会社経営×スポーツの必勝パターンに限らない? 『ノーサイド・ゲーム』から考える日曜劇場の変化

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2019年08月11日 08:01  リアルサウンド

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『ノーサイド・ゲーム』(c)TBS

 TBS日曜劇場の『ノーサイド・ゲーム』を毎週楽しみにしている。


 原作小説(ダイヤモンド社)の作者は池井戸潤。チーフ演出は福澤克雄、プロデューサーは伊與田英徳。大ヒットした『半沢直樹』以降、日曜劇場の池井戸原作のドラマを作り続けてきたチームの最新作だ。


【写真】アストロズ俳優


 舞台は大手自動車メーカー「トキワ自動車」のラグビー部・アストロズ。出世競争で敗北し、府中工場の総務部長に赴任した君嶋隼人(大泉洋)は、アストロズのGM(ゼネラルマネージャー)を兼務することになる。


 左遷された自分の境遇をアストロズの苦境に投影した君嶋はアストロズをプラチナリーグで優勝させることで本社に復帰しようと奮起。経営戦略室で鍛えた分析力を武器にしてアストロズの育成に切り込んでいく。


 映像としての見せ場はドローンの映像を駆使した上空からの映像と、スローモーションを多用した、屈強な選手たちが激しくぶつかり合う試合場面。大学時代は有名なラグビー選手だった福澤がチーフ演出を務めていることもあってか、迫力あるものに仕上がっている。


■物語の多層化


 しかし、本作の本当の面白さは、むしろ試合の外側にあると言える。物語は多層化しており、様々な物語が同時展開されている。


 君嶋を認めようとしないアストロズの選手たちとの衝突。君嶋を左遷した天敵の常務・滝川桂一郎(上川隆也)との経営戦略や、ラグビー部の年間予算をめぐる激しい攻防。プラチナリーグで利益を出すための対策をまったく練ろうとしない保守的な日本蹴球協会に対し、地元密着のチームを育成することで利益を出そうとする興業面での戦い。


 また、ドラマならではの味付けとして小説版ではまったく描かれてなかった君嶋の家庭の描写も見逃せない。君嶋は二児の父親で、松たか子が妻の真希を演じているのだが、この真希の性格がおかしい。恐妻でいつも辛辣なのだが、どこか愛嬌があり、悩んでいる君嶋の背中を押してくれる。ドラマ全体に漂うスポーツや会社、つまり日曜劇場が体現している男らしさを第一とする世界観を全否定してくるので、劇中では大きな違和感となっているのだが、怪演としか言いようのない松の芝居もあって目が離せない。


■池井戸作品がドラマに重宝される所以


 それにしても、今回、原作小説を先に読んだのだが、思った以上にドラマ版の印象と違うことに驚く。ドラマ版は設定やテーマは同じなのだが、時系列が入れ替わっていたり、キャラクターの性格が変化していたりと違う場面も多い。『半沢直樹』も大胆なアレンジが施されていたが、必ずしも原作通りというわけではなく、小説は小説、ドラマはドラマという感じで、自由に脚色することが許されてきたからこそ、池井戸作品はドラマに重宝されるのだろうと改めて思った。


 ドラマ版がクールにマネジメント面からラグビーというスポーツに切り込んでいく映画『マネーボール』のような作りであるのに対して、ドラマ版は各キャラクターの味付けが濃く、その分だけ人情ドラマとしての側面が強くなっている。特に主人公の君嶋は大泉が演じることで、情けなさと愛嬌がプラスされている。


 同じ池井戸ドラマでも『下町ロケット』の阿部寛や『陸王』の役所広司といった歴代の主人公が男らしい父性を漂わせるリーダーだったのに対し、46歳という年齢もあってか、大泉が演じる君嶋には感情を高ぶらせてみんなを引っ張っていくという強いリーダーシップがあるわけではない。感情を爆発させる場面もあるにはあるのだが、それ以上にデータを分析して最適解を選んでいこうという良く言えば理知的、悪く言うなら狡猾さがある。その理知的な部分と池井戸ドラマが過去に描いてきた「熱血」が程よくブレンドされているのが今までにない新しさで、おじさん向けの暑苦しいドラマという印象が強い日曜劇場も時代に合わせて変化していることがよくわかる。


■会社経営×スポーツの必勝パターン


 最後に、会社経営とスポーツという組み合わせは池井戸作品の得意とする必勝パターンの一つだ。今までにも、社会人野球を題材にした『ルーズヴェルト・ゲーム』や、老舗の足袋製造工場がランニングシューズを開発する『陸王』などが日曜劇場でドラマ化されてきた。今回の『ノーサイド・ゲーム』は主人公がラグビーチームのGMということもあってか、より両者の距離が近く、スポーツと会社を横断することで、男たちの熱い世界を描いているのだが、おそらくスポーツのフェアプレイ精神は、日本人の愛社精神と通じるところがあるのだろう。


 これは逆も言えて、近年、マネジメントという側面からスポーツ選手のお仕事を見直そうという動きが起こっている。『グラゼニ』や『GIANT KILLING』といった週刊モーニング(講談社)に連載されている大人向けのスポーツ漫画がそういう切り口なのだが、『ノーサイド・ゲーム』にも同じテイストを感じる。「ただ、試合に勝てばいい」だけでは済まされない物語となっているからこそ、高い支持を受けているのだ。


(成馬零一)


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