クリス・コーエン、マック・デマルコ……60〜70年代サウンドを消化したUSインディー5選

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2019年06月23日 10:01  リアルサウンド

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クリス・コーエン『Chris Cohen』

 今回は、ルーツ・ミュージックや60〜70年代サウンドを独自に消化した、ビンテージな味わいを感じさせるUSインディーの新作を紹介。


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 まずは、いまUSインディーシーンのキーパーソンとして注目を集めるクリス・コーエン。Deerhoofを脱退後、クリスはアリエル・ピンク、キャス・マックームス、ワイズ・ブラッドなど、様々なアーティストに招かれて共演し、マルチプレイヤー/プロデューサーとして活躍してきた。そんなクリスのソロ3作目『Chris Cohen』は2年の月日をかけてじっくりと作り上げられた力作。これまでは楽器のほとんどをひとりで演奏していたが、今回は演奏や曲作りの面でゲストを迎えている。60〜70年代ロックの手触りを感じさせるバンドサウンドがサイケデリックに、時にはプログレッシブに展開。霧がかかったような音響が音にまるみを与えていて、アルバムを不思議な浮遊感が包み込むなか、サックスの艶やかな音色がアクセントになっている。シュールなポップセンスと憂いを帯びたメロウネスが融け合った本作は、オルタナティブなAORといった趣も。


 憧れの細野晴臣とスプリットシングルをリリース。ついにはステージで共演も果たして注目を集めるマック・デマルコの新作は、自身で立ち上げたレーベル<Mac’s Record Label>からリリースされた。かつてのエフェクトをかけたギターサウンドは影をひそめ、ひとつひとつの音の輪郭はクリアになって、これまで以上にミニマルな音作りが際立っている。そして、テンポやリズムはほとんど変化せず、アルバムは淡々と進んでいく。この単調さが評価が分かれるところだが、このユルく反復するリズムが、じわじわと効いてきて次第に心地良くなってくる。ハネるベースラインやリズムボックスが活躍する曲はSly & The Family Stoneみたいだし、ファンキーな「Choo Choo」を聴くと細野の「Choo-Chooガタゴト」へのオマージュのように思えたりもして、本作はグルーヴがキモなのかもしれない。また、親密なメロディは健在だが皮肉やユーモアは薄くなり、内省的な雰囲気が漂っていて、作風の分岐点になりそうなアルバムだ。


 WoodsやThe Babysといったバンドに在籍して、現在はソロ活動中のケヴィン・モービー。各方面で絶賛された2016年作『Singing Saw』を手掛けたサム・コーエンを再びプロデューサーに迎えた新作が完成。本人いわく「今までで最もうまくいったレコード。思い通りに曲が書けて、レコーディングにも満足できた」(参照)らしいが、フォークやブルースなどルーツミュージックを消化したオルタネティブなロックンロールを展開。なかでも、今回は女性コーラスが随所にフィーチャーされていて、鍵盤の音色とあいまってゴスペルのようにスピリチュアルな雰囲気を漂わせている。多彩な楽器を重ねて生み出したウォール・オブ・サウンドがサイケデリックな空間を生み出すなか、男心をくすぐるメランコリックなメロディや、ケヴィンの官能的な歌声も魅力的。アメン・デューンズやキャス・マックームスに通じる色気を感じさせるアルバムだ。


 貨物列車に乗ってアメリカを旅しながら、独学で楽器の弾き方や曲作りの仕方を学んだというマイケル・コリンズ。そんな彼が辿り着いたのがLAで、アリエル・ピンク周辺のミュージシャンとプレイするうちに結成したのがDrugdealerだ。2作目となる本作は、70年代のウェストコーストロックが現代に甦ったようなサウンドを聴かせる。カントリーやフォークを消化した爽やかなメロディ。多彩なコーラスアレンジやストリングス。そして、時にはジャジーなサックスが絡んだりと、見事に70年代サウンドのエッセンスや空気感を捉えている。それでいて古臭く感じさせないのは、そこに現代的な洗練や、みずみずしいポップセンスが息づいているからだろう。ヨットロックやシティポップが再評価されるなか、出るべくして出たバンドといえるかも。「Honey」にはワイズ・ブラッドが参加。マック・デマルコがエンジニアを務めるなど、西海岸インディシーンの仲間達がバックップしているのも見逃せない。


 アリゾナを拠点に活動する2人組・Calexicoと、サム・ビームのソロユニット・Iron & Wineが14年ぶりにコラボレート。前回はEPだったが今回はアルバムで、じっくりと音を交えている。3人は2018年12月にナッシュビルで落ち合ってセッションを重ねたが、おもにサム・ビームがソングライティングを担当して、そこにCalexicoの二人が即興などで音を加えて発展させていったらしい。3人以外にも、それぞれのバンドのサポートメンバーが参加。両者の共通点であるルーツミュージックをベースにしながら、ジャムセッションを記録したような即興色もあり、トランペットやスティールギターが飛び交う。その音の膨らみが面白い。アメリカーナ、サイケ、オルタナティブなど様々な要素が混ざり合うなか、ソングライターとして高い評価を得るビームが紡ぎ出すメロディやコーラスの美しさも絶品だ。(村尾泰郎)


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