くるりというバンドの特異な魅力 サポートミュージシャン野崎泰弘(Key)&松本大樹(Gt)が語る

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2019年06月22日 18:11  リアルサウンド

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松本大樹×野崎泰弘(写真=池村隆司)

 現在のくるりを支える重要な2人のプレイヤー、それがギターの松本大樹と、キーボードの野崎泰弘である。京都出身で特に岸田繁(Vo/Gt)とは縁の深い松本と、Superflyをはじめとした多くのアーティストをサポートしてきた野崎は、くるりが3人体制になって以降、2014年から2015年の間にバンドと深く関わるようになり、現在ではツアーのレギュラーメンバーであるだけでなく、プリプロにも参加するなど、完全にチームの一員となっている。ドラムにクリフ・アーモンドを迎えて行われた『ソングライン』のリリースツアー『列島Zeppェリン』を終えたばかりの二人に、くるりというバンドの特異な魅力について話を聞いた。(金子厚武)


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■「くるりは曲ごとにテンションも違う」
ーーまずは二人がくるりに参加するようになった経緯を教えてください。


松本大樹(以下、松本):僕は京都出身なんですが、母親が岸田さんの小学校の担任の先生だったんですよ。記憶にはないんですけど、家に遊びに来たこともあったらしくて、くるりが世に出たときは「地元のすごい先輩が世に出た」みたいな感じでした。僕自身は高校の頃からバンドをやっていて、26歳で東京に出てきたんですが、僕が音楽やってることは知ってくださってて、ときどきライブに伺っていました。2014年に「サポートを探してる」って声をかけていただいて、セッションをしたのがきっかけですね。


ーー音楽的には、どんなバックグラウンドが大きいのでしょうか?


松本:入口は親父が好きだったThe Venturesで、家に楽器があったので、兄がドラム、僕はベースをやらされたんです。親父がギターで、一緒に演奏したかったのかな。でも、すぐに「ギターがいい」ってなって、文化祭でBOØWYのコピーをやったりしました。高校を卒業して、すぐに組んだ男5人のヘヴィなロックバンドを4年間くらいやり、そのバンドが解散してから上京しました。


ーー「ヘヴィなロックバンド」というのは、ハードロックとかヘヴィメタル?


松本:そうですね。そっちに流れて行って……ひたすら必死に練習してました(笑)。


ーー野崎さんはどういう経緯だったのでしょうか?


野崎泰弘(以下、野崎):僕は20代のときにサポートキーボーディストという存在を知ってからずっと憧れていて、アマチュアでバンドを何個か抱えてた中で、30歳のときにSuperflyのサポートをやらせていただいて。それをきっかけにいろんな人と出会い、様々な方のサポートをやらせていただいたことで、今がある感じです。Superflyはお世話になってた方のつてで、たまたま話が来て、当時まだ車で全国を回ってるバンドだったから、「免許を持ってるキーボードいないか?」っていう(笑)。でもそのおかげで、最初の一歩を踏み出せたんです。


ーー松本さんと同じように、音楽的なバックグラウンドも教えてください。


野崎:もともとはクラシックで、その後にハマったのがソウルとかファンクのブラックミュージックだったので、ロックは全然聴いてなかったんですよ。この間の『列島Zeppェリン』でLed Zeppelinのカバーをやったんですけど、この年で初めてLed Zeppelinをちゃんと聴きました(笑)。でも、前に酔っ払った岸田さんに「くるりはロックバンドなんやけど、ロックをあんまり通ってないやつの方がいいときがある」って言われたんです。「クリフもロック通ってないし」って。僕が落ち込んでたから励ましてくれたのかもしれないですけど(笑)、それはすごく覚えてますね。


ーーくるりというバンドの魅力、独特な部分をどのように感じていますか?


松本:求められてる答えとは違うかなと思うんですが、メンバー3人とも京都出身で、僕もやから、東京にいてもくるりの現場にいるときは京都のマインドになるので、それは他のバンドとは違いますね(笑)。


野崎:京都の人の中に一人だけ東京もんがいると疎外感がありますけど、僕は岸田さんと佐藤(征史)さんと同級生なので、中二みたいなくだらない話をずっとしてるんです(笑)。


松本:のっち(野崎)は中毒性のある人なので、ハマればみんな好きになると思いますよ。フィーリングがすごく音に出るので、同じ曲でも「今日、音違うぞ。昨日ええことあったんかな?」って、ちょっとしたタッチからわかる人。くるりも中毒にやられてるんだと思います(笑)。


ーーくるりの音楽についてはどうですか(笑)?


松本:くるりの音楽って、すごく幅広いじゃないですか? やっぱり、そこが魅力のひとつやと思います。曲によって自分自身のキャラも変わるし、ツアーによって違う一面を出すこともたくさんある。『列島Zeppェリン』のセットリストの中でも、ハードなものからポップなものまであって、曲ごとにテンションも違いますし。今はそれが当たり前なので、そこまで意識はしてないですが、最初はそこが他にない難しさであり、楽しさでもありました。ギターの役割自体も、他の現場は「曲に合わせたギター」でしかないけど、くるりだと一パートのときもあればメインのサウンドを担うこともあるし、ギター以外の楽器を弾かせてもらうこともあるので、自分の音楽性も広がってる気がします。


野崎:くるりの曲って、キーボードが全面に出ることはそんなになくて、そもそも楽曲的に入っていないことも多いから、毎回悩むというか、いろいろ考えることは多いです。前にやったことがある曲でも、その都度したいアレンジがあって、それが伝わってくると、「違うアプローチをしなきゃ」って。まあ、違うときは「違う」とはっきり言ってくれるので、わかりやすくはあるんですけど。


■「くるりの曲は、最初はまず弾けない」
ーーライブやツアー以外、曲作りにはどの程度かかわっているのでしょうか?


松本:プリプロにも声をかけてくださるので、結構関わることが多いですね。ドラマーはそのときどきで変わりますが、僕らはスケジュールさえ合えば参加させていただいてます。


ーー以前はセッションで曲を作ることが多かったけど、近年は岸田さんがDAWでデモを作ってきて、それを基にレコーディングをすることも多いそうですね。


松本:そうですね。くるりのプリプロは大きくふたつのパターンがあって、ゼロから作るときは、とりあえず楽器を持って、メンバーなりスタッフなりがワードを出すんですよ。昔、関西でやってた『ざこば・鶴瓶らくごのご』(朝日放送)みたいに、ワードから連想される音を出していくやり方です。もうひとつはDAWで作った各パートのトラックをもらって、こちらである程度準備して、あわせて行くやり方。その中のひとつが『列島Zeppェリン』でやった新しいプログレの曲で、あれは最初からある程度作りこまれたものをもらって、あわせた曲です。


野崎:打ち込みのピアノを聴いて、最初は「無理です」って思うんですよ(笑)。「Tokyo OP」とか、さっき言った新曲とかって、最初はまず弾けない。だから葛藤するんですが、どうにか弾けないかと思って、何日か家に籠って練習してると、「弾けるかも」ってなってくるんですよね。自分だけだと簡単なのしか弾かないから、難しいのを出してくれるのはありがたいです。それが練習になって、スキルの向上につながるから、最近は「出されたものはやろう」と思ってます。


松本:それはギターも同じで、今までいろんな曲を弾いてきたから、どんな曲が来てもこれまでやってきた運指のパターンの中で成立すると思ってたんですけど……それが通用しなくて(笑)。さっきから言ってる新曲は、ここに来て初めての動きが出てきて、“手がびっくりしてる”みたいな状態になったので、久しぶりにすごく練習しました。でも、僕もそういうの逆に燃えるんですよ。「ラスボス倒してやろう」みたいな気分になって、集中して……腱鞘炎になったこともあるんですけど(笑)。今ってそういう刺激がなかなかないから、楽しいし、やりがいもある。弾けたときの喜びも大きいですからね。


ーープレイヤーとして、お互いのことはどのように見ていますか?


松本:のっちに関しては、さっき「ロックを通ってない」って話がありましたが、まさにそれがいいと思うんですよね。ロック畑じゃない人がロックを弾くと、フレーズとかタッチがやっぱり違うので、客観的に聴いて、それがくるりと相性いいんじゃないかなって。


野崎:松ちゃん(松本)は前に出るときと出ないときのバランスが上手いなって思います。勝手な想像ですけど、メンバー3人の演奏を邪魔せず、でも存在感がないわけじゃなくて、出るときは出る。もっと目立ちたがりのギタリストもいっぱいいると思うんですけど(笑)、そうじゃない。性格の問題かもしれないですが。


ーー『列島Zeppェリン』で言えば、松本さんの「ソングライン」でのギターソロはひとつのハイライトになってましたよね。


松本:ああいう場面を任せてもらえるのもそうなんですが、僕らサポートという立場ではありつつ、ライブにおいては“くるり+サポート”ではなくて、“みんなでひとつのバンド”として扱ってもらっているので、それはすごく光栄だし、やりやすいですね。ステージ上ではあくまでひとつのバンドだというのが、モチベーションにも繋がります。


ーーちなみに、「ソングライン」のクレジットは「Daiki Matsumoto:Heavy Metal Guitar Solo」となってますよね(笑)。


松本:サイズはほとんど決まってなくて、「とりあえず弾き続けてくれ」と言われ、何テイクか録りました。その美味しいところを取って仕上がってるんですけど……あのクレジットは見て笑いました(笑)。


ーー岸田さんの音楽家としての魅力、すごさはどんな部分で感じていますか?


松本:初めて一緒にツアーを回らせていただいたときに、今まで会った人の中で一番地獄耳な人やなって(笑)。自分でギターも弾くし、歌も歌うじゃないですか? でも、いっぱい鳴ってる他の楽器の音をちゃんと聴いてるんです。それってすごい能力やなって、びっくりしました。体で感じてるんやと思うんですが、一回演奏しただけで、「ここがああやった」みたいに言えるんですよ。コンダクターの能力があるというか、あれだけ耳が良くないとあんな曲は作れないでしょうしね。


野崎:佐藤さんもそうですが、耳の良さはホントすごいと思います。岸田さんはリハの同録は聴かないらしいんですよ。練習しながら、「ここはこう」ってパッと掴んで、その場で指示を出すんです。ライブの後に「あそこのあれよかった」って言われて、「そんなとこ聴いてたんだ」と驚くこともよくありますね。


ーー楽曲単位で、「この曲はすごい」と思った曲を挙げてもらえますか?


松本:また同じ曲になっちゃうんですが、やっぱり「Tokyo OP」や、この前やったプログレの新曲とかは、「何回生まれ変わってもあんな曲は作れない」と思います。インストなのに、「どれがリードパート」っていうのがないのが不思議なんですよ。ある場面はギター、ある場面は鍵盤、ある場面はドラム、ある場面はベース、それぞれがちゃんと重なり合って、各々に見せ場があって、全員が難しい(笑)。この前の新曲なんて、全パートで輪唱してる感覚なんですよね。拍子の自由さも含めて、あれは初めてのタイプの曲で、手もびっくりしたし、どうやって作ってるんやろうなって。


野崎:同感ですね。僕は音大に行って理論とかも勉強はしたんですが、そんなに重要視はしてなくて、岸田さんも勉強してると思うんですが、枠に捉われずに作ってる感じがすごいなって。理論とかコードネームって最初からあったわけじゃなくて、まず音があって、それを後付けで説明するものだから、あんまり関係ないんだっていうのは、大学の先生からも教わっていました。理論を勉強しちゃうと、どうしてもそこにハメたがっちゃうけど、この世界に入って、いろんなミュージシャンと出会って、やっぱりそこに捉われずに作ってる方がすごいなって思いますね。


■「僕の中でクリフはメジャーリーガーでしかない」
ーーではシンプルに、「ライブでやってて楽しい曲」というと?


松本:僕は「上海蟹(琥珀色の街、上海蟹の朝)」ですね。どちらかというと、茶々を入れる役割なので、全員の演奏が聴けて、特にあの曲はベースと鍵盤の曲やと思うんで、それを聴くのが楽しいです。『列島Zeppェリン』はドラマーがクリフだったので、「Tokyo OP」のドラミングとかすごくて、それも楽しかったです。


野崎:たまに「コーラス歌ってくれ」って曲があって、僕歌うの好きだから、それは楽しいです(笑)。メンバー3人でハーモニーできるから、なかなか出番はないんですが、「ロックンロール」や「上海蟹」のサビとかでは歌わせてもらってて、単純に楽しい。


ーー二人がくるりに参加するようになってから、ドラマーはクリフさんの機会が多かったと思うんですが、くるりにおける彼の存在についてはどのように感じていますか?


松本:僕の中ではメジャーリーガーでしかないので、くるりにとっても同じやと思うんですよね。他の方だと、それぞれが1ピースとして1曲やる感じが、クリフになった途端、彼の背中におんぶしてもらってる感覚というか(笑)。実際はそうじゃないかもしれないんですけど、気分としてはそんな感じです。ツアーはイヤモニでずっとやってたんですが、この前スタジオシンポの10周年イベント(『シンポシンポジウム』)でライブハウス磔磔に出たときに転がしでやって、久しぶりにクリフの生音を聴いたら、もうすごかったですね(笑)。


野崎:当たり前ですが、ドラマーが変わると、最初は演奏が無意識にドラマー寄りになるんですよね。特にクリフの場合は、黒船到来じゃないですけど(笑)、みんながそこに乗っかって楽しんでる感じが伝わってきます。性格もあるのか、かなり自由に叩いてますね。


松本:自由に叩きながらも、こっちのちょっとした演奏にちゃんと反応してくれるんですよ。この前のツアーでやっとそれに気づけて、うれしかったです。対応能力というか、遊び心というか、流石やなって。


ーーそこはジャズがバックグラウンドにあるのも大きいでしょうね。


松本:そうですね。今度のツアー(『列島ウォ〜リャ〜Z』)で叩く石若(駿)くんもそうですが、ジャズがバックグラウンドにあるドラマーはくるりに合うんじゃないかなって。反応を大事にするバンドやと思うんですよ。同じ曲でも毎回アレンジがちょっとずつ変わるのは、反応で変化していってるからで、そこは僕も大事にしたいです。


ーーでは最後に、二人が個人として今後やっていきたいことについて教えてください。


松本:まず第一に“ギタープレイヤーである”ということが大きいので、どんな現場でも、納得のいく演奏をしたいというのが一番ですね。あとは、新人アーティストのアレンジやバックバンドとかもやらせていただいているので、そっちでもいろんなことがやれたらなって。もともと前にやってたバンドでも基本的に僕が曲を作って、アレンジもやっていたので、、それがなくなっちゃうのは寂しいというか。アレンジの仕事を通して、今後の自分に役立つことも得られていると思うので、続けて行きたいですね。


ーー近年だと、ゆるめるモ!のサポートなどもしていますよね。
松本:若い子はまだ知らないことも多いから、コードから教えたりするんですが、教えるのはあんまり得意じゃないんですよ。岸田さんみたいに教員なんて絶対できない(笑)。でも、そういう機会が増えることで、自分が教えられることもあって。その気付きが、この1〜2年であったんですよね。これから出てくる子たちにも貢献できたらいいなって思っています。……おっさんになったってことかもしれないけど(笑)。


野崎:僕は性格的に必要以上に目立つのは嫌なんですよ。サポートキーボーディストがすごく合ってると思うので、一見わからないけど、でもいなくなったら寂しいと思われるような、そういうプレイヤーになりたいです。「いるのかいないのかわからない」だと寂しいですが、目立たなくても、「いないと喪失感デカい」みたいな(笑)。あとは、どれだけ自分のことをいいと言ってくれるミュージシャンの方に出会えるかどうかだと思っています。“自分から求めて”というよりも、ちょっとした運や縁で出会い、いいと言ってくれた方たちのおかげで、今があると感じているので、この先もそうやっていけたらなって思いますね。


(取材・文=金子厚武)


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