福山雅治は答えのない問いに挑み続ける 『集団左遷!!』が『半沢直樹』とは決定的に異なる理由

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2019年06月10日 06:11  リアルサウンド

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 6月9日に放送された日曜劇場『集団左遷!!』(TBS系)第8話で、片岡(福山雅治)は常務の隅田(別所哲也)の指示を受けて日本橋支店の極秘調査を行う。


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 三友銀行の存続にかかわる事実が明かされた第8話で、銀行上層部が抱える闇はクリアになるどころか、さらに事態は錯綜。もはや誰が味方かもわからない混沌とした状況となっている。その簡単に割り切れないグレーさが一般社会の矛盾を表しているようでもある。


 新たに支店統括部長として横山(三上博史)の派閥に加わった梅原(尾美としのり)が片岡に言う「きれいごとじゃ家族は守れない」という言葉は、あつれきに揉まれながら組織の中で日々奮闘するサラリーマンには心中ひそかに響くものがあったのではないだろうか。


 また無人店舗の導入や外資への身売りといった話題は、現実に合理化を進めている金融機関や企業にとってはまったく他人事ではなく、ドラマ終盤にかけてどのように描かれるかにも注目したい。


 そんな中で「銀行や顧客のためになるか」を自身に問いかける片岡の行動原理はシンプルであり、ある意味で潔い。片岡の中にあるのは「1人の銀行員として後悔しないか」という基準であり、支店全員の残留というミラクルを起こした第1章で、片岡が“がんばり抜く”ことができた原動力も、結局のところその一点に尽きると言っていいだろう。


 蒲田でともに戦った同志の真山(香川照之)が「銀行員として正しいことをやりましょう」と片岡を励ます場面や、融資部の若手・新堂(馬場徹)が見かねて片岡を手助けする描写もあり、銀行員にとっての正義を貫く意味をあらためて提示した第8話だった。


 一方で、片岡や隅田と対立する横山にとっては、大規模なリストラを進め、内部工作や外部との連携を図ることが正義であり、自身の正義を理解しない人間がいることも重々承知の上だ。それでも己が信じる道を貫く横山には、それ相応の信念と理由があると推察される。だからこそ鮫島(小手伸也)や梅原もあえて横山についているのだろう。


 下剋上ドラマという点で『集団左遷!!』と『半沢直樹』(TBS系)には共通点がある。しかし、「倍返し」という言葉に象徴されるように、『半沢直樹』の本質が復讐劇であることに対して、『集団左遷!!』の主人公・片岡は過去の因縁やルサンチマンに駆り立てられているわけではない。


 片岡が理不尽や不正と戦うのは、あくまでも銀行員としての信念によるものだ。たしかに勧善懲悪のシナリオは胸がすくが、復讐は次なる復讐の連鎖を生むこともある。「リストラを言い渡されたとしても、オレ自身が納得できればそれでいい」という片岡の言葉に物足りなさを感じるとすれば、それは、私たち自身が復讐という劇薬に麻痺して、より直接的で単純な解決策を望んでいる可能性を示唆しているのではないだろうか。


 ともあれ、もはや片岡個人の手に負える問題ではなくなってきた。1人の銀行員として、片岡は答えのない問題にどのように向き合うのだろうか。同じくTBS系で放送中の『わたし、定時で帰ります。』もそうだが、今期クールでは、働くことや生き方について視聴者一人ひとりに問いかける作風の傾向が見られる。その答えは、人によって、また置かれた状況によって異なるが、令和という新しい時代がはじまったタイミングだからこそ、一度立ち止まって考える価値のある問いかけなのだ。


■石河コウヘイ
エンタメライター、「じっちゃんの名にかけて」。東京辺境で音楽やドラマについての文章を書いています。


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