西島秀俊×内野聖陽、“未来”を予感させる名演 『きのう何食べた?』心に残る最終回

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2019年06月29日 15:01  リアルサウンド

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(c)「きのう何食べた?」製作委員会

 人気漫画家・よしながふみの同名コミックが原作のドラマ『きのう何食べた?』(テレビ東京)の最終話が6月28日に放送された。西島秀俊演じる筧史朗(以下、シロさん)と内野聖陽演じる矢吹賢二(以下、ケンジ)が共に人生を歩み続けることが伝わる、穏やかで心あたたまる回となった。


 正月、シロさんとケンジはシロさんの実家に行くことに。朝から落ち着きのないケンジの様子ややけにこわばった顔に笑ってしまうが、シロさんとケンジを出迎える久栄(梶芽衣子)と悟朗(田山涼成)の緊張した面持ち、妙にたどたどしい4人のやりとりも面白い。だが、久栄と悟朗がシロさんの大切なパートナーを出迎えようとする姿や、ケンジが久栄と悟朗が驚いてしまわないよう話し方や振る舞いに注意を払う姿からは、互いを思いやる気持ちが十分に伝わってくる。久栄と悟朗の「同性愛」に対する認識は間違っているかもしれない。しかし久栄も悟朗も、息子であるシロさんを大切に思い、だからこそシロさんのパートナーであるケンジへ気持ちを向けようとしているのだ。


 繊細な演出にも注目したい。ひょんなことから悟朗とケンジが2人っきりになる。2人はシロさんの高校生時代のアルバムを見ながら、学生時代のシロさんについて語り合う。はじめのうちは、2人とも正座で、膝を向き合わせて座っていた。だが、悟朗からシロさんの話を聞いたケンジが「いい子だったんですね」とアルバムに体を寄せると、自然と悟朗もアルバムの方へと体を寄せる。映し出された2人の背中からは、パートナーとして、親として、シロさんを大事に思う気持ちが伝わってくる。シロさんが上の階にいる2人を呼んだとき、彼らは横並びになって笑顔でアルバムを見ていた。「はーい」と返事をするケンジの口調は、シロさんと一緒にいるときの自然さだ。返事をするケンジを微笑みながら見る悟朗。ほんの数秒のシーンだったが、シロさんの存在が2人の距離を徐々に縮めていったのだとわかる。


 とはいえ、ケンジと悟朗の距離が縮まったのは、久栄と悟朗の捉え違いをケンジが受け入れたからだった。「お父さんたちは、どうしても男同士ってのが理解できないみたい」「どっちかが女の格好をするもんだって思い込んでるんだよ」。久栄と悟朗は、ケンジが家で女性の格好をしていると思っているようだ。シロさんは謝るが、ケンジは柔らかな声で「それでちょっとでもご両親が安心できるならいいじゃない」と話す。シロさんが大事だからこそ、シロさんの家族へも思いを向けるケンジの優しさが垣間見える。


 「夢みたい」。ケンジはシロさんの実家へ挨拶に行けたことをそう表現した。嬉しさのあまり「俺、ここで死んでもいい」と泣き出すケンジに「死ぬなんてそんな、そんなこと言うもんじゃない」「食いもん、油と糖分控えてさ、薄味にして、腹八分目で、長生きしような、俺たち」とシロさんは言った。いかにもシロさんらしい台詞だが、ケンジを慈しむシロさんの気持ちがひしひしと伝わってくる。肩を抱き寄せあいながら帰る2人の背中から、2人のこれからが見えるようだった。


 シロさんの心境にも変化が。いつものように中村屋で買い物を終えると、ケンジがシロさんをカフェに誘う。半ば強引にカフェまで連れて行かれるシロさんは困った顔をしていたのだが、カフェに着いたときには、ケンジと共に満面の笑みで現れた。可愛らしい雰囲気のお店で、客層も女性ばかり。第1話のシロさんなら拒否していたはずだ。だがシロさんはこう言った。「いいかげん、もういいかなと思って」。


 帰宅後、ケンジがシロさんの髪の毛を切っているとき、シロさんはカフェでの出来事について「もうあんま気にしなくても大丈夫だって」と話した。


「相方としては、なるべくお前にはハッピーでいてほしいと思ってんだよ。だから、お前が嬉しいなら、別に全然いいんだって」


「お前が幸せ感じるなら、これからはカフェぐらい何度でも付き合うよ」


 シロさんの台詞は視聴者の心に沁みたのではないだろうか。また、その言葉を聞いて、ケンジはシロさんを抱きしめる。1度目は嬉しさから力強く、2度目は愛おしさから優しく。シロさんを抱きしめるケンジの愛おしげな表情をシロさんは鏡ごしに見て柔らかく微笑んだ。


 多くの読者から絶大な支持を得ている『きのう何食べた?』(講談社「モーニング」連載中)。西島と内野は時折アドリブを入れながら、シロさんとケンジという読者から愛されているキャラクターとそんな2人のあたたかな関係性を演じきった。2人が食卓に向かい合って座り「いただきます」と手を合わせる姿は、シロさんとケンジそのものだ。ドラマの放送が終わり、“ロス”になる視聴者も多いことだろう。だが、2人の人生が続くことを感じさせる、心に残る最終回となった。(片山香帆)


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