ヒゲダンの歌詞はなぜグッとくる? Official髭男dism「Pretender」を軸に特徴を読み解く

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2019年05月16日 18:11  リアルサウンド

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 メジャーデビューからわずか1年ほどで、バンドシーンの最前線に躍り出たOfficial髭男dism、通称・ヒゲダン。月9ドラマ『コンフィデンスマンJP』の主題歌となったメジャーデビュー曲「ノーダウト」は YouTube再生数が1800万回を突破、 USEN J-POPチャートでも1位を獲得。また、2nd EPのタイトル曲「Stand By You」は国内AM&FM局のオンエア回数を集計するBillboard AirPlayチャートで2週連続で1位に輝くなど、各種配信チャートを席巻した。結果、2018年デビュー組の中で、最もサブスクリプションでの再生回数の多いアーティストになるなど、その快進撃はとどまることを知らない。つい先月には出身地でもある中国地方のNHK総合が、ツアー最終日に密着したドキュメンタリーを放映。番組はファンの声に押され、異例の全国放送へと発展した。「曲を聴くと元気をもらえる」「思わず踊りたくなる」など、老若男女幅広い声も丁寧に拾われており、改めて彼らの現在地が示されたかたちだ。


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 そんな彼らが、5月15日に最新シングル『Pretender』を発売した。タイトル曲は先行配信がなされており、Apple MusicではリアルタイムランキングJ-POP部門1位、iTunesではトップソングランキングJ-POP部門1位、総合3位を獲得するなど各種音楽チャートでも好調。ドラマに続き映画『コンフィデンスマン JP』の主題歌として書き下ろした楽曲とあって、映画の公開と併せて一層の盛り上がりも期待される。


 Official髭男dismといえば、フロントマンの藤原聡が繰り出すポップ色全開のピアノサウンドと、ファンクやジャズ、ブラックミュージックの要素を加味したリズム、なによりキャッチーなメロディでリスナーの心をつかんできたバンドだ。事実、音楽認識アプリ「Shazam」で長期にわたり1位を獲得したのも、先日放送された『ミュージックステーション』で「新世代を感じさせるアーティスト」に選出されたのも、一聴しただけで引き込まれてしまうほどの“ヒゲダン・ワールド”が楽曲の中に確立されているからにほかならない。


 しかし一方で、歌詞もまた魅力的だ。たとえば新曲「Pretender」は恋の終わりを綴った切ないミディアムナンバー。〈もっと違う設定で もっと違う関係で 出会える世界線 選べたらよかった〉〈君の運命のヒトは僕じゃない 辛いけど否めない でも離れ難いのさ〉と、別れ際の心情が痛いほど伝わってくる。恋愛はもちろん、仕事や友人関係など日常の機微をすくい上げた等身大の歌詞が、藤原の得意とするところ。声高に大層なメッセージを掲げる代わりに、時に聴き手の心に寄り添い、また背中をそっと押すような、シーンやストーリーを意識しているように思う。


 加えて、メロディを邪魔しない言葉の選び方も特筆すべき点だ。いわゆる、“韻を踏む”という方法で、曲に自然に乗る歌詞をさまざまに模索していることがうかがえる。前述の「Pretender」のサビでも〈僕じゃない〉〈否めない〉〈離れがたい〉と三度にわたって同じ音が繰り返されているし、「Stand By You」でも〈Stand By You いつもStand By You 涙のターミナル Uh Uh 並んで立っている〉と、時には英詞や曲の合間のハミングでつなぎながら、母音の重なりを追求。メロディと一体化した歌詞は彼らの楽曲がもたらす爽快感、耳触りの良さ、覚えやすさを加速させ、一緒に歌い盛り上がれるというライブの高評価へと繋がっているように思う。昨今ではリスナーの間でも歌詞への注目度は増しているようで、今まであまり動きが見られなかったLINEミュージックで聴かれるケースも増えているとのこと。歌詞アクセスランキングにもチャートインするなど目立つ変化も生まれている。今後ますます彼らの楽曲が聴かれるシーンが増えると予想される中で、こういった歌詞へのこだわりも武器のひとつになっていくに違いない。


 6月からは、3万人を動員する全国ツアー『Official髭男dism one-man tour 2019』を開催予定で、すでにチケットはソールドアウト。追加公演として7月8日にはバンド初となる日本武道館公演も控える。その後は夏フェスシーズンへと突入。昨年は各地で入場規制・最多動員記録を打ち立てたというが、今年はそれを上回る盛り上がりを見せてくれるはずだ。早くも飛躍のときを迎えた“ヒゲダン”のアツすぎる夏がここから始まる。(渡部あきこ)


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