『わたし、定時で帰ります。』スタッフが語る撮影の裏側 成功を支えたのは役者とのチームワーク

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2019年06月17日 16:11  リアルサウンド

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『わたし、定時で帰ります。』(c)TBS

 いよいよ最終回を迎える『わたし、定時で帰ります。』(TBS系)。「定時帰り」をモットーにしている働き方新時代のワーキングガール・東山結衣(吉高由里子)を主人公に、ワークライフバランスをとる難しさや、パワハラ、変わりゆく仕事観と丁寧に向き合ってきた。


参考:桜田通が『わたし、定時で帰ります。』の一ファンとして思うこと 「弟役ハードルめっちゃ高い!」


 本作に込められたプロデューサー新井順子氏、八尾香澄氏の想い、そして最後まで笑いが絶えなかった収録現場の思い出について、語ってもらった。


■「みんなの人生のバランスを見直すきっかけになれば」
――まずは、どのようなきっかけで『わたし、定時で帰ります。』がドラマ化されたんですか?


八尾香澄(以下、八尾):去年の春ぐらいに、本屋さんの新刊コーナーに、原作の小説が並んでいるのを見つけたのがきっかけですね。すごく目についてハッとするタイトルだったので、手に取って読んでみました。我々って、こういう業界なので、なかなか「定時」という概念がなくて、長時間労働にも慣れているというか。なので、最初は“主人公の東山結衣のように生きられる人って、なかなかいないよな”みたいな気持ちでいたんです。けど、読み終えたころに“実は休もうと思わないと休めないものなんじゃないか”と、意識が変わっていたんですよね。休むことを、ないがしろにしていた自分自身に気づいたというか。ちょうど働き方について注目が集まっている時代ですし、今これをドラマにして、みんなの人生のバランスを見直すきっかけになれば、と思いました。


――原作のあるドラマですが、主人公の吉高さんを筆頭に、キャラクターのイメージとキャスティングがマッチしていて、素晴らしいと思いました。


八尾:そうですね。吉高さんは、初期の段階でイメージに入れていました。ともすると『わたし、定時で帰ります。』って、スーパーウーマンが1人で仕事をバリバリとこなして帰るみたいなドラマに見られがちだったりするんですけど、この作品の面白いところは、主人公が特別じゃないところだと思っていて。何か強い信念があるわけでもなく、取り立てて趣味があるわけでもなく。できれば他人のトラブルには関わりたくないし、でしゃばりたくない。そんな巻き込まれ型の主人公を、魅力的に演じていただける方は誰だろうと考えたときに、吉高さんの持っている軽やかさだったり、どこか自由な雰囲気がぴったりだ、と思ったんです。種田晃太郎役の向井理さんは、“ハマったな”って感じですね。


――オンエアの度にSNSで「種田さん」がトレンド入りするくらい、大人気ですね。


八尾:嬉しいですね。晃太郎は、ただ無骨で無口ってわけじゃなくて、ちょっと隙がある絶妙なキャラクターなんですよね。仕事ではデキる男なのに、抜けてるところもあるというか。たまに、ふと見せる笑顔がカワイイ、じゃないですけど。そんなキャラクターを向井さんが演じていただけたら、面白いんじゃないかと思ったんですけど、想像以上に反響があって驚いています。


新井順子(以下、新井):ただ、何をやってもカッコよくなってしまうのが大変で(笑)。そもそものコンセプトは、髪もちょっとボサボサで、少しダサいくらいにしたかったんです。でも、どんな服を着せてもシュッとしちゃって。衣装さんが用意していただいた服じゃ、カッコよくなっちゃって。「地味なTシャツ、パーカー買ってきてー」って頼みましたもん(笑)。


――たしかに、仕事に集中するあまりお弁当のバランを食べてしまったり、ケーキのクリームを口につけてもぐもぐしていたりと、可愛らしい演出も随所に散りばめられている印象ですが、あれはどなたのアイデアですか?


八尾:我々プロデューサー陣だったり、監督だったり。バランを食べちゃうのは、台本の段階で入れこみましたね。向井さん自身は多少照れながら演じていらっしゃいますが。萌え袖は、新井さんのアイデアでしたっけ?


新井:はい、私が(笑)。現場で「アチチって器を袖を伸ばして持ってください!」って。その場の直感で調整しながら。向井さんをどうやって崩していくかってことを考えていました。


八尾:ただカッコいいからこそ、気をつけていたのは、晃太郎の存在が甘くなりすぎないようにするってことでした。8話で酔っ払った結衣を晃太郎がおんぶするシーンも、「乗れ」の後の「早く」のセリフのニュアンスがすごく難しくて。「早く〜」って少しでも優しすぎる言い方になると、女性目線ではキモく感じてしまうというか。実はあのシーンのセリフは編集の段階で、「ごめん、もっとぶっきらぼうに言って!」と撮り直させてもらったんです。


■「些細な日常を描くのが、こんなに難しいとは」
――たしかに、あの段階で晃太郎が結衣を抱きしめてしまったり、眠っている結衣に触れてしまっていたら、このドラマらしさがなくなるというか。


新井:そうなんですよね。恋愛要素もありますが、基本的には働き方を見つめる、お仕事ドラマでありたくて。でも、仕事ばっかりやってても「……で?」ってなるのは、現実も同じじゃないですか。仕事もあって、家族もあって、恋愛もあって。それぞれのスパイスがあって、日常が成り立ってる。ドラマとして、どの要素をどの程度見せていくのがいい塩梅なのか、些細な日常を描くのが、こんなに難しいものなのかと思いました。


――キャストのみなさんにもインタビューをさせていただきましたが、みなさん「普通を描くって難しい」とおっしゃっていました。新井さんは『中学聖日記』や『アンナチュラル』『リバース』、八尾さんは『重版出来!』とこれまで人気ドラマを手がけてこられましたが、そうした作品に比べると本作ではどこにでもあるような「日常」のオフィスが舞台ですもんね。


新井:会社が倒産したり、警察が出動するような大事件は起こってないですからね。


八尾:振り返ってみると、1話から「風邪を引いたら休みましょう」とか「趣味を見つけてみましょう」とか、きっと今までなら「それドラマにならないでしょ」っていうくらいすごく小さな話をしているんですよね。それが脚本家さんや演出家さん、役者さんの力もあって、今描くべきものにちゃんとなっているのが、すごいなって思っています。


■「実は私たちも定時に帰って飲みに行っていました」
――中丸雄一さんが演じる諏訪巧と種田晃太郎の対比も、盛り上がっていましたね。


八尾:結果的にすごくいい対比になったと思っています。当初、巧のキャラクターって、ちょっと晃太郎に似てしまいそうだったんですよね。でも、中丸さんが演じてくださったおかげで、ほっこり感が増しました(笑)。だいたいシーンのセリフが終わった後もしばらくカットをかけずに、ふたりがアドリブでキャッキャしてるのが微笑ましくて、そのまま採用しています。


新井:吉高さんと中丸さんは、アドリブ対決って感じで本当に面白くて。鼻を押して遊んでいるシーンなんか最高でしたよね。よく見ると中丸さんが「ん?」って、ちょっと間があるんですよ。きっと吉高さんのアドリブに“どう返そう”って迷ったと思うんですが、とっさに出た言葉が「強い〜っ!」って。あれは現場にいたスタッフみんな大爆笑でした。


八尾:カットがかかって、中丸さんが「今のリアクション、合ってましたか?」って聞いてましたけど、みんな正解なんてわからないから「いいよ、いいよ!」って(笑)。


ーー撮影現場を見学させていただいたんですが、すごく和やかで楽しそうだなと感じました。キャストのみなさんも「こんな現場なかなかない」っておっしゃっていたのが印象的だったんですけど、やっぱりこの雰囲気は主演の吉高さんによるものが大きいですかね。


新井:大きいですね。あとスタッフもみんな仲良いですし。いじりいじられやってるっていうか。


八尾:スケジュールが押すこともほとんどなかったですよね。結衣ちゃんが大体定時で帰るから夜のシーンも少なくて、私たちも定時に帰って飲みに行っていましたもんね。


新井:「また行くの?」って言われるくらい(笑)。


――そんな思い出深い作品の中で、おふたりが印象に残っているシーンやセリフはありますか?


八尾:うーん、どの話も好きなので選びきれないですね。例えば、2話で「あんたが思ってるほど時代は進んでないんだよ」みたいな感じとか、4話で結衣が吾妻(柄本時生)に大きな目標がなくてもいいじゃんっていう感じの言葉は、そういうことを考えている人たちにかけてあげたい言葉だなと思いましたし。7話のお父さんとのくだりも編集で見てて号泣しました。結衣の視点は常にフラットでいたいなというのが1個あって。「こういう人を正解」「こういう人を不正解」としない結衣の姿勢は、全話を通してずっと意識していました。毎回、脚本作ってる時も今回どれが1番言いたいことだろうかっていうのを、みんなで議論して。じゃあ「働きすぎるの何がダメなんだ」っていう、福永さん(ユースケ・サンタマリア)が突きつけてくる部分の答えは、ぜひ最終回で感じてほしいなと思っています。


新井:私も好きなシーンがありすぎて、逆にコレって出てこないです(笑)。ただ、『吉高由里子』という人の生き方を見て、楽しく生きようと思いました。色々思ってることはあるんでしょうけど、毎日楽しそうで。そうやって周りを明るくして自分が楽しそうに生きていけたらいいなって思いましたね。


八尾:フットサルしてる吉高さんが最高に可愛かったですよね。あれは5回ぐらいリピートで見ました。ボールを手で持っちゃうとことか、演技なのかわからないんですけど。いやー、これは天才的だなって思いましたけどね。


新井:こうやって仕事をすれば、現場って楽しいんだなとか、仕事って大変だけど、気の持ちようで毎日が楽しくなるんじゃないかなって。


■「正解のない問いに、結衣を見て自問自答していただければ」
――最後に、このドラマのコピーでもある「あなたは何のために働いていますか?」に対して、おふたりなりの答えはありますか?


新井:なんだろう……私は趣味だから、かな。仕事が趣味という意味じゃなくて、ドラマが趣味で、好きなんですよ。たぶん、ドラマじゃなかったら、プロデューサー続けてないかもしれないですね……と思うけど。収入が半分になってもやり続けられるのかな。どうですか?


八尾:私も、物語を作るのが好きでやってるんですよね。ドラマでも映画でも、何でもいいんですけど。そういうものだったら多分辞めないかもしれない。もしかしたら漫画の編集者とかでも続けられるかもしれないですね(笑)。生活のためだけど、好きじゃないとできない……んじゃないかな。


新井:きっと、そんなふうに自問自答していただければいいと思うんです。自分は何のために働いているのか、どうしたら楽しく生きられるのか。これが正解、というものはないと思うので。


八尾:そうですね。仕事においても、プライベートにおいても、きちんと結衣の意志を描いたつもりなので。それを踏まえて、自分はどうなのかと考えていただけたら嬉しいです。


(取材・文=佐藤結衣)


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