向井理が最終回で見つけた大切なもの 『わたし、定時で帰ります。』が切り込んだ“完璧人間”の弱さ

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2019年06月27日 08:11  リアルサウンド

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『わたし、定時で帰ります。』(c)TBS

 『わたし、定時で帰ります。』(TBS系)が最終回を迎えると同時に、種田ロスの声があちこちで上がっているようだ。


 本作は現代人に今の働き方の是非を問うという主題でありながら、その中で進んでいく主人公の結衣(吉高由里子)を取り巻く恋愛模様にも注目が集まっていた。結衣の所属する部署の副部長のポジションに新任されたのが元婚約者の種田晃太郎(向井理)。仕事ができ、上司からの信頼も厚く部下からも慕われている、まさにエース的存在。


 ただ、2年前の両家顔合わせの場に、種田が仕事を優先して現れなかったことが破談の1番の理由だ。当時同棲していた家に帰った結衣は、倒れていた種田に向かって「仕事と私、どっちが大事?」と涙ながらに問いかけるが、種田は「仕事に決まってるだろ」と即答し、これが別れの引き金に。


 ただ、後半に種田の上司の福永(ユースケ・サンタマリア)から、実は当時の種田は「結婚したいから、定時で帰れる会社に転職するために今頑張って働いている」と言っていたと聞かされ、初めて種田の真意を知ることとなる。一番肝心なことを最後まで言わない、いや言えない種田は実は誰より不器用で、そして責任感が強く誠実なのかもしれない。


 「仕事ができる」ということは何事も決して「他責」にしない、ということでもある。プロジェクトを遂行する上で、外部要因による様々な不可抗力、イレギュラーが発生するのは日常茶飯事で、それでも最終目的地まで何とかゴールしなければならない。そのためにはいちいち言い訳をしている暇などなく、起きたこと(=結果)に対して素早く新たな打ち手をとり対応していく必要があるのだ。


 もしかすると種田はこの感覚をプライベートや人間関係にも知らず知らずのうちに持ち込んでしまっているのかもしれない。


 「顔合わせに参加できなかった」という既成事実に対して後であれこれ言ったところでその結果は確かに変わらない。また、転職できていない段階で不確定要素が満載の中、結衣とのプライベートを優先できているであろう未来(効果)を確約はできない。


 そんな風にストイックに事実ベース、結果ベースで突き詰めて考えてしまう種田の長所でもあり短所でもある点が色濃く映し出されていたのが、年の離れた弟・柊(桜田通)との関係性だ。


 社会人になって間もなく引きこもりを始めた柊は種田には口をきいてくれない。「眠れないから会社に行きたくない」と訴えた柊に、当時種田が「人間は寝なくても死なない。死ぬ気でやればできないことはない」と声をかけたことがきっかけだ。


 種田としては重く受け止め過ぎないようにと弟を励ますためにかけたつもりの気遣いの言葉が、柊をますます精神的に追い込んでしまったのだ。


 ただ、ドラマ中盤から種田自身も「この仕事だけの生活、人生でいいのだろうか」と自問する場面が度々見られた。それはおそらく仕事で行き詰まっているメンバーを、具体的な業務上のアドバイスや打ち手で支え励ますのではなく、もっと根本的な悩みや不安をも見抜いて、それぞれが各々らしくいられることこそ素晴らしいのだと伝え、個々の存在や意志を尊重し続ける結衣の姿を目の当たりにしたからではないだろうか。そして、結衣のその態度は種田にも変わらず向けられていた。皆が「種田さんに任せておけば大丈夫」と彼頼みな状況下にあっても結衣は彼を過信し過ぎず、時にブレーキをかけようとする。結衣の存在は彼自身にとっても特別で、大きな拠り所だったのだろうと思う。


 不測の事態に見舞われた際に「自分が頑張ればいい」とすぐに考え、ある意味周囲に期待をしていない種田に対して、結衣は「皆でどうやってこの状況を乗り越えられるか」を考える。周囲に対して完璧に近いアウトプットとして結果だけを見せようとする種田だが、一方結衣は途中経過をつまびらかにし、協力を仰ぎ、都度解決策を周囲を巻き込んで模索することができる。


 そんな結衣の前だからこそ、種田も自分の間違いや失敗を素直に吐露することができるのだ。


 今まで弱った顔は見られまいと本音を吐露する時には結衣よりも一歩前に出て表情が見えないように後ろ姿で語っていた種田が、最終回では病室の結衣に対して正面から泣き顔で、珍しく声を荒げて彼女の無事を安堵していた様子が印象的だった。おそらくあの瞬間、種田にとっても人生で優先したい事項や順位がはっきりと見え確信に変わった瞬間だったのだろう。


 最後に、結衣の彼氏の諏訪巧(中丸雄一)について肩を持つ訳ではないが、考えてみれば彼女が自分の前に付き合っていた彼と婚約破棄をした直後で、かつその彼がまた彼女と同じ職場になって……と、なかなか気が休まらない状況下で始まった恋愛に対して、最後まで穏やかで優しい彼だったとも言えると思う。嫌でも種田の存在を感じずにはいられないような環境の中で、卑屈にならなかったのは並大抵のことではないし、なかなかの至難の業だったのではないかと勝手ながら心中お察ししたりもする。(文=楳田 佳香)


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