内田有紀が選び取った人生のバランス 『わたし、定時で帰ります。』はいよいよクライマックスへ

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2019年06月05日 12:51  リアルサウンド

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 「休んでも居場所はなくならない」


 働かなければ生活はできない。でも、生活がなければ働く意味がない。いつだって物事は表裏一体で、人生はそのバランスを取ろうともがく日々の連続だ。仕事かプライベートか。大切なのはどちらかしか選べない、それがこれまでの働き方の大前提だった。一度、走り始めたら立ち止まれない。流れに乗れなかったら、キャリアは終わり。白か、黒か。


参考:「わたし、定時で帰ります。」はやっぱり難しい!? ビジネスウーマンに聞く、働く現場の実情


 だが、『わたし、定時で帰ります。』(TBS系)では、もっとグラデーションをつけて働くことができるのではないか、と問いかける。出産・育児を経て、職場復帰した賤ヶ岳八重(内田有紀)の環境は目まぐるしく変わり、自分でも予想していなかった出来事が次々と起こる。初めての育児に加えて、パートナーやその家族の人生も、自分の生活に直結する日々。これまでに経験したことのない大きな不安は、彼女を静かに追い込んでいく。


 もちろん、黙っていては社員1人ひとりが抱えている状況は、職場に理解されない。上司の福永(ユースケ・サンタマリア)は、意欲的な賤ヶ岳にチーフというポジションを任せる。抜擢されて嬉しい反面、仕事だけのことを考えていればいいわけではない今の自分にもどかしさを感じる賤ヶ岳。やりがいのある仕事と、幸せな家族との時間。どちらかなんて選べないと、もがく賤ヶ岳の姿は、働く人の多くが共感したのではないか。


 自分が何のために働いているのか。どちらかしかない自分なんて嫌だと思いながらも、両方手放したくないと必死になっている状況もまた、決して理想的ではない。人によっては「贅沢な悩み」と言われてしまうかもしれない。そうして口をつぐんで頑張った結果、限界まで追い込まれてしまう人が現代にはきっと溢れている。


 「わたしは、どっちも好きですよ。カッコよく仕事してる先輩も、家族といる時の優しい先輩も。だから、先輩がどっちを選んでも、私は先輩を応援します」。一度、仕事を休んで家族を優先させることを決めた賤ヶ岳に、東山結衣(吉高由里子)はそう言った。そして、第1話で、“会社を休んだら、自分の居場所がなくなる“と思い込んでいた三谷佳菜子(シシド・カフカ)も、その決断を応援する。もちろん、常に結衣の周囲を気にかけている種田晃太郎(向井理)も「まあ、何かあったら言って」と。


 一度ペースを落としても、少し休憩をしても、リタイアではなくまた戻ってこられる。もちろんこれほど周りがフォローしたいと思えるのも、賤ヶ岳の日ごろの仕事ぶりがあってこそ。仲間と日々どんなことを大事にして人生のバランスを取っていこうとしているのかを、共有していればこそだ。


 仕事とプライベートを考えるとき、同じくらい和と個も考えさせられる。近年では独身の人が、子育て中の人をフォローしていると感じられる場面が多いという声も聞こえてくるが、社会という大きな視点で見ると、その子どもたちによっていずれは自分たちも支えられる立場になるのだ。自分がどっちの立場を選んでも、どんな道を選んでも、周囲との「お互いさま」であることはなくならない。賤ヶ岳が爽やかな笑顔で言った「こっち選んでよかったって、そう思える人生になるように頑張る」という言葉しか、後悔しない生き方はないのだ。


 このドラマは、自分の選択とは異なる声に耳を傾ける大切さを教えてくれる。人の不幸を願うような悪人はいないが、聞く耳を持たずに暴走する“厄介な人“はいる。それが、上司の福永だ。自分の思いばかりを大きな声で主張し、小さな部下の声は聞こえにくいのだろう。だが、そんな悪い人ではないのに、共に生きていくのが難しい人は、現実にもいるのだ。世間的にモンスター社員と呼ばれるような同僚たちに理解を示し、それぞれの働き方を認めてきた結衣だが、福永ともそんなよい距離感を保つことはできるのだろうか。種田が今この環境を選択した理由も、次回明らかになりそうだ。ドラマはいよいよクライマックスへ。1人ひとりが幸せになる、本当の働き方改革とは何かが見えてくるラストを期待している。


(文=佐藤結衣)


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