『Heaven?』のドタバタ劇は意外にもビジネスの世界に通じる? 石原さとみの“格言”を深読み

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2019年08月20日 06:11  リアルサウンド

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『Heaven?〜ご苦楽レストラン〜』(c)TBS

 後半戦突入を迎えた石原さとみ主演の『Heaven?〜ご苦楽レストラン〜』(TBS系)。


 物語の舞台となるのは墓地の裏にあるフレンチレストラン「ロワン・ディシー」。オーナーを務める主人公・黒須仮名子(石原さとみ)が「自分が心ゆくままにお酒や食事を楽しみたい」という欲望を叶えるために道楽で開いた贅沢この上ない“オーナーの、オーナーによる、オーナーのための”「極楽」空間。


 この風変わりな設定もあってか、これまでレストランが舞台となる作品の多くがプロフェッショナルでストイックな料理人の姿を映し出していたのに対し、本作はオーナーに負けず劣らず個性豊かな従業員たちによって繰り広げられる「ご苦楽」コメディテイストに仕上がっている。


 おふざけが過ぎ、視聴者としては少々中だるみしてしまいがちになるのが玉に瑕だが、多種多様なお客様と個性的なスタッフで成り立つ「レストラン」という場で生まれる人間ドラマがリアルに描かれる。またそこで働く料理人、ソムリエ、給仕係など全てのクルーが呼吸を合わせてお客様の口に料理を届けるチーム戦のドタバタ劇もおおっぴらげにしているため、この作品で取り上げられるテーマは飲食業や接客業の中での話に留まらず、ビジネスやチームワークの本筋を説いているとも言える。


 第2話では「真の自由とは?」、第6話では「真のホスピタリティとは?」が問われる内容となっており、思いのほか毎回オーナー仮名子がなかなか本質を突いたことを言っており人生の教訓めいた発言が飛び出したりする。


 オープン当初、閑古鳥が鳴いており使える食材にもどんどん制限がかかるのを嘆くシェフ小澤(段田安則)のエピソードから、「制限の中での自由こそ尊い」という真理が炙り出される。校則があるからこそその範囲内でのオシャレや制服の着こなしを楽しめた学生時代、予算に制限があった貧乏旅行の方が思い出深かったり、時間的にも金銭的にも制限されていた若かりし頃の恋愛の方がなぜかキラキラ尊く輝いていたように映ったり……「制限」は何も不自由を強いるものでも、堅苦しいものでもなく、今手にしているリソースの可能性を最大限引き出すための創意工夫のきっかけを与えてくれたりする。それはきっとビジネスの世界においても言えることだろう。


 また前回の放送では、お客様の要望にやみくもに「寄り添い」すぎてサービスの限度を超えるとお店が壊れてしまう、という「ホスピタリティ」の真髄が描かれていた。これも「制限」の話と通ずる部分がある。「郷に入っては郷に従え」ではないが、その場その場でTPOに合わせたふさわしい振る舞いというものが存在し、それが礼儀作法、マナーであったりする訳だ。背筋がシャンと伸びるような、客側も試されているかのような少しの緊張感や、きちんとしたテーブルマナーに則って食事をする経験、“非日常”空間までもを、ある一定水準以上のレストランという場は提供しているのである。


 それをお客様の要望というよりはわがままに全てを寄せていては、日常と変わらない空間しか生み出せなくなってしまう。


 高級フレンチにしろ高級鮨屋にしろ、「目配り、気配り、心配り」の凝縮で、味はもちろんのこと給仕のタイミング、ドリンクペアリング、お店の空間、他のお客様も含めた全体の空気感など全ての要素が詰まった“総合芸術”としてのアウトプットである。


 その“総合芸術”を完成させるのは何もお料理とドリンクのマリアージュだけではない。提供者と受け手側である客、また料理人だけでなく給仕人、ソムリエ、同じカウンター上、隣り合ったテーブルに着いた者、カウンター越しに見る包丁さばきであったり、テーブル間で立つフォークとナイフの音、美しい食器の数々に店内に流れる音楽まで全てが料理に含まれる大切で外せない要素となり得るのだ。


 さらに言えば仮名子も言っていた通り、同じお店に来店する客であっても、当然のことながら来店動機や希望する店での過ごし方は実に十人十色である。上司の愚痴をぶちまけたい者、ひたすらにお酒と美食を楽しみたい人、故人を偲んで食事をしたいなど。そんな様々な人々が同じ空間に一堂に会するレストランという場での、“最適解”とは何なのか。


 第6話で「お店としての在り方」を見直す契機を得たスタッフたち。この個性の強いスタッフがさらにどんな風に成長していくのか。そして引き続きどんなお客様と出会い時間を共有し、その人生の瞬間に彩りを添えていくのか。


 自身のこだわりが詰まった飲食店を構え、そこに親しい友人を招いて会食を楽しむというのは一部の成功者のみに許された特権だと言っても過言ではないと思うが、仮名子の興味深い点は今まで一度も彼女自身がこの店に招待した客がおらず、いつも1人で美食を嗜んでいるところだ。


 今後、彼女があのお店で従業員以外の誰かと向き合って食事することがあるのかも、気になるポイントだ。(文=楳田 佳香)


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