生きる〜その後の沙世子〜」。26歳にして歌舞伎町のネオラウンジ「LP TOKYO」でママを3年勤める沙世子と、広島No.1キャバ嬢から同店へ入ったマリ(21歳)の日々を伝える。

あらすじ:ネオラウンジの変革と、広島No.1キャバ嬢の試練

 『ザ・ノンフィクション』2018年12月16日放送回(「歌舞伎町で生きる〜26歳・沙世子の場合〜」)でも取り上げられた、歌舞伎町のネオラウンジ「LP TOKYO」の26歳ママ・沙世子。「キャバクラでもラウンジでもない」カジュアルさを売りに店を運営する沙世子は、キャストともフラットな関係を築いてきたが、売り上げに応じキャストを4クラスに分け、上位クラスには報酬を与える「評価制」の導入に踏み切る。

 店には広島のキャバクラでNo.1を取った経歴を持つ21歳のマリが加わる。水商売は素人のキャストが多い同店で、経験者としてすぐ頭角を現すだろうという周囲の期待に反しマリは伸び悩む。しかし、週6日で働いてきた沙世子がインフルエンザでダウンすると、奮起したマリは自身の強みであるFカップを生かした大胆な名刺を作成するなど、全力投球。フリー客の指名数で店内記録を樹立しランクを1つ上げる。

『ノンフィクション』らしからぬ「爽やかさ」を生むもの

 前回もそうだったが、沙世子の回は爽やかだ。前週の『ザ・ノンフィクション』は、こちらも番組の常連である42歳のホスト・伯爵が登場したが、こちらはなかなか「爽やか」という形容詞は出てこない。一方で、『ザ・ノンフィクション』感はたっぷりあった。

 『ザ・ノンフィクション』の味付けは、「主人公が中高年」であってこそ決まるのだろう。また、登場人物は家庭環境に問題を抱え、それが性格の面倒くささにつながっている人は少なくない。しかし、今回の沙世子とマリには、その“暗さ”は感じない。沙世子は父親に6年会っていないが、仕事を応援する温かなメールを受け取っている。マリの場合、女手一つで育ててくれた母がアルコール依存症になるという過去があるが、番組内で見る限り母子関係は良好だ。

 「悪くない親子関係」に加え、沙世子もマリも働くのが好きなのだろうと伝わってくるのが、さらに爽やかさを増す。ただこういった爽やかさは、「若さ」が支えているところもあるだろう。伯爵をはじめ『ザ・ノンフィクション』に出てくるほかの中高年レギュラー陣も、20代の頃は今より爽やかだったはずだ。

 仕事に対する真面目さや情熱も、若さが生み出している面があるだろう。「仕事が楽しくひたむきな20代」は結構見かけるが、これがそのまま「仕事が楽しくひたむきな30代」「40代」となっていくのは難しい。もちろん仕事が大好きなままの中高年もいるが、息切れしたり疲れだしたり、嫌になって辞めていく人だって年々増えていく。

 アルコール依存症になってしまったマリの母親は、もともと女手一つで二人の子どもを育てるバリバリの「働く女」だった。マリの母が口にした、「お母さんも(自分が)依存になんてならんと思っていた。責任感が強い人や頑張りやすい人や、やらんといけんという人ほど(依存に)陥る」という言葉が重い。

 頑張ろうとする真面目さはいいことのように思えるが、時に本人を意識的、無意識的に追い詰めていってしまうこともあるのだろう。しかし、なまじバリバリできるタイプほど、バリバリできなくなると自分の根幹が揺らぐような不安を覚えるのではないだろうか。しかし、バリバリ働くのが好きな人に「折れてしまったら大変だからほどほどに行け」というのは、ぐうたらな人にもっと頑張れというのと同様で、受け入れてもらいにくいだろう。「無理のない頑張りを続ける」ことの難しさを思う。

 娘のマリも「結果がお金で現れるからこの仕事は楽しい」と話すバリバリ派だ。マリは気が強そうに見えて指導を求めるタイプであり、そういったことをしない沙世子のスタンスに、当初もどかしさを感じているように見えた。しかし、沙世子がインフルエンザで不在時には巨乳を生かした新しい名刺を作るなど試行錯誤し、もどかしさを自力で打開する。これも沙世子が、「いっぱい話しますか」とマリをサシ飲みに誘ったりと手をかけていたことが効いたように思える。仕事で追い詰められそうなとき、話を聞いてくれる上司の存在は大きい。

 沙世子のキャストに対する包容力は26歳にしては並外れており、凄まじいマネジメント力だ。沙世子の「頑張り」に無理がないことを願うが、番組を見る限り、メンタル面で揺らぐ心配は今のところなさそうに見える。

 一方で、心配なのはフィジカル面だ。「LP TOKYO」は酒が飲めないキャストが多く、その代わりに沙世子が客の入れた酒を飲むことが多い。そのため「毎日顔が違うといわれる」と話すほど酒むくみがひどく、60分の番組内でも日が変わるたびに顔の大きさが違っていた。体が悲鳴を上げているのだ。フィジカルで調子を崩せば、それはメンタルの崩れにもつながりやすい。「LP TOKYO」は評価制の導入よりも、客のボトルをすぐ空にしてもケロッとしている“強肝臓ヘルプ”のスカウトが先決な気もする。

 次回の『ザ・ノンフィクション』は「男と女の婚活クルーズ 2019」。番組ホームページを見ると「主人公はあや38歳 再婚したいのにある理由で男に去られ…」とあり、今から楽しみだ。やはり、この番組は主役がO(Over)-35だとよりギラギラと輝く。

石徹白未亜(いとしろ・みあ)
ライター。専門分野はネット依存、同人文化(二次創作)。著書に『節ネット、はじめました。』(CCCメディアハウス)。
HP:いとしろ堂

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