有休義務化で「休み」が減ったケースも 罰則なしではびこる「骨抜き」手法

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2019年07月07日 10:21  弁護士ドットコム

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4月から始まった「有給休暇」の取得義務化。年10日以上の有休が付与される労働者に対し、企業は年5日以上を取得できるようにしなくてはならない。


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日本の有休取得率の低さを背景に始まったこともあり、多くの企業にとっては労働者の休みが増えることになる。そこで義務化を「骨抜き」にする事例が増えているようだ。



弁護士ドットコムニュースが3月24日の記事(https://www.bengo4.com/c_5/n_9410/)で、企業がもともと休みだった日を労働日にしてしまう可能性を指摘したところ、LINEを通じて「休みが減った」という情報提供があった。



●公休が年間10日以上減った「有休使っても足りない」

情報を寄せてくれたAさんによると、今年に入って会社から「休みの日数が変わる」という書類が渡されたという。



書類の画像を見せてもらうと、これまでは「土日祝」を合わせた日数を「公休」としてシフトを組んでいたのに、一律で「月9日」にすると書かれていた。



月9日だとすると、年間の休みは「108日」。土日祝日休みなら、年によって差はあるが年間「120日」ほどが休日とされる。つまり、この会社では公休が10日以上減ってしまったことになる。



「有休義務化を隠れ蓑にした、人手不足対策だとしか思えません。会社からは有休を年間10日とるように言われていますが、それでも元の数には届きません。病気など想定外の休みにも対応できなくなってしまいます」(Aさん)



●厚労省は「望ましくない」

「有休義務化」の趣旨は、労働者のリフレッシュを図ることだ。



しかし、世間ではこの会社のように、これまで休みだった日を労働日にするほか、休みの日数は変えないものの、1日の所定労働時間を少しずつ延長して、労働時間を確保する企業などもあるという。



この点は国会でも取り上げられた。4月25日に川合孝典議員(国民)から「骨抜き事例」について問われた根本匠厚労相は、「実質的に年次有給休暇の取得の促進につながっていない」として、「望ましくない」と答弁している(参院・厚労委)。





しかし、5日間取得させなかった企業には罰則がある一方、骨抜きに対する制裁はない。



一般に会社の休みを減らすときは「就業規則」を変更する。このとき、事業所の過半数が所属する「労働組合」か、組合がないときは従業員から選出された「過半数代表者」の意見を聴くのがルールだ(労働基準法90条)。



労働者の意見に必ずしも従う必要はないが、同意が得られないまま変更すると、労働条件の不利益変更として、無効になる可能性もある。





だが、制度を骨抜きにするような企業で、労働組合が活発に活動しているとは考えづらい。実際、Aさんの会社には労働組合はなく、「過半数代表者が誰なのかも分からない」(Aさん)という。



根本大臣が「最終的には個別具体的な事情を踏まえて司法において判断されるものだと思います」(4月25日、参院・厚労委)と答弁しているように、法律の上では厚労省は積極的に判断する立場をとっていない。





東京労働局にも話を聞いたが、「(変更後の)就業規則の提出を受けた労基署が修正依頼をかける可能性はある。ただし、基本的には労使で話し合ってもらう問題」(4月26日)との回答だった。



●裁判だと「費用倒れ」? 労働組合の利用も

実際に裁判で争ったらどうなるのか。労働問題にくわしい黒柳武史弁護士によると、Aさんの事例でも「不利益変更」に当たる可能性はあるという。ただし、そう簡単には認められないようだ。



「『有給義務化の回避』を目的とすることが明らかであれば、合理性のない不利益変更と判断されると思います。



ただ、Aさんの会社の書類を見ると、公休の変更と併せて、勤続数年ごとに一定の休暇を与える新制度も設けられるなど、労働者に有利な変更もなされています。これが脱法のための『お化粧』にすぎないのか、合理的な『制度の見直し』といえるのか、評価は簡単ではないと考えられます」



根本大臣は「司法において判断」と答弁するが、裁判をやっても得られる利益に比して、かかる労力や費用は大きく、費用倒れになってしまう。



「実際には、裁判よりも労働組合などを通じた交渉が向いている案件だと思います。会社に組合がない場合は、例えば社外の組合に相談することも考えられます。すでに就業規則が変更されていたとしても、その効力を争うことはできます」





厚労省は、もともと有休義務化について、事業者向けに解説のリーフレットをつくっていたが、川合議員の質問を受け、骨抜き事例への注意喚起に特化したパターンも作成した。こうした素材を使いながら、周知・徹底を図っていくという。



在職中に声をあげるのは難しい部分もあるが、労働者側が黙っていると、せっかくできた新制度がどんどん骨抜きにされてしまう。労働者側の意識も問われていきそうだ。




【取材協力弁護士】
黒柳 武史(くろやなぎ・たけし)弁護士
2006年関西学院大学大学院司法研究科修了。2007年弁護士登録(大阪弁護士会)。取扱い分野は、民事・家事事件、労働事件、刑事事件など。
事務所名:中本総合法律事務所
事務所URL:http://nakamotopartners.com/


このニュースに関するつぶやき

  • 制度で抑えると穴を探すいたちごっこになるけど、じゃあ次は制度に加え『嫌々働かすよりちゃんと休む方が生産性挙がる』って説明と意識改革が必要。いつまで幼稚な会話してるんだ
    • イイネ!294
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