駿河太郎×尾上寛之の先輩芸人姿がアツい! 『べしゃり暮らし』に盛り込まれた“お笑いのセオリー”

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2019年08月24日 08:01  リアルサウンド

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(c)テレビ朝日

 テレビ朝日土曜ナイトドラマ枠で放送されている『べしゃり暮らし』は、『ろくでなしBLUES』や『ROOKIES』で知られる森田まさのりの同名漫画をドラマ化したものである。


参考:劇団ひとりが語る、『べしゃり暮らし』演出で活かされたキャリア 「お笑いって全部詰まってる」


 物語の中心となる高校生漫才コンビを演じているのが間宮祥太朗と渡辺大知だ。間宮演じる上妻圭右は、学校一の人気者で学園の爆笑王だった。ある日、彼がお昼の校内放送でしゃべっていたところに転校生の辻本潤(渡辺大知)が迷い込んでくる。辻本が関西弁というだけで「べしゃりいける?」と校内放送のスタジオに連れ込むと、辻本は絶妙なべしゃりを繰り広げる。実は辻本はかつてプロの芸人として活動していたのだ。やがてふたりは学園内の漫才コンテストに向けて漫才コンビ・きそばATを組むこととなる。


 実は最初の段階では、主人公である上妻の行動が鼻についた。高校の中だけ、勢いだけで同級生を笑わせている感じがしたからだ。しかし、その不満はすぐに解ける。


 後にきそばATは、プロアマ問わず参加できる漫才コンテストにエントリーするが、その優勝候補とも言われるプロの芸人・デジタルきんぎょの金本(駿河太郎)は、上妻のそんな「井の中の蛙」な様子を見て、「今までは、まわりが全員『アイツはおもろいやつや』って刷り込まれてて、何言うても爆笑してもらえた。ほんまはさぶいこと言うててもな」「今まで自分がどんだけぬるい空気の中にいたか、思い知ることになるやろな」と上妻の相方である辻本にだけ語るシーンがあるのだ。


 また、その後にコンテストの予選できそばATが一般の客を前にネタをするシーンがあるが、そのひとりよがりなネタがまったく受けないというシーンのリアリティは、いたたまれないほどであった。間宮祥太朗の演技は、それほど真に迫っていたし、その姿は残酷と言えるほどでもあった。


 聞けば原作者の森田まさのりは、松本人志の大ファンというので納得した。松本のお笑いを見てきた世代は、クラスの人気者は楽しい人であって面白いのとは違う、というセオリーが身に染みている。この作品には、こうした今まで言い伝えられてきたお笑いのセオリーが詰まっていて、そこを表現するために、間宮の演技が鼻についたのだった。


 松本世代の逸話は、ほかにも盛り込まれている。前出のデジタルきんぎょの金本と藤川(尾上寛之)は、昔は仲が良かったが、今では口も聞かない。これも、松本世代に言い伝えられた「コンビは仲が悪いもの」、というセオリーが投影されたものだと思われる。


 しかし、ドラマの中では、若い上妻と辻本と出会ううちに、金本と藤川も変わってくる。今までは楽屋も別で、打ち合わせをするにも、構成作家を伝書鳩のように使って会話していたふたりが、舞台前、どちらからともなくネタ合わせを始めるのだが、そのことでこれまでとは違った良いネタが実現しているというシーンは、胸が熱くなるものがあった。彼らが目を合わせないのも良い。長い年月、会話をしていないもの同士の照れのような空気感が伝わってきた。


 このデジタルきんぎょを演じているのが、駿河太郎と尾上寛之なのだが、2人の演技が良い。ドラマの中では、この2人が、上妻と辻本を上手に芸人の道へといざなっているし、そして逆に、若い2人に良い影響を受けて変わっていく姿が描かれている。演技という面で見ても、先輩の駿河と尾上が、若い間宮や渡辺を引っ張っているようにも見える。


 演出は劇団ひとり。彼は映画『晴天の霹靂』でも、監督として大泉洋演じる、うだつのあがらない手品師の内面の変化と、手品という芸の変化を重ね合わせて描いて感動を呼んでいたが、今回はどうなるのだろうか。


 4話の時点では、きそばATのアマチュア時代を描いていたが、今後はプロになり荒波に飲まれる展開になるのだろう。その経験を経て、学園の爆笑王であった上妻のネタの演技が、どれくらい変化し、成長していくのかがひとつの見どころのような気もしている。(西森路代)


※辻本潤の「辻」は二点しんにょうが正式表記。


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