トム・クルーズの“トムクル力”を堪能せよ! 『ミッション:インポッシブル』シリーズを総括

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2019年05月31日 16:01  リアルサウンド

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 トム・クルーズ! 80年代に彗星のごとくデビューを果たし、今日もハリウッドの最前線でハンサムを振りまいているスター中のスターである。そんなトムクルさんの代表作といえば、新作を発表するたびに世界の度肝を抜く『ミッション:インポッシブル』、通称『M:I』シリーズだ。トムクルさん扮する超人的な身体能力とド根性を持つ凄腕スパイのイーサン・ハントが、世界の危機にあの手この手で解決するサスペンスアクション超大作だ。このたび嬉しいことに、同シリーズがAmazon Prime Videoで全作見放題になっており、今回はこの記念すべきタイミングに便乗して『M:I』シリーズの魅力を総括していきたい。本記事が『M:I』シリーズの、あるいはトムクルさんの入門テキストとなれば幸いだ。


● エポックメイキングとなった天井宙吊り


 まずは話を1980年代後半まで遡ろう。当時のトムクルさんは『卒業白書』(1983年)などの青春映画を経て、飛行機映画の金字塔『トップガン』(1986年)で大ブレイクを果たしていた(なお『トップガン2』が現在制作中である)。その後は『レインマン』(1988年)や『7月4日に生まれて』(1989年)でアカデミー主演男優賞にノミネートされるなど、ただのハンサムな兄ちゃんではない演技力を見せ、名実ともにトップスターへの階段を駆け上がっていた。そして迎えた90年代。トムクルさんは軍事法廷モノ『ア・フュー・グッドメン』(1992年)や、当時大流行したジャン・グリシャム原作の『ザ・ファーム 法律事務所』(1993年)といったサスペンス/ミステリー色の強い作品に立て続けに主演する。この流れに沿うような形で、往年の人気ドラマ『スパイ大作戦』をトムクルさんでリメイクしたのが全ての始まり、『ミッション:インポッシブル』(1996年)なのだが……本作には大きな問題点があった。原作のドラマと全然違ったのだ。


 『スパイ大作戦』(1966年〜)はアメリカで放送されたドラマシリーズであり、スパイ組織IMF(Impossible Missions Force)に所属する“チーム”の活躍を描くものだ。冷静なリーダーの下に、変装や機械いじりなど、様々なスキルを持ったメンバーが集結し、危険な任務に協力して立ち向かってゆく。一方、トムクルさんの『ミッション:インポッシブル』のあらすじはこうだ。IMFに所属する工作員イーサン・ハントは、ある任務のためにチームと共にプラハへ向かう。しかし任務中に謎の襲撃を受け、ハント以外は全滅(1人は顔面に鉄柱が突き刺さる!)。たった1人生き残ったハントはIMFから裏切りを疑われ、自身の潔白を証明するために孤軍奮闘するのだが、そのために集めたメンバーも腹に一物あるようで……という話だ。


 もうお分かりだろう。原作はチーム戦がメインなのに、映画はチームが全員死んだ上に、疑心暗鬼の裏切り合戦になっているのだ。ほぼトムクルさんのワンマン映画になっており、原作世代である私の両親も「『スパイ大作戦』ってこんなんだっけ?」と首を傾げていたのを覚えている。しかし、それではアレな映画だったかというと、そんなことは全くない。たしかに原作ファンからは批判されたが、本作の監督はサスペンス界の巨匠ブライアン・デ・パルマ。裏切りが連発する本作にはピッタリの人選で、複雑なプロットを巧みにまとめあげている。アクション的にも「トンネル内で電車をヘリコプターが追いかける」というメチャクチャな見せ場を用意し、大いに盛り上げてくれた。


 しかし何よりエポックメイキングだったのは、トムクルさんを天井から吊ったことだ。映画は中盤、何だかんだあってセンサーが張り巡らされた室内への侵入劇になる。ここでトムクルさんは天井からロープで吊られるのだが、ロープを握るジャン・レノがネズミに襲わる災難のせいで、あわやセンサーに……! 当時このシーンは様々な形でパロディにされ、いちやくスパイ映画を象徴するシーンとなった。原作と全然違うという歪な形ではあったが、ともかく同作は世界中で大ヒット。トムクルさんは新たな代表作をモノにした。この大ヒット後、トムクルさんは『ザ・エージェント』(1996年)で再びアカデミー主演男優賞候補に、『マグノリア』(1999年)ではアカデミー賞助演男優賞にノミネートされるなど、演技面で評価を高めていく。しかし、いずれも受賞はならず、その鬱憤が溜まったのか、再びトムクルさんはアクション映画業界に帰還する。奇跡の続編『M:Iー2』(2000年)を引っ提げて……。


●「トムクルさんの天下は永遠に続く」と思われたが ……


 1作目で「原作と全然違うやないか」と叱られたトムクルさんだが、この続編では更にとんでもないことをやってのける。香港アクションの巨匠ジョン・ウーを監督にしたのだ。ウーといえば、今なお語り継がれる香港ノワールの傑作『男たちの挽歌』(1986年)を手掛け、“ヴァイオレンスの詩人”と呼ばれたアクション映画界の巨匠である。当時のウーは既にハリウッドで『フェイス/オフ』(1997年)を始めとした傑作を連打していた。しかもウーの影響下にある『マトリックス』(1999年)が公開された直後でもあり、トムクルさん主演のアクション映画を監督してもおかしくはない状態だったが、とはいっても『M:I』シリーズを監督したのは奇跡だろう。


 トムクルさん×ウー×『スパイ大作戦』、この暴挙ともいえる掛け算は凄まじい値を弾き出した。一応、前作からハッカー役のルーサー(ヴィング・レイムス)は続投したものの、本作は完全にトムクルさんの独壇場。本筋と関係ないロック・クライミングから始まり、ロケットランチャーでサングラスが届けられる快シーンでオープニング・タイトルへ。後半はトムクルさんがウー必殺のスローモーション&2丁拳銃で大暴れ。もはやスパイ感はゼロだったが、バイクにまたがって銃を乱射するトムクルさんは文句なしにカッコよく、再び映画は全世界で大ヒット。ついでにサントラも、当時ブイブイいわせていたLimp Bizkitを筆頭に、MetallicaやRob Zombie、Foo FightersとQUEENのブライアン・メイがPink Floydをカバーするといったテンション高めの内容になり、日本で売れまくった(今でもブックオフで見かける頻度が最も高いサントラではあるまいか)。トムクルさんの天下は永遠に続く……と思われた。


●“Mr.地ならし”J・J・エイブラムスの抜擢


 沈まぬ太陽はない。スターのキャリアも同様だ。トムクルさんは2000年代の中盤に致命的なやらかしを行う。昔から熱心なサイエントロジーの信者であり、若干の奇行が見られる人だったが、あるトーク番組で遂にお気持ちが爆裂。トムクルさんはセットの中で暴れ回る奇行で全世界を困惑させる。それは数十年かけて作り上げたイメージが一瞬で瓦解し、「トム・クルーズ」=「変人」という公式が成立した瞬間であった。こうした状況下で作られたのが『M:i:III』(2006年)だ。


 正直、公開前は奇行騒動のせいで凄く渋い空気だったのを覚えている。しかし、ここでトムクルさんは適切な映画作りを行った。これまでの反省か、トムクルさんはある人物を監督に据える。その男こそ人呼んで“Mr.地ならし”J・J・エイブラムス。後に『スターウォーズ』『スタートレック』というアメリカの2大神話をオールド・ファンにも新規客にも優しく仕上げ、荒れまくっていた『スターウォーズ』の9作目をサッと撮り終えた才人だ。そしてJ・Jは、ブライアン・デ・パルマ、ジョン・ウーというアクの強い鬼才たちが暴れ回った後を綺麗サッパリ整えてみせた。具体的にはドラマ版への回帰を目指したのだ。ほぼトムクルさんのワンマン映画から、チームを強調したプロットを用意。なおかつ1のサスペンス性と、2のアクションをバランスよく取り込んだ。また、1がトムクルさんを吊り、2がトムクルさんをバイクに乗せたように、本作はトムクルさんに特徴的なアクションを用意した。全力ダッシュである。映画のクライマックス、全力ダッシュするトムクルさんを横から捉えたシーンは印象的で、後のシリーズにも多大な影響を与えた。


●デス・ウィッシュ・スタントに本格開眼したトムクル


 そして2010年代も早々に、トムクルさんは1、2、3の総決算的な『ミッション:インポッシブル/ゴースト・プロトコル』(2011年)に主演。3からメカニック兼ヒロインのベンジー(サイモン・ペグ)も続投、『アイアン・ジャイアント』(1999年)、『Mr.インクレディブル』(2004年)といったアニメ作品で鳴らしたブラッド・バードを監督に、シリーズ最高とも言える完成度を叩きだした。同時にドバイ・タワーこと世界一高いビル「ブルジュ・ハリファ」の窓に張り付く決死のスタントに挑戦。2のロック・クライミングで片鱗はあったものの、何故かイイ歳になってからデス・ウィッシュ・スタントに本格開眼したのである。


 『ゴースト〜』にて、チームのレギュラーメンバーも何となく決まり、続く『ミッション:インポッシブル/ローグ・ネイション』(2015年)では監督にアクション職人クリストファー・マッカリーを招聘。トムクルさんとは既に監督×主演コンビとして『アウトロー』(2012年)という快作を放っていただけに、否が応でも期待は高まった。そんな世界中の観客のテンションの高まりを感じ取ったのか、トムクルさんはかつてない無茶アクションに挑む。定番となったカーチェイスや格闘は勿論、なんと飛んでいる飛行機にブラ下がったのだ。恒例の全力ダッシュで離陸直前の飛行機に追いつき、閉まったドアにしがみつきながら「オープン・ザ・ドア!!」と中学生でも分かる英語で絶叫する姿は、完全に演技の領域を超えていた。映画は勿論スマッシュヒット。さらにマッカリー監督はトムクルさんの相性が抜群で、シリーズ初の監督続投が決定する。こうして出来上がったのがシリーズ最新作『ミッション:インポッシブル/フォールアウト』(2018年)だ。


●最高の『M:I』を決めるのは難しい、だが……


 『M:I』シリーズは、どれも面白い。それぞれ異なった魅力がある。サスペンスなら1だ、カッコよさなら2だ、テンポなら3だ、トータルなら4だ……最高の『M:I』を決めるのは難しい。しかし、アクションに関してならば、間違いなく『フォールアウト』が最高である。話は冷静に考えると「?」な箇所もあるが、ノンストップで連打されるアクションが凄すぎて、それどころではない。トイレで起きる謎の達人との壮絶な格闘シーン、本当に訓練を積んで飛び降りたヘイロージャンプ、実際に骨折したビルの屋上から屋上への追いかけっこ、トムクルさん本人が操縦してのヘリコプター・チェイス……。撮影中に共演者も「あ、トムが死んだ」と思った瞬間があったようだが、それも仕方がない。まさに命がけのアクション・シーンが満載だ。それでいて、チーム感やサスペンス、ユーモアも充実しており、アクション面だけではなく、総合でも本作が最高だと推す人もいるだろう。ちなみに本作で完全に「トム・クルーズ」=「危ないことをする人」という公式が出来上がってしまい、「次の『M:I』は宇宙に行くのではないか?」と噂されており、公式も否定はしていない(※マジです)。


 さて……ここまで長々と書いてきたわけだが、結局のところ『M:I』シリーズの魅力とは何だろうか? もし一言でまとめるなら、それはトムクルさんの存在に他ならない。『M:I』とは、つまりトムクルさんの度を超えたサービス精神とド根性、リアル人生の状態、生まれ持った暴走気味の性格、ハリウッドの制作環境、時代……その他諸々が重なり合って出来た、唯一無二のシリーズである。たとえば『007』のジェームズ・ボンドは、俳優が変わっても問題はない。しかし、『M:I』のイーサン・ハントはトム・クルーズでなければならない。その時代最高のアクション/サスペンスと、稀代の大スターであるトムクルさんのトムクル力(ぢから)を存分に堪能できること。それこそが『M:I』シリーズの魅力だ。


 最後になってしまったが、このシリーズは各作品それぞれに異なった魅力があり、さらに登場人物の続投はあるが、基本的には1話完結なので、どこから入っても楽しめるという長所もある(『ローグ』と『フォール』は繋がりが強いので、続けて観た方が良いだろうが)。無料で観る機会がある今、とりあえず1本観てみるのがどうだろうか。きっと気に入る1本が見つかるはずだ。(加藤よしき)


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