橘ケンチが語る、EXILEで見出した独自のスタンスと舞台『魍魎の匣』への挑戦

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2019年06月25日 19:31  リアルサウンド

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橘ケンチ(写真=三橋優美子)

 EXILE/EXILE THE SECONDの橘ケンチが主演を務める舞台『魍魎の匣』が6月21日より東京・天王洲 銀河劇場にて公開されている。京極夏彦の「百鬼夜行」シリーズのなかでも傑作と呼ばれる同名小説を原作に、畑雅文が脚本、松崎史也が演出を手がけた本作に挑戦するにあたって、橘ケンチはどんなアプローチをしたのか。EXILE/EXILE THE SECONDのメンバーとして歩んできた独自のキャリアを紐解きながら、役者としてのスタンスに迫った。(編集部)


■「今の自分だからこそ演じることができるキャラクター」


――『魍魎の匣』を舞台化するきっかけは何だったんですか?


橘ケンチ(以下、橘):今回の舞台は、丸山ゴンザレスさんと飲んでいたときに、ゴンザレスさんが京極夏彦先生と交流があるというお話を聞いたのがきっかけになりました。ちょうどそのタイミングで舞台のプロデューサーから、この時期に劇場があいたから何かやらないかという話をいただいて。自分としても、まさか京極先生の作品を舞台化できるなんてことは考えてもいなかったんですが、ゴンザレスさんから「先生は自分の作品が映像化、舞台化されることに協力的な方だ」ということを聞いて、それで『魍魎の匣』はどうだろうということになり、お願いしたところOKをいただいたんです。


――この舞台の第一報がニュースになったときは、ケンチさんが何役を務めるのかということも含めて、SNSが盛り上がっていました。


橘:予想以上の反響でしたし、しかも皆さんが僕が何役をするのかということでも盛り上がってくれて、ありがたいことだなと思いました。原作のファンの方がたくさんいらっしゃると思うので、その方々にも満足してほしいし、舞台には舞台のよさがあるので、生で見た方には「こんなに飛躍した面白さがあるんだ」と思ってもらえるように表現したいです。演出の松崎史也さんとも、舞台ならではの仕掛けを色々と相談していて、今、燃えている感じです。


――『魍魎の匣』の原作には、どんな感想を持ちましたか。


橘:最初はモノノ怪とか妖怪の話を連想していたんですけれど、読んでみると人間ドラマだなと思いました。怖い表現も多々ありますが、僕としては人と人との関係性のほうに興味が湧いたんです。人間の関係性とか、そこに生まれる思いとか感情の方が、実はいろんなものを引き起こしてしまうというのが、この作品のメッセージでありテーマだなと思います。舞台でも、しっかり突き刺さるような表現をしたいです。


――京極堂というキャラクターに対しては?


橘:今の自分だからこそ演じることができる年齢のキャラクターなので、ちょうどいいのかなと考えています。多分、20代では演じられないですし、このタイミングでこんな大役が演じられることがありがたいです。これまではアクションとか踊りを含む舞台が多かったんですけど、今回は動というよりは静の舞台で、セリフ量も多いです。一線を画した挑戦になります。


――これまでは『ドン・ドラキュラ』のドラキュラ役など、ミステリアスな役も多かった印象があります。


橘:自分でそれを意識してきたわけではないですけれど、縁があった役は、普通の人間ではない存在が多かったです。そういう役が自分のビジュアルの印象にハマるのかもしれません。ドラキュラのときは、一度は演じてみたい役柄だったので純粋に嬉しかったのですが、今になって考えると、自分の役柄の方向性が変化するきっかけでもありました。


――今回の舞台は橘さん自身が立ち上げから携わっています。舞台のプロデュースなどにも関心があるのでしょうか?


橘:『ドン・ドラキュラ』くらいから裏方の仕事も意識するようになりました。当時は今ほどがっつりというわけではなかったんですけど、最近はアーティスト活動をしながらLDH ASIAのスタッフワークや企画制作もしているので、そういうところへの興味が増していますね。今回のプロデューサーも『ドン・ドラキュラ』と同じ方で、以前よりも、演者以外の部分での関わりが増えて楽しいです。


■「表と裏の仕事に境界があまりない」


――LDH ASIAのスタッフワークでは、具体的にどんなことをしているのですか。


橘:LDH ASIAは、日本のエンターテイメント文化をアジアに発信していくのをテーマにしていて、所属アーティストがアジアでライブをするためのサポートはもちろん、日本のキャラクターやコンテンツをアジアに輸出することも、スタッフ全員でやっています。最近だと、サンリオとコラボしたキャラクター「ハローメンディー」も、LDH ASIAのプロジェクトです。


――アーティスト活動以外でも、幅広く活躍しているのですね。


橘:もともとEXILEは、リーダーのHIROさんがメンバーでもあり社長でもあったので、アーティスト自身が事業にも携わるのが文化として根付いているんです。グループの次の展開を考えるときも、メンバー同士で「次のライブはこうしよう、シングルやアルバムはこういうテーマでいこう」と話し合って、それをHIROさんがスタッフに伝えて、形にしていくというスタイルでした。そういうHIROさんの姿を見ていたので、表と裏の仕事に境界があまりないんです。自分としてもEXILEを10年近くやった今、アーティストとしての表現だけでなく、裏方もやって、会社全体を盛り上げていけるメンバーになりたいですし、アーティストの目線を提供するコンテンツやサービスに落とし込めるのが、LDHの良いところだとも思います。


――『月刊EXILE』では、海外の映画監督との対談もしていますし、書籍を紹介するプロジェクト『たちばな書店』も運営しています。そうした企画で取り上げる作品は、どんな視点で選んでいますか?


橘:対談に関しては、できる限り海外の監督とお話ししたいと担当編集者に伝えています。対談を続けているうちに、映画の宣伝の方にも興味を抱いてもらえるようになって、先日はなんとガス・ヴァン・サント監督ともお話することができました。僕自身の好みで言うと、どちらかというとエンタメ娯楽作より社会派の作品の方が好きで、ヒューマンドラマやドキュメンタリー、ノンフィクションなどをよく鑑賞しています。あの連載が、いろんなものを生み出す場になっていくと良いですね。


――本に関しては、どういうものが好きですか?


橘:本に関しては雑食ですね。僕が本を読むようになったのは、自分の思うようにいかなかった時期に、本を読んで頑張ろうと思えたり、パワーをもらったという経験があったからなんです。色々と読んでいるうちに本好きになって、その延長として『たちばな書店』を始めました。当初はビジネス系やノンフィクションの本を読んで紹介することが多かったのですが、『月刊EXILE』で連載していくうちにいろんな作家さんとも巡り会うようになって、紹介する本の幅が広がっていきました。本屋に行ったときは、インスピレーションで本を手に取っています。本屋をぶらぶらしていて目に留まるものは、自分がそのとき気になってることなんですよね。だから本屋にいくと、心の健康診断ができるような気がしていて。自分の興味のあるもの、気にしてるものがわかるし、本のページを捲っていると、魔法にかかったのかと思うくらいそのときの自分にぴったりな言葉に出会うことも多いんです。


■「EXILEのイメージにないことを」


――ケンチさんにも、自分の思うようにいかなかった時期があったのですね。


橘:もちろんありました。EXILEに入って数年経った頃で、EXILE THE SECONDとしても活動する前後だったと思います。僕がEXILEに加入したときは、すでにトップグループだったので、「なんとか先輩方に追いつかないと」と必死でした。そのために背伸びをしすぎていたところがあって、次第にぽっかり心に穴があいたような気持ちになってしまったんです。何をすればグループに貢献できるだろうと悩んでいて、ほかのメンバーがだんだんと個性を出していく中で、自分がどういう方向性に進めば良いかがわからなくなっていました。その頃にひたすら本を読んで、ずいぶんと本に助けられましたし、逆に言えば、その時期があったからこそ今があります。


――EXILEの新メンバーには、新メンバーだからこその悩みもあった、と。


橘:もともとのメンバー7人にはすでに確固たるものがありましたから、新メンバーがいかに経験を積んで、EXILEにおけるアイデンティティを確立していくかは重要な課題でした。同時期に入ったNAOTOと小林直己は、三代目 J SOUL BROTHERSとしても活動することになったので、新しいグループをゼロから築き上げる作業をしていましたが、ほかの5人のメンバーは何をすべきかがまだ見えていなかったと思います。HIROさんはきっと、そのことに気づいたからこそ、僕らにTHE SECONDをやるように言ってくださったんだと思います。THE SECONDでゼロから積み上げる経験を積ませていただきました。


――以前、EXILE THE SECONDの結成の際に、HIROさんから「無理なしで」という言葉をかけられたというエピソードを読んだのですが。


橘:HIROさんがいつも使う言葉なんですけど、意味としては「任せるよ」ということなんです。例えば、「今日よかったらここにくる? 無理なしで」という感じで、「予定があったら、気にしないで断っても大丈夫だよ」という意味なんです。でも、HIROさんに誘われたら僕らは喜んで「100%行きます!」と言っちゃうんですけど(笑)。THE SECONDも、無理をせずにやりたかったらやってね、という感じで、気遣っていただいた感じです。だからこそ、僕も自分なりの方向性を見いだすことができたのだと思います。


――THE SECONDとしても活動する中で、自分らしさを見出していったわけですね。


橘:そうですね。当時は自分がEXILEの王道のイメージに合っているのか悩んでいて、自分の好きなこと、好奇心が向くところが、EXILEの方向性とズレていると感じることが多かったんです。「これはEXILEらしくないからできない」と、勝手に判断してるところがあって。でも様々な活動を続けていく中で、逆にEXILEが本好きだったら面白いんじゃないか、むしろEXILEのイメージにないことを自分がやることで裾野を広げていければ、グループに貢献できるんじゃないかと、柔軟に考えられるようになっていきました。EXILEが日本酒を作ったり、本を読んでいるのは、意外性があって面白いなと。グループにいろんな趣味嗜好の人がいて、お互いに違う個性をちゃんと肯定できて周りが受け入れる環境ができると、その組織は強くなると思うんです。だから、EXILEの可能性を広げていくという意味でも、僕が率先して今までのEXILEのイメージから外れていこうかなと。


――そうした経験が、ケンチさんの現在の文化的な活動に繋がっているのですね。日本酒にしても『たちばな書店』にしても、すべての活動がケンチさんのイメージを形作っていて、今回の舞台もそういうめぐり合わせなのだと感じました。


橘:そう思っていただけたら最高です。このタイミングで『魍魎の匣』をやらせてもらえることになったのも、今までの活動の成果といえるかもしれません。主人公の“京極堂”も古本屋をやっていますし、作品自体も数々の賞を獲っている文学作品ですので。自分がやってきたことが良い形でハマってきて、その一つとして今回の『魍魎の匣』もあるという気がしています。


――では最後に、舞台『魍魎の匣』の魅力を改めて教えてください。


橘:決して明るい作品ではなくて、ハッピーエンドを迎える作品でもありません。でも、僕自身は結末がさびしかったり悲しかったりする映画や舞台の方が、ずっと心に残っていくタイプで、この作品は確実にそういう方向性の作品です。劇場に足を運んでくれた方の人生に、何かを投げかけられるような、人生の1ページを変えられるような作品になればと思っていますので、ぜひ楽しみにしていてください。(取材・文=西森路代)


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