上田剛士はAA=『#6』で“王道”を実現した 音楽性と思想性を前進・強化させた作品に

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2019年08月11日 18:01  リアルサウンド

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AA=

 上田剛士がAA=の新作『#6』の制作作業に入ったのは、昨年秋に行われた10周年記念ライブ『THE OIO DAY』のあとだった。上田は次作の構想を練るうち、何気なく自分の過去の音源を聞き直してみたという。この場合の「過去」とはAA=の過去、というだけではない。上田剛士が以前所属していたバンド、THE MAD CAPSULE MARKETSも含めての話だ。上田は私のインタビューに答え、約10年ぶりにTHE MAD CAPSULE MARKETSの音源を耳にしたことを明かし(ということは、AA=がスタートしてから一切聞いていなかったということだ)、その音作りを今作の参考にしたとも語っている。


 具体的には、AA=よりもベースのロー(低域)感が少ない、と感じたらしい。逆に言えばAA=は、低域の弦を鳴らすような奏法に変化している。当時とは曲のキーが違うので、全体に低域に寄ったような重厚な音像になっているのだ。その、ローのアタックが弱い(上田曰く「ベースなのにローは要らないと思っていた」)ベースを「かっこ良い」と感じた上田は、今作において「昔の感覚を呼び起こす感じで、ベースの音作りをした」という。そうすることで演奏にスピード感が生まれる。よりソリッドで、タイトで、アグレッシブな音像となった。それが今作で上田が狙ったサウンドだったわけだ。最近の英米のポップミュージックは、R&Bやヒップホップを中心に、たとえばビリー・アイリッシュのようなアーティストでも、サブベースを効かせてローを極端に強調するようなサウンドプロダクションが主流になりつつある。日本でも一部にそういう動きはあるが、AA=は体感上のヘヴィネスよりも、むしろラウドロックとしての速度と強度、破壊力を重視したのだろう。


 今作のアートワークは、真っ赤なバックに、サイボーグの豚?というシンプルなデザインである。CGを使ったこの意匠を見て、前のバンドの一連の作品のアートワークを思い起こしたのは私だけではないだろう。上田としては「やっぱり自分はこういうデザインが当時から変わらず好き」と言いながら、「(当時のバンドを想起させるものを)あえて外す、あえて遠ざけるっていうことは、ずっとしてたんだけど、それがなくなった感じがします」と語っている。これはとても重要な発言だと思う。


 前身のバンドが活動休止してから、上田がAA=という次のアクションを起こすまでに時間がかかった。以前の二番煎じ的なものを避けるために、あえて遠ざけ外すという道を選ばざるをえなかった。だがそうした一種の呪縛から、上田は解き放たれたようだ。上田は本作『#6』について、自分にとって王道のものができた、と言っている。それはつまり、これまで自分が歩んできた道のり、歴史、積み上げてきた過去や実績も含め、まるごと認め抱擁し、そのうえで堂々と道の真ん中を歩いていくと決意したということだ。徹底してラウドでハードコアでありながら、シンガロングできそうなキャッチーでポップなメロディを持ち、アグレッシブでマシーナリーなデジタルハードコアでありながら、同時にとてもエモーショナルな表現でもある。たとえば本作の「SO BLUE」は、まるで50年代のオールディーズのような甘酸っぱいメロディのロッカバラードが、唐突にブラストビートのラウドロックへと急展開する。こういう構成の曲は上田の得意とするものだが、ここまで極端なのは初めてだろう。ハードなものは徹底してハードに、ポップなものは徹底してポップに、エモいものは徹底してエモく、しかもそれぞれの要素が相殺することなく見事にバランスし調和している。それはデビュー以来上田が作り上げてきたオリジナルの音楽性であり、本作ではそれがさらに前進・強化され鳴っている。まさに上田剛士の「王道」である。ど真ん中に豪速球ストレートを投げ込むような、わかっていても打てないような、力強い正攻法のロックなのだ。そんなAA=の現在形が凝縮したのが、たとえば「PICK UP THE PIECE」のような曲である。


 サウンドの完成度も、ハードネスも、スピード感も、殺傷度も、ポップさも、アンセミックなメロディも歌詞も、エモーショナルなドラマ性も、10年前20年前とは比較にならないぐらい進化したAA=の『#6』。上田があえて避けてきたものからの影響を意識するようになったのは、いかに今のAA=が充実しているかという自信の表れでもある。彼がこれまで築いてきた音楽性やサウンドスタイル、「すべての動物は平等である」という思想性をひとつも損なうことなく、さらに前進させた『#6』は、AA=の最高傑作である。(小野島大)


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