トヨタの「ハイエース」が50周年、根強い人気には理由があった

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2019年07月23日 11:52  マイナビニュース

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画像提供:マイナビニュース
●“はたらくくるま”の代表格、新型は環境性能・安全性能が向上
トヨタ自動車「ハイエース」といえば、日本全国どこでも見かける“はたらくくるま”の代表格。そのハイエースがマイナーチェンジを機に発表会を行なった。改良の内容をお伝えするとともに、世界各地で愛され続けている理由、増えつつあるレジャーユースへの対応なども報告しよう。

○トヨタでは「クラウン」に次ぐ歴史を持つ「ハイエース」

トヨタのワンボックスカー「ハイエース」が姉妹車の「レジアスエース」ともどもマイナーチェンジを受け、11月22日に発表会が行われた。ハイエースのような商用車がメインの車種のマイナーチェンジで、メーカーが発表会を行うことは珍しい。興味があって足を運ぶと、そこには「ハイエース50周年」という文字が大きく掲げられており、フロアには歴代ハイエースが並んでいた。

トヨタはロングセラーの車種が多い。筆頭が1951年に「トヨタ・ジープBJ」としてデビューした「ランドクルーザー」であり、3年後には小型トラックの「トヨエース」、翌年には国産高級車の代表格「クラウン」が登場している。ハイエースはこれらに続く歴史の持ち主だ。

モデルチェンジの間隔が長いのもハイエースの特徴の1つで、現行型は5代目にあたり、2004年に発表された。前面衝突時の衝撃を吸収する車体前部の骨格を上下二重にするなどして安全性能に配慮しつつ、エンジンを前方に移動することで荷室長3メートルを達成。ワイドボディも追加することで「より広い空間を」という声に応えた。

今回のマイナーチェンジでは、環境性能と安全性能がさらに向上した。環境面では、2年前に「ランドクルーザープラド」に初搭載した新世代の2.8Lターボのクリーンディーゼルエンジンを採用。これにより燃費が向上し、一部車種でエコカー減税の適用を受けられるようになった。安全面では、衝突被害軽減ブレーキなどを含めた予防安全システムの「トヨタ・セーフティ・センスP」を設定した。

○海外でも人気、多様な使い方に対応

発表会ではチーフエンジニアの野村淳氏から興味深い話を聞くことができた。その1つが海外展開についてだ。日本の風景の一部になっている感があるハイエースだが、販売比率は国内向けが4割で、海外向けの方が多いという。

ただし使用目的は異なっており、物流が85%を占める日本に対し、海外では「人流」、つまり人を運ぶ用途が多いとのこと。たしかに筆者も東南アジアなどで、マイクロバスとして使われるハイエースを利用したことがある。

使い方は日本よりはるかに過酷であり、1日の走行距離1,000キロ、高低差4,000メートルというシーンもあるそうだ。サスペンションを変更することで、30人以上の人を乗せて走っている例もあるという。ランドクルーザー並みにヘビーデューティーな条件だ。

●過酷な状況でも音を上げない「ハイエース・クオリティ」
○乗用車とは一桁違う耐久性能

それでもハイエースが音を上げない理由の1つとして、「ハイエース・クオリティ」と呼ぶ独自の品質基準を設定していることを野村氏は挙げた。例えばスライドドアの耐久性は、同じトヨタの乗用車とは一桁違う基準を設定しているそうだ。もともと信頼性では定評のあるトヨタ車の中でも、ハイエースは抜きん出た存在なのである。

世界各地で活躍する車両でありながら、ハイエースの生産工場は数カ所に留まっている。しかも、日本以外は主要部品を輸入して組み立てを行うノックダウン工場としている。これも群を抜く信頼性や耐久性を維持するためであるとのことだ。

さらに興味深かったのは、走る・曲がる・止まるという自動車の基本性能においては、いきなり壊れて止まることがなく、事前に異音を発生するなどして使用者に不調を伝えるような設計が込められているということ。インフラとして、プロの道具として、世界の生活を支えているハイエースだからこそ、このような配慮を盛り込んでいるという。
○上級の安全装備を採用した理由

今回のマイナーチェンジでは、予報安全装備の「トヨタ・セーフティ・センスP」を装備したことを紹介した。カローラなどが採用している「トヨタ・セーフティ・センスC」より格上のシステムであり、車体構造の関係で「アダプティブ・クルーズ・コントロール」(ACC)がつかないことを除けば、「プリウス」や「C-HR」に並ぶ性能だ。

格上の安全装備を取り入れたのもまた、壊れないクルマを目指した結果だという。ハイエースのような商用車は、事故などを起こして動かなくなると仕事に支障を及ぼす。使用者だけではなく、取引先など他の多くの人々に影響する。何よりもまず、事故を起こしにくいハイエースにしたい。この気持ちが、2種類ある予防安全装備の上級版導入に結びついたのである。

●フルモデルチェンジしないのが商品力
○あえてフルモデルチェンジをしないハイエース

現行型になって13年が経過しているにもかかわらず、フルモデルチェンジではなくマイナーチェンジとしたのも、実は似たような理由からだった。

フルモデルチェンジをすると、多くの部品が切り替わるので、そのたびに自動車整備工場などでは多くの部品を確保しなければならない。モデルチェンジが頻繁に行われると部品の数が増えるし、海外の地方都市などでは新型の部品の供給が行き届かないこともある。しかし、マイナーチェンジに留めておけば、多くの部品が旧型と共通なので、確保がしやすい。壊れてもすぐに直せるから、仕事に支障を及ぼす可能性が少ないことを意味する。

野村氏は「商用車はモデルチェンジしないことも商品力の1つ」と語っていた。乗用車がモデルチェンジをすることで商品力を高めていくのとは対照的だ。ハイエースが乗用車とは全く違う意識で作られていることがわかる。

○実は若者にも人気! 乗る人によって表情を変えるクルマ

そんなハイエースであるが、現在はレジャーカーとして選ぶ人も増えており、そこには若者も少なくない。マイナーチェンジ前の販売実績では、装備が充実した上級グレードの「スーパーGL」が4割に達していたそうで、乗用車的な使い方が増えていることがうかがえる。

生活に余裕ができたことも大きいとは思うが、素材として使いこなせて、自分好みにアレンジできる可能性を秘めているところも魅力なのだろう。今年、13年ぶりに日本市場に復活した「ハイラックス」も20〜30歳代のユーザーが多いそうで、今の若者がスポーツカーだけでなく、バンやトラックのような使いやすくて頼りがいのある車種にも魅力を感じていることが伝わってくる。

こうした状況を見据えて新型ハイエースでは、ボディやインテリアをファッショナブルにカスタマイズした特別仕様車「リラクベース(Relaxbase)」を用意。さらに、販売を担当するトヨペット店では、ハイエースでアウトドアを楽しむライフスタイルを提案する「ハイエースフィールド」を44店舗に設置予定としている。

人や物を運ぶという本来の目的を世界各地で展開しつつ、レジャーユースという新しい要求にもしっかりと応えていく意志を見せた新型ハイエース。50周年はこのクルマにとっての転換点になるかもしれない。(森口将之)
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