『ジョナサン』監督が語る、アンセル・エルゴートの将来性 「まだまだ伸びしろがあると思う」

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2019年06月22日 10:01  リアルサウンド

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(左から)アンセル・エルゴート、ビル・オリバー監督 (c)2018 Jonathan Productions, Inc. All Rights Reserved

 アンセル・エルゴート主演映画『ジョナサン -ふたつの顔の男-』が、現在公開中だ。本作は、脳に埋め込まれたタイマーにより、その人格が12時間で切り替わるよう設定している、ジョナサンとジョンというひとつの身体にふたつの人格を持つ男の姿を描いたサスペンスだ。


参考:アンセル・エルゴートが演じきった2つの人格 『ジョナサン -ふたつの顔の男-』は“愛”の映画に 


 監督を務めたのは、本作が長編初監督作となるビル・オリバー。本作のアイデアが生まれた背景や影響を受けた作品、そしてジョナサン/ジョンを演じたアンセル・エルゴートについて、話を聞いた。


ーーひとつの身体にふたつの人格をもち、その人格を、脳に埋め込まれたタイマーによって12時間で切り替わるよう設定された男の姿を描くというアイデアはどこから生まれたのでしょうか?


ビル・オリバー(以下、オリバー):もともとの着想は、高校時代に自分の友人がロッカーの鍵を朝開けようと思ったら、数字が変わっていて開けられないといった出来事があったんだ。そこで、その友人が「ひょっとしたら自分の身体や意識が誰かに乗っ取られていて、夜中にその別の誰かが覚醒して行動を起こしているのかもしれない……」といったようなことを言っていたんだけど、昼と夜とで別の人間が入れ替わっているというのは面白いなと。そこから生まれたアイデアだったんだ。


ーー脚本は、これまでも何作か一緒に作品を作っているピーター・ニコヴィッツと共同で執筆しているんですね。


オリバー:基本的に最初は二人で話し合いながらアイデアを出し合って、大体の概要が固まった時点で書き始めるんだけど、作業自体はその時によりけりで、交代でシーンを書いたり、ピーターが全部書いて、それを僕が推敲して書き直したり書き足したりという形もあるんだ。ただ時には何カ月とか何年もの間、二人で部屋にこもって親密にやっていくといったように、とても密接なコラボレーションをしながら作っているよ。でもときどき、イライラして口論したりもするけどね(笑)。でも、もし口論になったら第三者の意見を聞くこともあるんだけど、二人でとことん話し合って解決策を見つけていくほうが、より良い意見が出てくるということもあるよ。僕はどちらかというとジョナサン寄りの性格なんだけど(笑)、面白いことにピーターはジョンなんだ! お互い良いコンビでうまくいったなと思ったよ。彼はすぐに感情的になるし、自分とは真逆のタイプで、ある意味この映画は僕たち二人の関係をベースにしていると言えなくもないかな。


ーージョナサンとジョンという一人二役を務めたアンセル・エルゴートは見事な演技を披露していました。今回彼を起用した理由について教えてください。


オリバー:彼が『ベイビー・ドライバー』(2017年)で大ブレイクするよりももっと前の話なんだけど、『きっと、星のせいじゃない。』(2014年)を観て、カリスマ性のある役者だと思っていたんだけど、この企画を練っていた時点では、アンセルの年齢が当初の設定より若すぎて、候補者の優先順位としては低かったんだ。ジョンの方はうまく演じてくれると思ったんだけど、ジョナサンの方はどうだろうという疑問があった。でもそのあとに『ステイ・コネクテッド〜つながりたい僕らの世界』(2014年)で、内向的なとてもシャイな役を演じているのを見て、彼ならジョナサンを演じられるかもしれないと思い始めた。そういった色んな要素とタイミングが重なり、実際会ってみての相性とかも含めて、彼に決めたんだ。


ーー実際に一緒に仕事をしてみてどうでしたか?


オリバー:アンセルはこの作品で演技の幅の広さを証明したと思うよ。だけど、彼にはまだまだ伸びしろがあると思うし、次回作として決まっている『The Goldfinch(原題)』をすごく楽しみにしている。彼に限らずだけど、俳優が持っているあらゆる側面というものを、一つの作品で発揮できるというのはなかなかないチャンスだから、そういった面では監督する身として自分も興奮したし、アンセルが出演を決めた理由のひとつもそこが気に入ったというところもあるんじゃないかな。彼が主人公で、全編を通してほぼ出ずっぱりというのもあるけど、今まで見せたことのないところも自分自身で探求しながら演じていけるのが醍醐味だったとアンセルも言っていたね。僕が撮影中、特に感心したのは、ジョンのビデオメッセージをジョナサンが見ているという、一番最初のシーンを撮る時に、自分からのメッセージを自分で聞いているというのは、彼にとって妙な感じがして演じにくいのではないかと思ったんだけど、彼は完全にジョナサンモードに切り替わって役に入り込んでいたんだ。まったく別の他人からもらったメッセージを見ているという姿を非常に自然体で演じていて、素晴らしいなと感じたよ。


ーー本作のテーマである「他者との繋がり」は現代社会においても非常に重要なトピックです。本作を手がける上で、そういった社会的な視点もあったのでしょうか?


オリバー:意図的に社会的メッセージを入れ込むということはなかったんだけど、ストーリーを書いてく中で、必然的に現代社会において意味深いテーマが含まれていたかもね。あとは、誰もが共感できるであろう基本的な人間の欲求を核にしたいという部分があったんだ。つまりそれは、アンセルが演じるジョナサンとジョンのある意味でのラブストーリーであったと考えているよ。同じ体に生存していながらも、決して触れ合うことはできない。だからこそ、何らかの手段で繋がりたい。そういった気持ちがより強まっていく。そういったことを描いていく中で、テーマ上に今の社会的な風潮というものにもリンクしていく部分が自然と出てきたんじゃないかな。


ーーとても静かな語り口ながら、どんどん引き込まれる展開、スタイリッシュな映像に魅せられました。監督自身はどのような作品や監督から影響を受けてきたのでしょうか? 特に今回の『ジョナサン』において、意識したり参考にしたりアイデアの元になった作品があれば教えてください。


オリバー:この作品は、SF映画ではあるんだけど人間ドラマに近く、感情面においてもエモーショナルな部分が強いから、雰囲気を持ったSF映画ということで、『わたしを離さないで』(2010年)や『メッセージ』(2016年)、『ブレードランナー』(1982年)を参考にしたかな。あとは二重人格とか双子とかそういったテーマを扱った映画もたくさん観たね。さらには都会の喧騒の中で孤独を抱えながらも社会のはみ出し者で、なにかそのなかでも世間に属したい、繋がりたいといったような渇望を抱えている男を主人公にした映画という点では、『タクシードライバー』(1976年)とか『カンバセーション…盗聴…』(1974年)などの70年代の映画、あとはヨルゴス・ランティモス監督が手がける一風変わったユーモアのセンスのある作品も参考にしたよ。もちろん心理サスペンスという意味では、ヒッチコックであるとか、ビジュアル的な面ではキューブリックの映画にも影響を受けているかな。


ーー最後に、今後手がける予定の作品や挑戦したいジャンルなどがあれば教えてください。


オリバー:色んなジャンルに興味があるし、基本的にドラマティックな内容のストーリーに惹かれるんだけど、特にサイコ・ホラーみたいなものを撮ってみたいかな。あと意外かもしれないけど、ミュージカルも好きだから、いつか挑戦してみたいと思っているよ。あとはテーマ的には、今回の作品でも触れているけど、様々な家族の形というものに非常に興味があって、実際の血縁ではなくても、人が家族を作り上げていく過程にすごく興味があるんだ。自分の中で描いてきたのは、何かしらの過渡期を迎えている人物だったり、何かを通して成長するということ。今回はジョナサンがとても若いので、青春モノといっても過言ではないと思うけど、成長の物語にとても興味を惹かれる。そして今、次回作として取り組んでいる作品も、離婚調停中の主人公がそれを通して成長するという物語を描いているんだ。(取材・文=宮川翔)


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