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「発達障害」職場で伏せざるを得ない窮状、周囲も疲弊…「働きやすさ」どうすれば

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2019年06月21日 08:00  AERA dot.

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写真職場では…(AERA 2019年6月24日号より)
職場では…(AERA 2019年6月24日号より)
 発達障害を持つ当事者の苦悩もあれば、共に働くことで生じる苦労もある。職場の本音に耳を傾ければ、「共生」に必要な課題も見えてくる。

*  *  *
 うつむき加減の横顔に苦渋がにじんだ。

「しんどい思いをしながら、職場にしがみついています」

 20代の男性会社員は2年前、ADHDとASDの診断を受けた。職場ではそのことを伏せたまま働く「クローズ就労」を続けている。男性は、これまでの人生をこう振り返った。

「人並みの努力で人並みの成果を得ることができない。この悩みが原因で、怒りやむなしさも感じています。普通になりたかったし、今も普通になりたい。20年以上こんなコンプレックスを抱えて生きてきました」

 小学生の頃から頻繁に学校の連絡事項を聞き逃した。団体行動が苦手で周囲から浮いてしまい、いじめにも遭った。大学生時代、飲食業のアルバイトで注文を取ることもできず、店長から「こんなに覚えの悪いバイトは見たことがない」と呆れられた。だが、当時は深刻に受け止めなかった。短期で辞めても生活に支障はなかったからだ。

 だが就職後、状況が一変する。

「できない理由ばかり考えないで、主体的にどうやったら解決できるか考えて」

 成長や自発性が求められる職場で、常に指示を待つ状態の男性を見かねた上司から、あるとき、こんな指導を受けた。どう解釈すればいいのかわからず、男性はフリーズした。

「自分で解決しなければいけないとはわかっているんですが、業務に向き合う根本的な意義を見いだせず、混乱が続きました」

 興味のある分野しか集中できないのは、ADHDやASDの特性のひとつだ。周囲に迷惑をかけているという罪悪感や劣等感で、男性は強いストレスにさらされた。

「もうボロボロで仕事を辞めたいと思うようになって……。発達障害を疑って受診しました」

 診断の翌年、定型業務を比較的マイペースでこなせる部署に異動し、順応できるようになった。会社が「配慮」したのかはわからない。

「今は何とか続けられていますが、異動したらどうなるのか、常に不安はあります。お金をもらう以上、成果を出さないといけないのは、十分承知しています。でも、あまり仕事ができなくても、『ここにいていい』という安心感があるのが理想です」

 発達障害を持つ人の割合は数十人に1人にのぼるとされる。「傾向がある」「疑いがある」あるいは「自分もそうかもしれない」と悩む、“グレーゾーン”の人も含めるとさらに多い。

 その大半はクローズ就労をしている。当人に自覚がない場合もあるが、カミングアウトできない主な理由は、職場の理解を得られず退職に追い込まれるのでは、という不安だ。背景には、発達障害の特性や対応について理解せず、偏見もある社会の現状がある。

 ADHDの疑いがあり、2次障害で通院しているグレーゾーンのオムさん(ハンドルネーム)も、クローズ就労を続けている。職場では苦労してきた。特に電話応対が苦手で、商品説明を求められた際、頭が真っ白になり、受話器を握りしめたまま硬直したことがある。異変に気付き、応対を代わった先輩から、こんな言葉が飛んだ。

「新卒じゃないんだから」

 当時、20代半ば。屈辱と罪悪感で体が熱くなった。その後、適応障害の診断を受けた。

「グレーゾーンの人も生きづらさを抱えていることに変わりはありません。同じ悩みを抱える人の居場所づくりが必要だと考えました」(オムさん)

 2017年、オムさんは当事者とグレーゾーンの人の支援団体「OMgray事務局」を立ち上げた。現在はピアサポートを中心にイベントや交流会などを行っている。

 心療内科医で産業医も務める国際医療福祉大学教授の中尾睦宏医師は、職場での発達障害に関する相談には、大別して「2種類がある」と言う。

「ひとつは、発達障害の特性がもとでうまくいかず、苦しんでいる当事者からの相談。すでに診断のあるケース、職場でのトラブルから発覚するケース、本人に自覚がないケースなど、当事者もさまざまです。もうひとつが、発達障害の特性のある人の周囲が参ってしまった、という相談です」

 仕事上のトラブルや人間関係の軋轢に悩むのは、当事者に限らない。周囲も苦悩している。

 ある臨床心理士の女性は、ローテーション勤務でカウンセリングを行っている。相談内容の引き継ぎなど、情報共有が必須だ。だが、「報告・連絡・相談をしておかないと周囲が困る」という想像が全くできない同僚に悩まされている。

 職業柄、女性は発達障害の知識があり、この同僚はその可能性が高いとみている。本人には自覚がない。情報共有について注意した際は、「こんなに頑張っているのに」と逆ギレされた。「周囲が一方的に『発達障害』のレッテルを貼るのは許されないし、危険なことだと思います」と断ったうえで、女性は嘆く。

「発達障害の特性のある人と職場で日常的に接していると、注意しても一向に改善せず同じことが繰り返される状況に、周囲も疲弊してしまう」

 話だけを聞くと、外部は「指導不足」「相性が悪い」などと考えがちだ。「表層しか見えていないのでは」と女性は言う。

 こんなケースもある。

「こんな議論は無意味。あなた、もう辞めたら!」

 会議中、50代の女性職員が突然大声を張り上げた。進めてきた議論を振り出しに戻しかねない剣幕に、周囲は「またか」とうんざりした表情を浮かべる。

 この女性は能力が高く、配属当初は上司も一目置く存在だった。だが、イベントや会議で同僚らと顔を合わせるたび、相手の人格を否定する暴言を浴びせるなど、問題行動を繰り返した。

 周囲には女性への不満がたまっていった。「我慢できない」「もう許せない」「一緒に働きたくない」……。

 60代の先輩職員は、周囲がこの女性にかき乱される様子を目の当たりにした。女性も孤立を深め、やがて離職した。職場の外でこの女性が「自分はアスペルガー症候群だ」と話していたことを、後に知った。

「本人もつらかったはず。プライドや恐れを捨てて、そのことを職場で明かしてくれれば、周囲との摩擦も少しは緩和できたかもしれません。私たちにはもっとできることがあったのでは、と悔やんでいます」(先輩職員)

(編集部・渡辺豪)

※AERA 2019年6月24日号

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このニュースに関するつぶやき

  • う〜む自分は貧乏で幼児期から両親と饅頭の製造と梱包と販売していて更に中卒で働いていたからね(・ω・)子供の頃貧乏だからといじめにもあったけどね(・ω・)
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  • 企業側からしたら「正直に申告して」。そうでないと、職務能力がなくてむしろマイナスの使えない人評価になる。企業側は「申告したら配慮するし不利益にはしない」の姿勢が大事
    • イイネ!274
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