Creepy Nuts、オードリーへのアンサーが形に 最高にトゥースな「よふかしのうた」MV分析

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2019年07月20日 11:51  リアルサウンド

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Creepy Nuts『よふかしのうた』

 Creepy Nutsのミニアルバム『よふかしのうた』が、8月7日にリリースされる。アルバムタイトルソングの「よふかしのうた」は、『オードリーのオールナイトニッポン10周年全国ツアー』のテーマソングとして制作された楽曲。2018年10月に配信限定曲としてリリースされ、5月28日にMVが公開となった。


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 MV公開についてのリリース記事では、「Creepy Nutsの考える最高の夜更かしとして、オードリー春日俊彰の自宅である“むつみ荘”内を借りて、“クラブむつみ荘”としてライブを敢行するストーリーを撮影した内容」とされているが、『オードリーのオールナイトニッポン』(ニッポン放送/以降『ANN』)のリスナー、通称リトルトゥースが観れば一発で『ANN』のネタが満載であることに気づくはずだ。


 G視点で始まるMVは、前奏の終わりと共にエロパソに挟まり、窓から顔を出したR-指定が隣の建物のカップルに見られている光景など、MVには『ANN』の珠玉のエピソードネタがこれでもかというほどに詰め込まれている(詳しくは、YouTubeのコメント欄で解説されているのでそちらで)。筆者は、このMVはCreepy Nutsから、オードリーへのアンサーだと捉えている。


 オードリーがCreepy Nutsにテーマソングの依頼をしたのは、2018年夏の終わり。同年3月より『オールナイトニッポン0(ZERO)』を担当しているCreepy Nutsが、10月にオードリーの『ANN』へ出演し、その放送にて「よふかしのうた」は初解禁となった。初めて楽曲を聴いたオードリーの2人は、営業の出囃子にすると宣言し、「権利はこっちにあるんだよ」と若林は大絶賛。「春日」「付け焼き刃」といったオードリー『ANN』側のオーダーを無視し、「よふかしの解釈を広めにして、終着点をシリアスにしようと熱い感じ」にしたとDJ 松永は解説していた。


 この日の放送で分かるのは、オードリーとCreepy Nuts、特に若林とDJ 松永が相思相愛であることだ。MC.wakaとしてmiwaのライブにサプライズ出演したこともある若林は高校の頃に聴いていたBeastie Boysがかかること、ラッパーがラジオのパーソナリティをやっていることを讃え、「大好き。たまんない」と『0(ZERO)』のリスナーであることを明かしている。Creepy Nutsはヒップホップシーンに在りながらも、異例の路線を辿っているアーティストだ。DJ 松永は今年4月よりワイド番組『ACTION』(TBSラジオ)の水曜パーソナリティを務め、深夜帯だけでなく、夕方の交通情報やラジオショッピングなどもこなす一方で、『ゴッドタン』(テレビ東京系)でのトーク企画「芸人ラジオサミット」にCreepy Nutsで参加し、『タモリ倶楽部』(テレビ朝日系)にも“スキマうどんクイーン”を決める企画に出演。テレビ東京のプロデューサー・佐久間宣行からもそのトークスキルを賞賛されている。同じヒップホップアーティストとしては、『アフター6ジャンクション』(TBSラジオ)のパーソナリティを務めるRHYMESTERの宇多丸も、抜群のトークスキルと幅広い知識を持ち合わせているが、オードリー『ANN』の「ひろしのコーナー」で(若林にそそのかされたとは言え)DJ 松永が春日と裸になったという点では、バラエティに強く傾倒していると言える。


 DJ松永は、10周年記念ブック『オードリーとオールナイトニッポン 最高にトゥースな武道館編』で企画された朝井リョウとの対談の中で、武道館公演について「『本当に通常放送をやってくれるんだ』って胸打たれた」と語っている。「俺たち内輪ウケを本気でやりに来てますから」と若林の宣言通り、オードリーが武道館という大舞台でリトルトゥースに向けて放ったのは、いつもと変わらない“本気の内輪ウケ”。この日、若林は開口一番「いやー、岡田よ」といつものマネージャーいじりから始めていた。


 2018年6月の青森公演を皮切りに、9月の愛知、12月の福岡、そして2019年3月2日の日本武道館でファイナルを迎えた10周年全国ツアー。終演後から燃え尽き症候群になっていた若林にとって、6月30日にラゾーナ川崎プラザ ルーファ広場にて開催された武道館公演のDVD発売記念イベントは、ツアーに区切りを付ける意味合いもあった。ティーンリトルトゥースこと貴重な女子高生リスナーに春日へのキャップかけを行い、締めは「トゥース」の3本締め。イベントの終了と同時に降り出した雨に若林が「頭を冷やせって、親父が言ってるのかな」と天を指差すと、会場のリトルトゥースは歓声を上げた。若林の父親は2016年、1年半に渡る闘病生活の末、お隠れになっている。若林は『ANN』の中で何度も、何度も父親の死に触れ、それを笑いへと昇華してきた。ラゾーナ川崎に集まった1万人が、お隠れになった若林の父親で笑っている姿は、通りがかりの人から見れば異様な光景なのかもしれないが、それがオードリーとリトルトゥースの間での愛ある内輪ウケなのだ。


 改めて、「よふかしのうた」は武道館公演を観たCreepy Nutsが、オードリーに向けた“本気の内輪ウケ”というアンサーだ。けれど、一つだけ『ANN』にとどまらない、ポピュラーなネタが混ざっている。それがラスト、テレビに映る『M-1グランプリ2008』(朝日放送テレビ・テレビ朝日系)の映像。敗者復活から勝ち上がってきたオードリーが、準決勝でナイツ、NON STYLEを下し、1位に躍り出たまだ若き春日と若林の姿だ。「1万人が10年続けば大したもんだぞ」ーーこれは10年前、ラゾーナ川崎でイベントを行ったオードリーに事務所の社長が言った一言。その言葉通りに、オードリーは“大したもん”を成し遂げた。M-1、武道館からの、次の10年20年。語らずとも多くのメッセージを放つ「よふかしのうた」のMVは、粋で“最高にトゥース”なMVだと思う。(渡辺彰浩)


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