個人的に最も印象に残った短編は、「夜のオフィスで」(著者はウォーレン・ムーア。こちらの作家、残念ながら存じませんでした)。ある晩転倒したときに打ちどころが悪くて、亡くなってしまったマーガレット・デュポンが語り手だ。親の反対を押し切って地方からニューヨークに出てきたマーガレット。彼女は勉強ができて絵も上手な娘だった。しかし、生まれた町ではどこへ行っても周囲の誰もが自分を知っていて、大柄な自分に若干のからかいを含んだ視線を向けられることにうんざり。ニューヨークに到着したもののことごとく自分の思惑とは異なる事態に遭遇するが、幸運と自分の実力が功を奏して弁護士事務所の秘書の職を得る。ようやくさまざまなことがうまくいき始めたところだったのだが...。「夜のオフィスで」がよいのは、次々と挫折に見舞われるにもかかわらず、ペギー(マーガレットという名前が気に入らない彼女が、下宿屋の女主人から呼ばれたのを機にそう名乗るようになった)がめそめそしたり腐ったりせず、かといって肩に力が入りすぎるような感じもないところだ。そう、亡くなってからでさえ。"Office at Night" という絵には、オフィスと思われる部屋の机で書類か何かに目を通している男性と、ファイル・キャビネットにもたれるようにして立っている女性が描かれている。ペギーのモデルであろう女性が着ているのは青い服だ。本書の絵には裸の女性が描かれているものが何枚かあるが、服を着ている姿の方が官能性が増すような気がする(とはいえ、ペギー自身はそんなにお色気満点のキャラという感じではなく、前向きで清潔感あふれる主人公だった)。清々しさがいつまでも胸に残るような作品。