山田裕貴が『なつぞら』で向き合った人生の岐路 「雪次郎は逃げた」

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2019年07月27日 09:32  リアルサウンド

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山田裕貴『なつぞら』(写真提供=NHK)

 『なつぞら』(NHK総合)で、またまた小畑雪次郎(山田裕貴)の周りが騒がしい。役者を志して突っ走ってきた彼が、夢を諦め北海道へと戻ってきたのだ。


 帯広の菓子店「雪月」のひとり息子である雪次郎。高校では演劇部に所属していたが、卒業後はかつての父・雪之助(安田顕)と同じように、東京・川村屋で菓子職人の修業を始める。だが、なつ(広瀬すず)と共に観劇した舞台「人形の家」をきっかけに、劇団「赤い星座」の看板女優・亀山蘭子(鈴木杏樹)に惚れ込んでしまう。


【写真】天陽(吉沢亮)の元へ向かった雪次郎(山田裕貴)


 封印してきた演劇に対する情熱はふつふつと湧き上がり、ついに第13週(6月24日〜29日)で感情が爆発。川村屋を辞めて「俳優になりたい」と雪之助に告げるのだが、山田自身、その場面はプロ野球選手だった実父に「野球を辞める」と伝えた時に似ていたと語るなど、自身と雪次郎のシンクロ率に驚嘆する。そんな山田が演じるからこそ、家族の思いがぶつかる数々のシーン、とりわけ雪次郎が瞳を潤ませバタークリームのロールケーキを焼いて振る舞う様は、涙なしでは見られない名場面となったのだろう。


 その後、雪次郎は訛りに悩まされながらも、役者の道を邁進する。山田は「劇団の稽古シーンは、蘭子さんと本当に稽古している感じでしたね。蘭子さんが、めちゃくちゃ意見を出してくれるんですよ。最初は僕も聞くだけだったのが、自然と話し合いができるようになっていました。雪次郎と蘭子さんがそうさせてくれたのかなって思いながら、結構痺れるシーンがあって楽しかったです」と、雪次郎が意を決して挑んだ稽古場面を振り返る。


 第17週(7月22日〜27日)は「簡潔にまとめると“仕事と恋愛”がテーマ」と山田。「蘭子さんがいるから芝居を頑張れるのか、芝居が好きだから芝居をやっているのか迷うんです。新しい劇団を作らないかと言われて、“蘭子さんと芝居をやりたい”という信念を守るのか、新しく開拓をしていくのかっていうところでも迷っていた。そこを蘭子さんに見抜かれてボロクソに言われるわけですが、あれは僕としても傷つきました(笑)」。


 結果として、雪次郎は蘭子の言葉を機に北海道へ戻ることに。山田は「雪次郎は逃げた」と語気を強めるも、小畑家の愛があってこそと彼の生き様にも共感を示す。「すごく悔しかったと思うんですよね。たぶん僕だったら諦めずに続けるので、雪次郎は逃げたんだなって。でも“良い逃げ”というか、敗北者じゃない。人生の岐路だっただけで、負けてはない。愛の深い、あの家を選んだっていうのは雪次郎だからだろうなと思うし、そういう家族がいてくれるのが素敵。逃げたんじゃなくて、そこに身を委ねたんだろうなって思うんです」。


 一方で、雪次郎が「雪月」に帰る場面は、山田にとっても役者として重大な局面となった。「台本には書いていないのに、自然と涙が出てきて。雪之助さんやとよばあ(小畑とよ/高畑淳子)が“いやぁ、いい。よかった”って言ってくれたんですよ。そこでやっと、自分としても認めてもらえたし、雪次郎として許してもらった気がしました。奇跡的な巡り合わせを感じて、パラレルワールドだなって。だから、楽しさしかないです。自分で生きている人生より楽しいかも(笑)」。


 度重なる覚悟と挫折によって、一回りも二回りも成長して家族のもとへ戻った雪次郎。そして演じる山田もまた、本作を通じて強く、大きくなった。もがいた過去を助走に変えて、菓子職人としての道を駆け抜ける雪次郎の姿に役者・山田裕貴を重ねながら、物語の行方を見届けたい。


(nakamura omame)


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