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テレビが報じない「中高年のひきこもり」57歳男性が明かすリアルな日常と心を開いた言葉

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2019年06月06日 11:30  AERA dot.

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写真杉本賢治さん(本人提供)
杉本賢治さん(本人提供)
 連日、「中高年のひきこもり」が話題になっています。きっかけは川崎殺傷事件の岩崎隆一容疑者(51歳)が「ひきこもり傾向」だと報じられたこと(5月29日)。そして6月1日に、元官僚の熊澤英昭容疑者(76歳)が、ひきこもりの息子・熊澤英一郎さん(44歳)を殺害したことです(以下、練馬事件)。

 川崎殺傷事件をひきこもりと短絡的に結び付けるのには疑問も残りますが、かつてこれほどまでに「中高年のひきこもり」に注目が集まったことはありません。ひきこもりは「若者の問題」だと言われてきたからです。今回の事件は、ひきこもりの若者やその家族にも波紋が広がっています。

「いずれは自分も親に殺されるのかもしれないと思った」(20代・ひきこもり男性)

「不登校の娘と心中しようと思ったことは一度や二度じゃない。息子を刺した父親のことは他人ごとに思えない」(50代・ひきこもりの子を持つ親)

 そんな声が聞こえてきます。

 そこで事件を追うだけでは見えてこない「ひきこもりの日常」を知るべく、ひきこもり経験者で現在も「半分ひきこもりの生活」を続けているという杉本賢治さん(57歳)に話を聞きました。

*  *  *
――ご自身のひきこもり経験と現在の生活のようすを教えてください。

 私がひきこもったのは高校中退後の10代後半と、その後、大学卒業後からの20代後半です。ひきこもりの期間は累計で9年ほどですが、今も正社員としては働いていません。おもに清掃のバイトをしています。バイトの報酬は自分の社会保険料や通信費、取材費などに充て、母と二人暮らしの生活費は父の遺族年金などで賄っています。

 現在の生活は「半ごもり状態」というところでしょうか。完全なひきこもりではなく、半分ぐらいひきこもっている。その理由は、バイト以外に個人的なインタビュー活動をしていて、自分の働き方のために時間を割かれるからです。

 2年前から母が認知症になり要介護状態になりました。兄弟は離れて暮らしていますので、私が母の世話をしています。家事はある程度、母と分担しながらやっています。

 そういう意味では8050問題(介護問題など高齢化するひきこもり親子の問題)のど真ん中でしょうが、介護問題はひきこもりに限った話ではなく、誰にでも起きる話であって、ぼくはむしろ独身者問題だと捉えています。8050問題はいずれ社会の問題となる。いまの8050問題の取り上げ方は社会問題ではなく、社会の病理という捉えかたでしょう。それはあまり生産的な議論ではありません。

――川崎殺傷事件や練馬事件の報道を見て、どう思われたでしょうか。

 一連の事件によって、ひきこもりは「犯罪予備軍だ」という印象が強くなったのは間違いありません。ただ、それはごく一部の人のことであり、当然ながらひきこもり全体のイメージとして語るのは間違っていると思わざるを得ません。

――いまの社会状況では「中高年のひきこもり経験者」である杉本さんも、日ごろからナイフを待って街中をうろついているという偏見を持たれそうですけれども?

 そんなこと想像もつかなかったなぁ(笑)。私も若い時そうでしたが、そもそも家の外に出るのが怖かったり、疲れやすかったりするのがひきこもりではないでしょうか。

――「みんなを道ずれに死にたい」という衝動に駆られたことは?

 むしろ私は死ぬのが怖い人間なんですよ。死ぬくらいならとことん逃げます。確かに10代のころはパンクロックが好きでしたし、その気持ちもわからないくもないですが、いまそんな衝動はないし、自分自身では想像もつかない。逆に若い世代の夫婦と小さな子が公園で遊んでいると「これぞあるべき平和だな」と思います。今でも戦争やテロがある中で。ですから基本的に平和主義者です。

 しかし、孤立感や絶望感が深く、理不尽な目にあった人は暴発することもあるでしょう。それはひきこもりだからというより、人の中にあるさまざまな感情の混乱だと思います。

――犯行に及ぶまで気持ちが暴発してしまう人と、杉本さんのように公園で親子を見て目を細める人、その差はどこにあると思いますか?

 私がひきこもったきっかけは、そもそも兄と父の関係が悪く、その反動で兄から私は「お前は軟弱者だ」などとよく言われました。いまから考えればたいしたことがない話ですが、長く続く威圧的な言動によって「家に居場所がない」と感じるようになりました。

 そんななか中学時代、私はテストでのカンニングを見咎められ、それを機会にクラスの人たちが自分をさげずんでいるのでは?と邪推したのが対人恐怖のきっかけなんです。

 学校と家に居場所がない。そのストレスによって、自分が醜いという強い妄想(醜形恐怖)に捉われ始めます。当然、対人恐怖もありましたし、当時の私は病的でした。

「オレを見たらみんな逃げるんだ」と私が言うと、両親は「そんなことはないよ」と言ってくれるのですが、妄想が否定されるほどに自分の醜形に確信を深めていきました。

 そんなときに救われたのがセラピストとの出会いです。その先生は、私の話をさえぎらず、否定せずに聞き、最後に「つらいでしょうね」と言ってくれたんです。最初、私はその先生も信じてなかったんです。どうせオレを説得する気だろう、と。でも、説得はせず「つらさを軽減できる方法を探りましょうか」と言ってくれました。

 そこからですね、徐々に変わったのは。世の中いろいろな人がいるなぁと。

 もちろん、すぐに対人恐怖は抜けませんでしたが、頭のどこかで「わかってくれる人がいる」と思えたんです。いま現在、さまざまな研究者の人などにインタビューする活動をしていますが「人と出会うことでワクワクする」という経験を積み重ねています。

 苦しくても「この世に生まれた自分を殺したい」とまで思わなかったのは、苦しさに共感してくれた人と出会えたからだと思うんです。

――なるほど。ちなみに、ひきこもりのきっかけとなったお兄さんとの関係は今ではどうでしょうか?

 それはもう大人の付き合いですよ。おたがいに会っても「どうも」「どうも」と礼儀正しく、サラリーマンどうしみたいな深入りをしない関係です(笑)。

――ありがとうございました。(聞き手/全国不登校新聞編集長・石井志昂)

*  *  *
 一口に「中高年のひきこもり」と言っても、そのかたちは実に多様です。そして、杉本さんの話のポイントは「共感」だったと私は思います。

 子どもが「オレの顔を見たらみんな逃げ出す」と言っていたら、私だって杉本さんの親と同じように「そんなことないよ」と言ってしまいます。でも、その一言は本人からすれば「私の苦しさが否定された」と思うのです。

 逆に否定も肯定もせずに「つらかったよね」と共感することで、本人は「苦しい自分が受け入れられた」と思い、心を開いて快方へと向かう。それが杉本さんの例でしたが、これは理想論ではなく、数々のひきこもり経験談で語られてきた実践的な手法です。

 こうした手法が広がっていくことは、川崎事件や練馬事件のように許されざる犯行を防ぐ手立てのひとつになるのかもしれない。私はそういうふうにも思っています。

■プロフィール
すぎもと・けんじ/1961年、札幌市生まれ。高校で不登校中退。中退後と20代後半に長期間、ひきこもった。現在はフリーターのかたわら、『ひきこもる心のケア』(世界思想社)を出版。WEBサイト「インタビューサイト・ユーフォニアム」運営。

【おすすめ記事】50代ひきこもりと80代親のリアル 毎年300万円の仕送りの果て


このニュースに関するつぶやき

  • 生存が保証されていることから来る怠け病ですよね。途上国なら「引きこもり」なんて存在し得ないのでは?憲法改正時には、是非、25条にも手を付けて欲しいものです。
    • イイネ!1
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  • 共鳴、共感の言葉が何よりも有効な特効薬であるのは、ひきこもりばかりではない。精神的ストレスを抱えたうつ病患者についても同様である。
    • イイネ!58
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