『いだてん』大東駿介×上白石萌歌が示した日本人の誇り 水泳日本代表が日系人にもたらしたもの

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2019年08月19日 15:31  リアルサウンド

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『いだてん』写真提供=NHK

 『いだてん〜東京オリムピック噺(ばなし)〜』(NHK総合)第31回「トップ・オブ・ザ・ワールド」が8月18日に放送された。前話に引き続き、ロサンゼルスオリンピックでの水泳日本代表チームの活躍が描かれた。前畑(上白石萌歌)と鶴田(大東駿介)の活躍は、視聴者の胸を熱くしたことだろう。そして“トップ・オブ・ザ・ワールド”となった日本が、肩身の狭い思いをしてきた日系人に「日本人」であることの誇りをもたらした。


参考:『いだてん』で上白石萌歌が再び泳ぐ 『3年A組』景山澪奈と“真逆”の競泳界スターに


 まずは200メートル平泳ぎに挑む前畑秀子。上白石は前畑の負けず嫌いで努力家なアスリートらしい一面と、天真爛漫で無邪気な女の子らしい一面を見事に演じ分けている。決勝を前に緊張してしまい、じっとしていられない前畑がオロオロする様子はなんとも愛おしい。そんな前畑に、松澤初穂(木竜麻生)や小島一枝(佐々木ありさ)は「緊張したらカッパのまーちゃんがキュウリ食べてるのを思い浮かべて!」と励ました。スタート直前、政治(阿部サダヲ)がキュウリをかじる姿を想像して思わず吹き出す前畑。ここまでの表情は、人懐こそうな普通の女の子だ。しかし気持ちを切り替え、前を見据えた前畑の眼差しは「日本代表選手」そのものだった。


 泳ぐ上白石の姿を水中から捉えた後、カメラは一人称視点に切り替わる。前畑の、前へ前へと進む、執念にも思える泳ぎを追体験するかのようだった。水をかく音だけが聞こえ、前畑がゴールへと近づく。次の瞬間、無音に。一心不乱に泳いだ前畑が耳の水抜きをすると、今まで無音だった画がたちまち歓声に包まれた。会場の大歓声と自身の記録に驚く前畑は無邪気な笑顔を見せた。彼女の獲得した銀メダルは、女子水泳界初めてのメダルとなった。


 続く背泳ぎでは、日本が金・銀・銅すべてのメダルを獲得。そして最後は、男子200m平泳ぎ決勝だ。出場するのは、1928年のアムステルダムオリンピックで金メダルを獲得した鶴田義行と16歳の新鋭・小池礼三(前田旺志郎)。高石(斎藤工)らの応援を受けながらも、鶴田の表情はどこか曇っている。鶴田は、高石と語らった夜を思い出していた。「小池の練習台にって言われたが、ついていけん。かえって気を遣わせる始末だ」「4年前の金で、有終の美を飾ればよかった」と話していた鶴田。ここで鶴田が浮かべた表情は諦めに似た笑顔だった。一方、プールに向かう鶴田の表情は違う。晴れない表情ではあるが、諦めた表情ではなかった。


 頭ひとつ出た鶴田を小池が追う。小池は後半で鶴田をぐんと抜こうとする。日本代表チームも実感放送も小池に声援を送る。そんな中、鶴田の脳裏には「どうせ小池が勝つ」「日本の金メダルは安泰。気楽なもんさ」と話す高石の姿が。


 だが、険しい表情で泳ぐ鶴田から「負け」の2文字は微塵も感じられない。鶴田は決して「小池の練習台」ではない。日本代表選手の1人であり、そんな彼の目線の先にあるのは「勝利」だ。小池は鶴田を抜くことができない。声援に背中を押されるかのように鶴田は泳ぎ続ける。鶴田の結果は1着。鶴田は日本人で初めてのオリンピック連覇者となった。


 ロサンゼルスオリンピックは終幕。ロサンゼルスを後にする一同の前に、1人の日系人(吉澤健)が現れた。バスの目の前に立ちふさがった彼は、総監督である政治を強く抱きしめて礼を言った。


「日本人だというだけでどんなに肩身の狭い思いをしたことか。私は今初めて大道の真ん中で大きな声で堂々と俺は日本人だと言うことができます」


 吉澤演じる日系人は堂々たる声で「俺は日本人だ」と叫んだ。政治に反感を抱いていた日系二世のナオミ(織田梨沙)も「アイアムアジャパニーズアメリカン」と高らかに声をあげる。


 番組公式Twitterによると、日系二世の少女の存在と日系人男性による感謝が、政治を東京オリンピック招致に向かわせるきっかけのひとつになったという。


 しかし私たちは数年後に戦争が起こることを知っている。劇中では「満州事変」や「リットン調査団」などの単語が挟まれ、不穏な世界情勢が垣間見える。スポーツによってもたらされる歓喜だけでは満たされないのが、激動の時代を描く『いだてん』第二部の魅力と言えよう。(片山香帆)


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