MISIAが一つの時代を締めくくるのは必然だった 平成最後の武道館公演を振り返る

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2019年05月15日 12:01  リアルサウンド

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 21年前、この国の音楽シーンの新しい扉を開けたボーカリストが、一つの時代を締めくくるのは必然だったのだろう。4月26日から3日間に渡って行われた『MISIA 平成武道館 LIFE IS GOING ON AND ON』。日本人アーティストとして平成最後の武道館公演となった28日のファイナルは、まさに時代の変わり目に刻まれる歴史的な日。360度をぐるりと囲む満員の観客と共に、平成を見送り令和を迎える希望のセレモニーだ。


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 午後6時半、オープニングアクトのLittle Black Dressが、いきなり強烈なパフォーマンスで会場を沸かせる。MISIAの後輩の名に恥じないパワフルボイス、宝塚のトップスターを思わせる凛とした立ち姿、紛れもなく大器だ。ぐっと高まる期待感の中で場内暗転、巨大な三面スクリーンがステージに舞い降りて、1964年の東京オリンピックに始まる武道館の歴史を映し出す。まばゆい光と共に力強いリズムがはじけ、上昇するスクリーンの下からMISIAとダンサーたちが勢いよく飛び出す。大歓声が武道館をつつみ込む、なんとドラマチックな胸躍る幕開けだろう。


「今日は平成最後の武道館、盛り上がっていくよ!」


 曲は「Sparks!!」。最新アルバム『Life is going on and on』の中でもとりわけ強力なダンスロックチューンで、高貴な白とゴールドの衣装で激しく歌い踊るMISIAは、まるで音楽のミューズに仕える巫女のよう。間髪入れず「Escape〜Rhythm Reflection〜LOVE BEBOP〜Royal Chocolate Flush〜THIS IS ME」というファンキーでロッキンな豪華メドレーが後に続き、大量のスモークが吹き出す派手な演出の中、10名を超えるダンサーたちがステージ狭しと群舞を繰り広げる。打楽器が3人いる上に管弦楽器隊も加えた大編成が奏でる分厚いサウンドに負けず、武道館を揺るがすMISIAのウルトラハイパワーな歌声。ただ一言、圧巻だ。


 再びスクリーンが舞い降りて、今度は日本武道館の歴史に残るアーティストたちの紹介が始まる。武道館を初めてライブに使った1966年のThe Beatlesに始まり、エリック・クラプトン、ジャネット・ジャクソン、Oasis、QUEENなど、錚々たるスターの肖像は、そのまま日本のロック/ポップスに重大な影響を与えた紳士録だ。懐かしく見とれているうちにシーンは変わり、鮮やかなショッキングピンクと黒の衣装に身を包んだMISIAが再登場。曲はなんとQUEENのカバー「We Will Rock You」と「We Are The Champions」の二連発だった。フレディ・マーキュリーばりのスティックマイクを手に、背後の北スタンドや東西の客席のすぐ近くまで駆け寄り拳を振り上げ歌う、ロックスターさながらの雄姿に惚れ惚れする。「ここはミュージシャンにとっても特別な場所。平成の締めくくりに、心を込めて歌っていきます」と決意も新たに、アッパーなラテンダンスチューン「来るぞスリリング」のリズムに乗ってステージを駆け抜けるMISIA。以前に見たライブよりもさらにパワーアップして、キャリアを重ねるほどにステージの運動量が増えていくのは、一体どういうことなのだろう。


 スクリーンには平成31年間のニュースが次々と映し出されていく。嬉しい出来事も悲しい事件も、恐ろしい災害もあった平成。その中でも人の絆と愛を信じてMISIAは歌い続けてきた。清楚なイエローのドレスに着替え、「Everything」「LOVED」と新旧織り交ぜたバラードを真心込めて歌い、素晴らしいピアノと豊かなストリングスの響きがそれを力強く支える。さらに「逢いたくていま」から「明日へ」と、たっぷりと時間をかけて歌いあげた極上バラード4曲。MISIAのバラードはR&B的でありながらブラックミュージック特有のフェイクを入れず、聖歌隊のようにまっすぐに歌い上げるから、そのまま心の奥に届いてくる。アップテンポと同じパワーでぐいぐい迫る、これほど純粋で情熱的なバラードの歌い手は日本でただ一人、MISIAだけだ。


 平成10年に始まったMISIAのキャリアは、音楽と並行する社会貢献活動の実践でもあった。特にアフリカでの活動は良く知られるところで、次にスクリーンに映し出されたMISIAは子供たちと共に歌い、踊り、笑い、教え、学び、カジュアルな服と笑顔で現地の人々の輪に溶け込んでいる。「AMAZING LIFE」から始まるこのセクションは、スクリーンの中のアフリカがそのまま飛び出してきたかのように、鮮やかな七色のドレスに身を包み、ダンサーと共に明るく歌い踊るパフォーマンスで賑やかにスタートした。懐かしいシングル曲「BELIEVE」も、ファンキーなビートが強調されてまるで新しい曲のようだし、「Color of Life〜Re-Brain」のメドレーはラテンファンク調のグルーヴが最高に気持ちいい。極めつけは「MAWARE MAWARE」で、ドラマーとパーカッショニストが叩き出す複合リズムと強烈なグルーヴのうねり。アフリカから南米を回ってアメリカ深南部経由で日本の祭りに至るような、雄大な音楽のエッセンスを蓄えたワールドワイドなダンスミュージックだった。見渡す限り誰もがみな祝祭の輪に加わり、手にタオルを掲げて振り回しながら踊る。ダンサーたちの紹介も兼ねたソロダンスの見せ場もあり、ステージと客席が完全に一体となった本編ラストにふさわしい熱狂のフィナーレだ。


 さあ、アンコール。メンバーと揃いのシックなチェック柄のパンツルックで、「アイノカタチ(feat.HIDE GReeeeN)」を全身を使って歌い上げるMISIA。歌い終わって「ありがとう!」と叫ぶ満面の笑みが素晴らしい。最新シングルにしてJ-POPスタンダードの風格を備えた壮大なミドルバラードは、歌うことが好きで好きでたまらない彼女の原点を余すことなく引き出す意味で、平成最後のシングルにふさわしいと言える。そして平成最後の武道館公演を締めくくったのは、MISIAのスタンダードナンバー「陽のあたる場所」「つつみ込むように…」の2曲だった。1998年、それまで翻訳の域にあった洋楽R&Bを日本のポップスに昇華してヒットチャート上位に叩き込んだ。この2曲の成功の後から多くの新世代アーティストたちが羽ばたいていった。最初に扉を開けたのはMISIAだ。「つつみ込むように…」の冒頭、超高音域のホイッスルボイスがあの頃とまったく変わらない、いやそれ以上のパワーで武道館いっぱいに響き渡った時の感激を一体何と表現しよう?


「平成の宝物を全部持って、令和に行きたい。みんな一緒に令和に行こうよ!」


 2時間以上歌い続けてもまだ歌い足りないMISIAは、「みんなと一緒に令和に行けたら幸せ〜」と即興アカペラを披露したり、終演後のBGMのはずだった「アイノカタチ (feat. HIDE GReeeeN)」を、途中からマイクを持って本気で歌い始めたり、子供のようにはしゃいでいる。バックバンドのメンバーも笑顔で演奏に加わり盛り上げる、チームワークも抜群だ。「こうしてみなさんと過ごせたことが平成一番の思い出です」と言ったその言葉は、元号が変わってもきっと変わらないだろう。ライブこそ、スーパーボーカリスト・MISIAの規格外のパワーが発揮される場所。平成が生んだ最強ボーカリストは、令和でも最高であり続けることを確信する素晴らしい一夜だった。(取材・文=宮本英夫)


■セットリスト
『MISIA 平成武道館 LIFE IS GOING ON AND ON』
4月28日(日)東京・日本武道館


01. Sparks!!
02. Escape〜Rhythm Reflection〜LOVE BEBOP〜Royal Chocolate Flush〜THIS IS ME
03. We Will Rock You
04. We Are The Champions
05. 来るぞスリリング
06. Everything
07. LOVED
08. 逢いたくていま 
09. 明日へ
10. AMAZING LIFE
11. BELIEVE
12. Color of Life〜Re-Brain
13. MAWARE MAWARE
EN1. アイノカタチ (feat. HIDEGReeeeN)
EN2. 陽のあたる場所
EN3. つつみ込むように…


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