杏、ドラマ復帰作『偽装不倫』でアラサー女性を熱演! コメディで生かされる人間くささ

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2019年08月21日 06:31  リアルサウンド

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杏『偽装不倫』(c)日本テレビ

 「水10」(日本テレビ系)に放送されているドラマ『偽装不倫』は、出産・子育てのために2016年から女優業を休んでいた杏のドラマ復帰作である。


 主演を務めた連続テレビ小説『ごちそうさん』(NHK総合)で共演した東出昌大と2015年元日に結婚し、いつの間にか三児の母となった杏だが、『偽装不倫』で演じる濱鐘子は、31歳未婚の派遣社員。しかも、彼女は3年間続けた婚活がうまくいかずに疲弊しており、そんな旅先の飛行機で知り合った帰国子女で年下のイケメン・カメラマンの伴野丈(宮沢氷魚)と、ふとした行き違いで人妻だと言ってしまったことから(偽装)不倫の関係になってしまう。


 実際の杏は三児の母で、アラサー独身の鐘子とは置かれている状況は真逆である。しかし、ドラマを見ている時はそういう齟齬をまったく感じさせず、ちゃんと鐘子になりきっており、むしろ水を得た魚のように生き生きと演じている。


【写真】杏の相手役演じる24歳の宮沢氷魚


 『偽装不倫』は楽しいドタバタが続くコメディテイストの恋愛ドラマなのだが、物語の節々で、鐘子が婚活を続ける中でいかに疲弊していたかを、か細いモノローグで回想される。この時に感じる鐘子の孤独感こそが、本作の核だと思うのだが、そのことを杏はよく理解している。


 普段の鐘子は、表向きは明るく楽しそうで、家族の前では、婚活のことも自虐的に笑いのネタにできる余裕がある。しかし、丈に優しい言葉をかけられた時に、はじめて自分が傷ついていたのだと気づき、ダムが決壊したかのように辛い記憶が言葉と共に溢れ出す。


 鐘子のような仕事も恋愛も不安定な立場にいるアラサー女性の姿を、真逆の環境にいても、ちゃんと演じられるのは、杏の核の部分に鐘子を理解できる素養がしっかりとあるからなのだろう。


 杏は女優だけではなくファッションモデルとしても活動している。15歳の時に「non-no」(集英社)の専属モデルとなった杏は2005年からは海外のプレタポルテコレクションにも出演。2006年には「News Week」の「世界が尊敬する日本人100人」にも選ばれた。


 また、当初は伏せられていたが、杏は俳優・渡辺謙の娘としても知られている二世俳優である。実に華々しいキャリアの持ち主だが、女優としての杏は匿名性が高く、良い意味で色がない。


 『ごちそうさん』で国民的人気女優となった後は、同作のヒロイン・め以子のような、勝ち気で明るいけどどこか抜けている女性というイメージが定着し、『偽装不倫』と同じ「水10」で放送された池井戸潤の小説をドラマ化した『花咲舞が黙ってない』はそのイメージが引き継がれていたが、その一方で、『デート〜恋とはどんなものかしら〜』(フジテレビ系)では、内閣府の研究所で働く公務員、薮下依子のような、頭がいいが人の気持ちがわからない機械のような女性というハチャメチャなキャラクターを演じている。


 他にも『妖怪人間ベム』(日本テレビ系)に登場する魔女のような風貌をした妖怪人間のベラや、『泣かないと決めた日』(フジテレビ系)のヒロインを陥れようとする帰国子女の令嬢など、様々な役を演じており、実は作品ごとに演じる役を切り替えている。


 そのため、綾瀬はるかや石原さとみといった年齢が近い女優と較べると「杏だからコレ!」というイメージはあるようでない。日本のテレビドラマは俳優先行で作られることが多いため、俳優のパブリックイメージに寄せた役を当てられることが多い。例えば、杏と同じモデル出身の米倉涼子や菜々緒ならばモデル体型でスラッとしたスタイルの良さと勝ち気な顔立ちを活かした強い女性を演じることが多いのだが、そういった主演級の女優とくらべた時に杏の立ち位置は独特で、むしろ、役に自分を近づけるタイプだと言える。


 2016年に「ほぼ日刊イトイ新聞」での糸井重里との対談「杏さんが考えてきたこと。」で、杏はモデルという仕事について、カメラマンやスタイリストやヘアメイクと同じスタッフの一員で役割の一つで「みんなの中心にいる花」ではなく、服を魅力的に見せるための「生きたハンガー」だと語っている。


 同時に、モデルだからと言って、かわいいって言われたいという気持ちは、私の中には存在しないとも語っている。おそらく女優業に対しても同じことを考えているのだろう。自分が目立つことは二の次で、女優は作品の一部。杏の演技には、そんな職人気質を感じる。


 また、『偽装不倫』の鐘子が顕著だが、杏の表情はどこか不安げで常に居心地が悪そうに見える。どんな役を演じても、明るさの奥に暗い影が透けてみえるのだ。


 杏は読書家で歴史オタクとしても知られているが、おそらく本を読む人特有の物事を考え過ぎてしまう思慮深さが演技に出ているのだろう。


 だから明るいコメディを演じても、真面目で内省的な人がうっかり抱えこんでしまう不安がにじみ出ているのだが、この暗さがスパイスとなって作品に深みを与える。この不安げな表情ににじみ出る人間臭さこそが、コメディにおける杏の最大の魅力なのだ。


(成馬零一)


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