進歩する血友病治療、世界中の患者さんが恩恵を受けるにはなお道半ば

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2019年06月18日 16:10  QLife(キューライフ)

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血友病として生まれてきても、プロのスポーツ選手を目指せる時代に

 血友病は先天性の血が止まりにくくなる病気で、男子の5,000〜1万人に1人の割合で出生するといわれています。かつては治療法もなく、血友病患者として生まれた帝政ロシアの王子の存在が、祈祷僧ラスプーチンの暗躍を招き帝国滅亡の一因となったという話をご存じの方もいるのではないでしょうか。

 血友病では血液を固めるために必要なタンパク質(血液凝固因子)が不足または欠乏するため、出血すると血液が止まりにくくなります。関節や筋肉のなかで出血が繰り返されると、血友病性関節症といって関節に障害が残ってしまうこともあります。そのため患者さんは、出血の危険を回避するために運動を控えるなど、制限の多い生活を強いられてきました。しかし現在では治療法も進歩し、血友病として生まれてきても、プロのスポーツ選手や登山家として活躍する患者さんの姿も見られるようになりました。

 血友病で不足・欠乏する血液凝固因子は、第VIII(8)因子という8番目のタンパク質、または9番目のタンパク質である第IX(9)因子です。不足・欠乏している血液凝固因子を補う治療として、1940年代から輸血や血液製剤の投与が行われてきましたが、1980年代には治療を介してヒト免疫不全(HIV)ウイルスやC型肝炎(HCV)ウイルスへの感染が社会問題となったことも。1990年代に入って血液を使用しない製剤が登場し、不足・欠乏している血液凝固因子を定期的に補充する「定期補充療法」が浸透し、血友病患者さんの生活の質(QOL)は大きく改善されてきました。定期補充療法は、定期的な注射が患者さんの負担になっていましたが、2010年代に入って効果が長時間続く製剤が登場したことで、補充する頻度が減り、負担軽減につながっています。

治療を行き渡らせるために、まずは知ることから


大阪医療センター感染症内科医長
西田恭治先生

 血友病の治療薬である血液凝固因子製剤を製造・販売するサノフィ株式会社は、5月29日に「血友病治療の現在とこれから」と題してメディアラウンドテーブルを開催。登壇した大阪医療センター感染症内科医長の西田恭治先生は、血友病の治療は確かに進歩したものの、世界に目を向けると、進歩の恩恵に与かれない患者さんがまだまだいると指摘しました。

 その背景にあるのは、経済格差です。高所得国である先進国の患者さんは、最新の治療を受けることができ、QOLも向上、活躍の場が広がっていますが、「そもそも世界中の血友病患者の多くがまだ診断もされていないという現実がある」と西田先生。世界での推定患者数47万5千人に対して、確定診断されている患者数は約4割(18万7千人)、血液凝固因子製剤による治療を受けている患者さんは約1割(5万7千人)という報告があるそうです1)。世界血友病連盟(WFH)の調査2)によると、中所得国、低所得国では第VIII因子製剤の使用量が高所得国の1/3以下と少ないことがわかっています。

 WFHは、こうした格差を是正するために活動している団体で、1963年に設立され、世界134か国が加盟しています。同連盟では、生きていくうえで必要な血液凝固因子製剤を最低限の量すらも使用できていない国の患者さんへ、血液凝固因子製剤を届け、医療従事者に血友病治療を指導するなどの活動を行っています。同連盟の活動を通じて、血液凝固因子製剤の供給量は年々増えてきています。治療を受ける患者さんや、定期補充療法を行う患者数も増えてきているそう。それでも、課題はなお多いという西田先生。世界中で治療を受けられない血友病患者さんのうち、同連盟の取り組みで治療が提供できたのは、わずか10%との報告もあり1)、「世界には治療を受けられずにいる患者さんたちが多くいることを、まずは多くの人に知ってほしい」と西田先生は訴えました。(QLife編集部)

1)Pierce GF et al.:Haemophilia. 2018;24(2):229-235 2)World Federation of Hemophilia:Report on the annual global survey 2016

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