山口智子を“異質な存在”として描く狙いは? 「サバサバ」演技で包み込んだ過去への切ない思い

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2019年07月23日 06:11  リアルサウンド

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山口智子『監察医 朝顔』(c)フジテレビ

 第100作目のNHK連続テレビ小説『なつぞら』で、ヒロイン・なつ(広瀬すず)が居候させてもらうおでん店「風車」の女将・亜矢美を演じている山口智子。


 亜矢美は元踊り子であることから、派手派手な服をまとい、スカーフ、ターバンを巻き付けた個性的なファッションで、いつでも歌い踊っている。なつに自分の服を貸し、派手派手ファッションにさせるだけでなく、様々な影響を与えている。新宿の夜の街の空気もあって、『なつぞら』の中ではそこだけが「異空間」のように浮き立っている。


【写真】『なつぞら』「風車」の女将・亜矢美


 さらに、7月8日にスタートした“月9”『監察医 朝顔』(フジテレビ系)では、法医学者・朝顔(上野樹里)の一番の理解者であり、朝顔が法医学者を目指すきっかけとなった法医学教室の主任教授・夏目茶子を演じている。


 津波で母を失った朝顔と、妻を失った父(時任三郎)。二人の心の傷や、「事件」や「死」の真相が静かにゆっくり丁寧に描かれていく中で、やっぱり山口の存在は「異色」だ。自由奔放で神出鬼没な「謎の女性」という設定もあるが、映画のような映像と音の中に、彼女が登場するだけで、色味がガラリと変わり、ビビットな印象を残す。


 ある意味、『なつぞら』でも『監察医 朝顔』でも、その存在は浮いており、SNSでも以下のような指摘が相次いでいる。


「何を演じても山口智子」
「『監察医 朝顔』の山口智子って、月9的には女性になった久利生公平が上司になった姿に見えるのは私だけ?」
「久々? の山口智子だけど、馴染んでいないというか、浮いていません?」
「『監察医 朝顔』と、なつぞらと、山口智子さんのキャラが似てませんか〜w」
「『監察医 朝顔』の茶子先生は服装の系統が『なつぞら』の亜矢美さんと同じなので、『茶子先生! これから風車ですか?』って声かけたくなる」


 その一方で、特に後者については好意的な意見も実に多い。


「『監察医 朝顔』見てたけど山口智子の“あなた、生きてるのよね”の一言でボロボロ涙溢れてきた。ほんの数秒の言葉と表情で。凄い女優さんだ」
「『監察医 朝顔』見てたら、チャコ先生…って思う。『ハロー張りネズミ』の時も、よかったんだ。おでんがすごく鬱陶しくて、役者さんを嫌いになってたけど、山口智子は悪くない」


 評価はそれぞれ異なるものの、山口を「異質な存在」として描く狙いは、両者におそらく共通している。


 こうした起用法が始まったのは、大根仁監督の『ハロー張りネズミ』(2017年、TBS系)からだろう。


 『ロングバケーション』(1996年、フジテレビ系)以来の連ドラ出演となった『ゴーイング マイ ホーム』(2012年、カンテレ・フジテレビ系)や、『心がポキッとね』(2015年、フジテレビ系)の出演時の演技には、世の中からすっかり消えてなくなって久しい“過去の遺物”のバブル臭が強烈に感じられ、「キツイ」という感想がネット上に溢れていた。


 しかし、それを逆手にとったのが前述の『ハロー張りネズミ』で、トレンディドラマの女王・山口智子に「5時から女♪」「よろぴく」と言わせたり、瑛太&森田剛が「後ろ姿はイケてるんだけどなあ」と呟かせたりして笑いをとった。


 よりによって、あの山口がトレンディで笑いをとる日がくるなんて良いのだろうかと不安になった人も多数いただろう。


 しかし、何かと『ロングバケーション』ばかりが語られがちだが、トレンディ時代の山口といえば、忘れてはいけないのが、『29歳のクリスマス』(フジテレビ系)だ。1986年に施行された「男女雇用機会均等法」によって、男性と同じ条件で働く「総合職」が生まれたが、その1期生の多くが29歳を迎えたのが、同ドラマ放送年の前年である1993年。山口が演じる総合職のヒロインが、29歳の誕生日に子会社のレストランに出向させられ、恋人にも振られ、円形脱毛症にまでなる。そんな“人生最悪の誕生日”から始まる物語だった。


 さらにその翌年には『王様のレストラン』(フジテレビ系)で、「やる気はないが、潜在能力が高く、後に開花していくシェフ」の磯野しずかを魅力的に演じた。『王様のレストラン』での山口が一番好きという人も、いまだに多数いるのではないだろうか。


 「バブル」の象徴のように語られ、今でも過去のイメージを引きずっているように描かれたり、見られたりする山口。「何を演じても山口智子」像は、昔から大きくシフトチェンジすることなく、いつでも気丈で、テンション高めで、サバサバしているように見えて、誰よりもウェットだ。


 『なつぞら』では戦後まもなく新宿に再建された「ムーランルージュ」の思い出を抱きつづけ、『監察医 朝顔』では人々の人生、震災、死と向き合い、過去を抱きつつ新しい一歩へ踏み出そうとしている。


 そんな過去への切ない思いや後悔、執着、哀愁などを表層的な「サバサバ」で包み込み、時代そのものを描くための装置のように居続ける。山口が作品に背負わされている役割は、実は非常に大きい気がする。


(田幸和歌子)


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