パスピエ、高度な演奏技術が可能にする芸術と娯楽の融合 『more humor』ツアー最終公演を見た

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2019年08月07日 12:31  リアルサウンド

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パスピエ

 今年5月に5枚目のフルアルバム『more humor』をリリースしたパスピエが、それを携えた全国ツアー『パスピエ TOUR 2019 “more You more”』を、東京・渋谷WWW X(6月12日)を皮切りに全国9都市10会場で開催。そのファイナル公演を7月15日、東京・Zepp Tokyoにて開催した。


参考:パスピエ 成田ハネダ×tofubeats特別対談 サウンドメイクにおける“音楽的ユーモア”の重要性


 アルバムのレコーディングにも参加したサポートドラマー佐藤謙介と共に、メンバーの成田ハネダ(Key)、三澤勝洸(Gt)、露崎義邦(Ba)がステージに現れ、おもむろに楽器のセッティングを開始。遅れて赤いドレスを纏った大胡田なつき(Vo)がスキップで登場すると、フロアからはひときわ大きな歓声が上がる。まずは『more humor』収録曲「だ」からこの日のライブはスタートした。


 オリエンタルなメロディと、〈踊ランセ〉という印象的なフレーズ、不協和音ギリギリで絡み合うギターとシンセのアンサンブル、変拍子を取り入れたキメのリズムが目まぐるしく交差し、あっという間に“パスピエ・ワールド”へ。間髪入れずに演奏されたのは、3rdフルアルバム『娑婆ラバ』から「術中ハック」。緊張感たっぷりのシンセサイザー・バッキングと鋭利なエイトビートが、The Specialsの「Concrete Jungle」にも通じるキラーチューンだ。


 さらに「音の鳴る方へ」では、目まぐるしく変化するコード進行とリズムパターンの上で、たゆたうような大胡田の歌声が伸びやかに響き渡る。各プレイヤーがアクセントを微妙にずらしながら、ギリギリのバランスで組み上げていくような変態的なアンサンブルを、涼しげな顔で演奏していくのがパスピエの真骨頂といえよう。


 「ツアーファイナル、来てくれてありがとう。今日は生でパスピエの“ユーモア”を感じてください」と、アルバムタイトルにちなんだ挨拶を大胡田がした後、ヨナ抜き音階のメロディが印象的な「BTB」へ。秒単位で抜き差ししていく音の情報量はハンパないのに、どの楽器も周波数帯域や鳴らされるタイミングの住み分けがしっかりされており、それぞれのフレーズがちゃんと耳に届いてくるのがとにかく圧巻。続く「(dis)communication」ではぐっとテンポを落とし、ヒップホップ的なアプローチからサイケデリックなブレイクを経て、グルーヴィーなサビへとなだれ込む唯一無二のアレンジを披露。成田のピアノソロからスタートした「ユモレスク」は、疾走感あふれるAメロ〜Bメロが、サビでリズムを半分に落とすという意表を突いた展開がパスピエらしい。切なくもポップなメロディをキュートに歌い上げながら、ゆらゆらと体を揺らす大胡田の姿も印象に残った。


 過去の代表曲、人気曲をバランスよく良くちりばめつつ新作からの楽曲を中心にしたセットリスト。中でも印象的だったのは「グラフィティー」と「ONE」だ。「グラフィティー」は、指がもつれるのでは? と思うくらい超高速で演奏される成田のクラヴィネットと露崎のスラップベース、佐藤のハイハットが激しくせめぎ合い、宙を切り裂くような三澤のギターが参戦すると、怒涛のグルーヴが会場いっぱいに押し寄せる。「ONE」は、ケレン味たっぷりのシンセフレーズと地を這うようなベースがヘヴィに混じり合う、パスピエにとって新機軸とも言える楽曲。いつもよりもキーが低くく、ソウルフルに歌い上げる大胡田のボーカルも新たな魅力を放っていた。


 幻想的なマリンバのサウンドから始まる「resonance」は、マイナーとメジャーを行き来するコード進行と、懐かしくも切ないメロディが胸にしみる。幾何学的なアンサンブルで、近未来の“トーキョー”を映し出す「トーキョーシティ・アンダーグラウンド」、音響的なアプローチによってサイケデリックなウォール・オブ・サウンドを構築していく、その名も「煙」、アブストラクトかつインダストリアルな打ち込みに合わせ、しっとりとした演奏を聴かせる「waltz」など、ライブ後半もパスピエの無尽蔵な引き出しが次々と開けられていく。


 「東京ー!!」という大胡田の叫び声とともにスタートした「つくり囃子」は、お囃子のようなリズムと沖縄音階を用いたメロディ、トリッキーなギターソロやハードロックばりのキメなどが入れ替わり立ち替わり現れる「これぞパスピエ!」と快哉を叫びたくなるような楽曲。成田のファルセットコーラスが効果的だった、パスピエ流のシティポップ「△」や、80年代ニューロマンティックを彷彿とさせる「R138」、性急なシンコペーションが高揚感を煽る「ハイパーリアリスト」と、ラストスパートをかける彼らにオーディエンスも全力で応えている。


 「もうちょっと踊ろうか?」という大胡田の言葉とともに演奏された「オレンジ」では、天井のミラーボールが回り出し、Zepp Tokyoがディスコと化す中、マイケル・ジャクソンの「Rock With You」をアップデートしたような「オレンジ」でフロアのボルテージも最高潮に。「私が言いたいことは、全部この曲に書きました」と大胡田が紹介した「始まりはいつも」で、本編は終了。「また色んなところでお会いしましょう。パスピエでした。いつまでも繋がっててくれー!」という言葉とともにステージを後にした。


 アンコールでは、2020年2月16日に東京・昭和女子大学人見記念講堂での結成10周年記念公演『十周年特別記念公演 “EYE”(いわい)』の開催を発表した後、「トキノワ」と「恐るべき真実」を立て続けに演奏。それでも拍手とコールは鳴り止まず、再び登場した彼らはパンクとモーツァルトとお囃子が融合したような「ギブとテイク」を荒々しく演奏し、大盛況のうちに幕を閉じた。


 「印象派×ポップロック」というコンセプトのもと、高度な音楽性と、ずば抜けた演奏能力に裏打ちされたポップミュージックを奏でるパスピエ。いい意味で「音楽サークル的な和気あいあいとした雰囲気」をいつまでも保ち続けながら、ストイックなまでにエンターテイメントとアートの融合を追求し続ける姿はただただ圧巻だった。(黒田隆憲)


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