『きのう何食べた?』西島秀俊の不器用な愛情表現 シロさんとケンジの仲直りから学ぶべきこと

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2019年05月25日 12:31  リアルサウンド

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 人気漫画家・よしながふみの同名コミックが原作のドラマ『きのう何食べた?』(テレビ東京系)。その第8話は、筧史朗(シロさん)を演じている西島秀俊が見せた苛立ちと、内野聖陽演じる矢吹賢二(ケンジ)への愛情が印象的な回となった。


 ケンジに誘われレストランに連れてこられたシロさん。そこに現れたのは長島義之(正名僕蔵・以下、ヨシくん)と本田鉄郎(菅原大吉・以下、テツさん)の同性カップル。仲睦まじいヨシくんとテツさんの様子を見て、周囲の目が気になるシロさんは初対面の2人を冷たくあしらってしまう。


 西島の演技からは、シロさんの繊細な心情が伝わってくる。ヨシくん、テツさんとの間をとりもちたいケンジがシロさんの手料理を話題にしたとき、「ケンジ、声が大きいよ」という心の声から、悟られてしまうことへの不安や苛立ちがわかる。冷たい態度をとり続けてしまうことを「俺、すごく感じ悪い」と自覚してはいるものの、自身も同性愛者であることをカミングアウトしていない彼にとって、この状況は落ち着かないのだ。


 帰り道、ケンジは急にレストランに誘ったこと、レストランで同性カップル満載の会話をしてしまったことを謝る。シロさんは苛立った声で「それ今気にするなら最初から店選べよ」と返した。小さな声で「ごめん」と返すケンジに、シロさんは「なんでそこで謝るんだよ!」と激昂する。西島は彼の中にある葛藤を見事に演じている。感情を露わにしたシロさんに、ケンジは思わず萎縮する。だが、シロさんの苛立ちはケンジに対するものではないのだ。周囲の目を気にしてしまうシロさん自身に向けられている。


 後日、富永佳代子(田中美佐子)の家で桃を分け合うシロさん。「(桃は)ケンジの大好物なんで」と話すシロさんはどこか気まずそうな表情を浮かべるが、「たまにはうまいもの食わせてやりたいんで」と話す顔は柔らかだ。西島の浮かべる表情からは、愛情を示すことに不器用なシロさんの様子が伺える。「結構大事にしてるよね、ケンジのこと」と佳代子に言われると、シロさんは「このタイミングで別れると苦労する」「40代半ばで1から恋愛するのはめんどくさい」と語り始める。だが、その言葉の裏側には、素直に「大事にしている」「一緒にいたい」と言えないシロさんの心情が見える。佳代子に「素直じゃないわねー」と言われてもなお、理詰めで返答するシロさん。だが、本作のあらゆるシーンでケンジを思い浮かべているとき、西島は穏やかな雰囲気を漂わせる。その雰囲気からは、ケンジへの愛情が伝わってくるのだ。


 ヨシくんとテツさんは、シロさんに「養子縁組」の相談をするためにやってきた。彼らの一件が終わった後、シロさんはまたも強い口調でケンジに当たってしまった。気まずそうにその場を立ち去るケンジを見て、「俺が苛立ってるのはケンジに対してじゃない」「器の小さい俺自身に腹を立ててるんだよ」と心の内で語るシロさんは、いつにも増して不安げだ。「このまま帰ってこないってことも、なくはないんだよな」と覚悟する彼の表情は切ない。


 だが翌日、ケンジは普段通りシロさんを見送った。「今日の夕飯のリクエスト。俺、シロさんのハンバーグ食べたいな」というケンジの言葉を聞いてフッと笑うシロさん。


「ああいう何気ない仲直りの仕方、教えてくれたのはケンジなんだよな」


 ドラマ終盤に西島が見せた穏やかな笑顔。自分にはないものをケンジの中に見出し、尊敬するシロさん。シロさんが表に出さない愛情深さがそこにあった。(片山香帆)


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