『セッション』から『ハッピー・デス・デイ』まで “早い、安い、美味い”ジェイソン・ブラムの仕事

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2019年07月04日 10:01  リアルサウンド

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『ハッピー・デス・デイ』(c)Universal Pictures

 『パラノーマル・アクティビティ』シリーズや『インシディアス』シリーズのようなJump Scare(びっくり)映画、『ザ・ベイ』や『ヴァイラル』といった生物災害ホラー、果ては『スプリット』や『セッション』のような有名作まで、低予算でもパンチのあるストーリーを持つ作品を次々とプロデュースしているジェイソン・ブラム。


参考:『パージ』シリーズが描く恐怖の正体 B級映画的発想に現実世界が近づきつつある?


 低予算で製作が可能かつ集客できる映画を! 貪欲な商業映画作りへの情熱は、在りし日のロジャー・コーマンを彷彿とさせる。しかも、彼は常に挑戦的だ。次々と続編を発表している出世プロデュース作品『パラノーマル・アクティビティ』は、毎回味付けの違うファミリードラマを展開させ、ファンを退屈させないようにしている。つまり“同じことをしているようで、毎回違うことをしている”のである。先日公開された『パージ・エクスペリメント 』も同じ手法で続編を作り続けている。


 「最終的な決断は僕が決めることもあるけど、基本的なことは全て監督、スタッフたちに任せる。とにかく自由にやってもらえるようにしているんだ」と語るジェイソン。極低予算でリスクを抑えることで、若手監督にプレッシャーを与えることなく、彼らの考える通りの映画製作をしてもらう……というビジネスモデルを確立させたのだ。


 『インシディアス』(2010年)を例に取ろう。『インシディアス』の監督ジェームズ・ワンは当時『デッド・サイレンス』(2007年)の収益が思わしくなく、映画監督として初めての挫折を経験。さらに『ソウ』以降、つきまとっていたトーチャーポルノ監督というレッテルに悩まされていた。そんな彼に目を付けたのがジェイソン・ブラムである。ジェームズ・ワンは、彼に「好きにやれ」と言われ、盟友リー・ワネルと共に、ほとんど流血描写がないホラー映画を仕上げた。それが『インシディアス』である。


 結果、150万ドルの予算で制作された『インシディアス』は9500万ドルもの収益を得て、ジェーズム・ワンは見事に復活。以降『死霊館』シリーズの製作へとなだれ込んでいく。今やジェームズ・ワンは『ワイルド・スピード SKY MISSION』(2015年)や『アクアマン』(2018年)といったブロックバスター作品を手がける大監督となったが、それを後押ししたのは何を隠そうブラムなのである。そんなジェイソン・ブラムのプロデュース最新作が今夏、連続で公開される。


 まずは『ハッピー・デス・デイ』(2017年)と『ハッピー・デス・デイ 2U』(2019年)の2連作。自己中クソビッチ女子大生が、殺人鬼に殺される誕生日を繰り返すという風変わりなタイムループホラー。本国公開時、日本の好事家の中で話題になった作品がようやく公開となる。殺人鬼に殺されないようにと何度もトライ・アンド・エラーで同じ日を繰り返すうち、自己中クソビッチが真人間として立ち直っていく様は感動的ですらある。“死のループは最高の自己啓発!”というわけだ。ちなみに続編は、パラレルワールドに迷い込み再度同じ日を繰り返すハメになる。ただし、予算も難易度も倍増。パラレルワールドだから1作目と同じ方法で死を逃れることができないという寸法だ。さらにタイムループを起こした原因まで明かされ、『シュタインズ・ゲート』あたりが好きなゲーム・アニメファンにもオススメしたい作品。


 そして『アス』(2019年)。人種差別問題へのスラップスティックなアプローチで映画ファンを騒然とさせた『ゲット・アウト』(2017年)から2年。ジョーダン・ピール監督の期待の一作だ。その内容はというと「自分のドッペルゲンガーが殺しにやってくる」という現象が世界規模で発生するというもの。公開予定が9月とまだ先になるので、詳細を語ることは避けるが、このプロットは最終的にアメリカが抱える貧困問題へと辿り着く。あらゆる社会問題を笑いへと昇華させることで、破壊的な衝撃を与える手法は如何にもジョーダン・ピール。ただし、わかりやすい聖書の引用や80年代ホラー映画へのオマージュ、そして流血シーンの増加など、『ゲット・アウト』よりも娯楽性が高くなっている。


 加えて『インシディアス 序章』(2015年)に続く、リー・ワネルの監督第2作目『アップグレード』(2018年)も日本公開が決まった。妻を殺された上、自分は全身麻痺にされた男。彼が脊椎にAIチップを埋め込み、麻痺を克服。妻の敵を討つべく壮絶な戦いを繰り広げる。AI任せに自分の意思とは全く無関係に体が動き、ドニー・イェンもビックリなアクションで悪者を血祭りに上げていく様子は爽快の一言。如何にもジェイソン・ブラム プロデュース作品といった具合だ。


 期待の新作公開が続くジェイソン・ブラム プロデュース作品だが、日本公開のアナウンスがない傑作がまだまだあるのだ。一見優しいオバチャンがパリピな若者にお仕置きを喰らわす『Ma』(2019年)や、精神病院から退院した男が曰く付きの屋敷で幽霊の幻覚に苦しめられる『Delirium』(2018年)等々、掘り出し物が大量に眠っている。『ハッピー・デス・デイ』も日本上陸まで2年も掛かってしまったが、そろそろ日本の配給業者は、もっとジェイソン・ブラムに注目すべきなのだ。(ナマニク)


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