『スパイダーマン:ファー・フロム・ホーム』は大満足の出来! “これからのMCU”への期待も

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2019年07月03日 10:11  リアルサウンド

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『スパイダーマン:ファー・フロム・ホーム』

 完璧だったと思う。『スパイダーマン:ファー・フロム・ホーム』(2019年)は上がり切ったハードルを楽々と飛び越え、今年公開された大作映画の中でも屈指の完成度に仕上がっている。とりあえず私には今のところ大きな不満点が思いつかない。サム・ライミから始まった『スパイダーマン』の実写映画の1作品として、『アベンジャーズ/エンドゲーム』(2019年)後のMCUの新たな一歩となる作品として、スーパーヒーロー映画として、青春アクションアドベンチャーとして、すべての面で本作は極めて完成度が高く、まさに手放しで絶賛できる1本だ。


参考:『スパイダーマン:ファー・フロム・ホーム』公開目前! トム・ホランドをひもとく8のキーワード


 『アベンジャーズ/エンドゲーム』の戦いを終えたスパイダーマンことピーター・パーカー(トム・ホランド)は、夏休みにクラスメイトたちとヨーロッパ旅行へ出かける。アベンジャーズとしての過酷な戦いを忘れ、しばらくは普通の高校生ライフを……と期待するが、どっこいそこはスーパーヒーローの宿命。狙いすましたかのようにアベンジャーズの司令塔ニック・フューリー(サミュエル・L・ジャクソン)から呼び出しが。ヒーローの責任と高校生としての日常の狭間で揺れるピーターだが、とりあえず青春を謳歌しようとニックより旅行を取る。しかし旅行先にもニックが現れ、完全に夏休みを支配されてしまうのであった。ニックいわく、異次元からやってきた男ミステリオ(ジェイク・ギレンホール)が、怪物と戦うのに加勢しろと言う。さらに旅先で仲の良い女の子MJ(ゼンデイヤ)とイイ感じになったり、家に残してきたメイおばさん(マリサ・トメイ)がハッピー(ジョン・ファヴロー)とイイ感じになったり、ラブコメ風まで吹いてきた。ドタバタ旅行、恋バナ、世界の破滅……ヒーローの責任と普通の幸せの間で揺れるピーター・パーカー。はたしてスパイダーマンの明日はどっちだ?


 あらすじからも分かるかもしれないが、本作は基本的に青春コメディだ。キャスト陣も前作『スパイダーマン:ホームカミング』(2017年)から続投。ただし、舞台はヨーロッパ各国に(ちょっとした『007』感がある)、アクションは巨大な怪物との戦闘と、ビジュアル面はスケールアップ。さらにラブコメ感もより強くなり、愛すべき太っちょネッド・リーズ(ジェイコブ・バタロン)の出番も増えている。直近のMCUがサノスの指パッチンや『エンドゲーム』の決着など、シリアスなトーンだっただけに、オープニングからのコミカルさが実に心地よい。


 もちろんトム・ホランドは100点満点。「本当に23歳か?」と疑問に思うほどの見事なティーン演技を見せてくれる。前回以上に体を張ったギャグで笑わせてくれるし(脱ぎっぷりもいいし、顔芸も上手い。彼は怪訝な顔が似合う)、尊敬するアイアンマンことトニー・スターク(ロバート・ダウニー・Jr.)の影を追い、もがき悩む繊細さも見事に表現。スパイダーマンという世界で最も有名なヒーローをモノにしている。


 そして役者でいうと、ミステリオを演じるジェイク・ギレンホールも素晴らしい。ネタバレをしないために、ここで彼への具体的な言及は避けよう。ただ、ざっくり言えることは、このキャラクターに関しては原作の設定を知っていても、最後までどう転ぶか分からなかった。彼の存在そのものが作品にメタな視点をもたらし、物語を多面的/立体的にしていた。彼の物語の締めくくり方も素晴らしく、こうした部分はジェイク・ギレンホールの実力のおかげだろう。トム・ホランドが本作の看板なら、屋台骨は間違いなくジェイク・ギレンホールだ。


 あとジョン・ファヴローも。というか、ファヴローさんは仕事し過ぎじゃありません? この人、今年公開の『ライオン・キング』(2019年)で監督してるし、Netflixで『ザ・シェフ・ショー〜だから料理は楽しい!〜』っていう料理番組やってるんですよ。スパイダーマンと共演しつつ、ドナルド・グローヴァー(チャイルディッシュ・ガンビーノ名義でも有名)とビヨンセが出ている最新技術の名作リメイクを監督して、何時間もかけて肉を焼いたりお菓子を作ったりしている。恐ろしい人です。


 さて、話をファヴローの脅威から映画に戻そう。そんなわけで本作は、役者たちは全員魅力的、アクションは大迫力、ストーリーはツイストが効いて、演出も気が利いていて、現代社会へのちょっとした風刺、続編への強烈なクリフハンガー、そしてMCUファンの胸にストンとくるオマケ映像まで付いてくる大満足の出来だ。MCUの現状を踏まえた今、『スパイダーマン』に求められることを完璧に消化し、なおかつ「これまでのMCU」への興味と、「これからのMCU」への期待を高めてくれる1本だといえるだろう。いやはや、本当に恐れ入りました。(加藤よしき)


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