s**t kingzが語る、令和版「スーダラ節」を踊る意義 「いかにもダンサーっぽいことはしたくない」

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2019年08月24日 12:11  リアルサウンド

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リアルサウンド

s**t kingz(写真=池村隆司)

“体は人間で頭は魚”のサラリーマンを主人公にしたアニメ『ビジネスフィッシュ』(TOKYO MX・BS11)とs**t kingz(シットキングス)のコラボレーションが話題を集めている。


 昭和36年の大ヒット曲にして、植木等を昭和のスターに押し上げた「スーダラ節」(ハナ肇とクレージーキャッツ)をプロデューサーのXLII(シリー)、ラッパーのDOTAMAがサンプリング。この“令和バージョン”の「スーダラ節」(「スーダラ節feat.BUSINESS FISH」)のMVにs**t kingzが出演し、令和のサラリーマンとしてキレキレのダンスを披露しているのだ。またアニメ『ビジネスフィッシュ』の主人公が踊りまくるCGバージョンのMVにもモーションキャプチャーを利用してs**t kingzのメンバーが参加。昭和と令和のエンターテインメントをつなぐ、意義深いコラボとなっている。


 リアルサウンドでは、s**t kingzのメンバー4人にインタビュー。令和バージョン「スーダラ節」MVの制作を軸にしながら、10周年を経た現在のモードについても語ってもらった。(森朋之)


・「こういう動きは初めてだな」と思った(NOPPO)


ーーアニメ『ビジネスフィッシュ』とs**t kingzのコラボレーションによる、令和バージョン「スーダラ節」のMVが話題を集めています。このMVのオファーがあったときは、どう思いましたか?


shoji:最初に話を聞いたときは、すぐにイメージが浮かばなかったんですよ。「令和バージョンの『スーダラ節』で魚が踊るので、カッコいいダンスをお願いします」と言われて、「何を言ってるんだろう?」って(笑)。


kazuki:そうだね(笑)。


shoji:でも、『ビジネスフィッシュ』のビジュアルだったり、キャラクターを知るにつれて、プロジェクト自体がすごくおもしろいなと思って。ここにカッコいいダンスがあったらいいだろうなということも理解できたし、ぜひやらせてください、と。


ーーまずは楽曲が解禁されると同時に、CGによるMVが公開されました。この映像はモーションキャプチャーを使って制作されたとか。


shoji:はい。シッキンにとって、初モーションキャプチャーだったんですよ。


kazuki:ダンサーの方でモーションキャプチャーをやったことがある方もいらっしゃると思いますけど、僕らはいままで経験がなくて。実際に撮影する前は、「動きに制限があるんじゃないか」「実際の人間の動きほどは細かく表現できないんじゃないか」と勝手に思ってたんです。でも、やってみるとぜんぜんそんなことなくて、自分たちの踊りがそのままCGに反映されて。すごくおもしろかったですね。


shoji:頭が魚だから、ちょっとの動きのズレが大きく出るんですよ。それもぜんぶリアルタイムで確認しながら撮影できて。


NOPPO:画面を見ながら踊って、CGの動きをチェックして。ゲームをやってるような感覚でしたね。


Oguri:オフィスとか居酒屋の映像もすでにできていたから、そのなかでCGのキャラクターが踊るのがめちゃくちゃおもしろくて。背景のビジュアルもすごく凝ってるんですよ。ちょっとVRに近い感覚もありましたね。


kazuki:キャラクターが暖簾をくぐるところとか、リアルだよね(笑)。


Oguri:そうそう。しかも360度で撮っていて。


Shoji:どのアングルからも見られるんですよ。あれはすごくおもしろいし、今後、いろんなことができそうだなと思いました。たとえば360度、好きな角度からダンスを見られる映像作品とか。


Oguri:いろいろ遊べそうですよね。


ーー実写バージョンのMVも素晴らしかったです。ダンスのクオリティの高さとコミカルな動きの組み合わせがレアだなと。


kazuki:自分たちにとってはけっこう得意なことなんですよね。振り付け自体はCGとほとんど同じで、s**t kingz っぽい感じになってるし、実写のほうは自分たちの顔で踊ってるので(笑)、いつも通りにやれて。


Oguri:曲もカッコいいですからね。音についても事前にみんなで話し合ったんですよ。いかにもダンスミュージックという雰囲気ではなくて、ちょっとダンスホールっぽいところもあって。


NOPPO:確かに。そこは新鮮だったかも。


kazuki:こういうストレートな日本語のラップの曲で踊るのも初めてでしたね。歌詞がガツンと響く曲だし、踊り甲斐がありました。


shoji:映像にもちょうどいい“昭和感”があるんですよ。制作を担当してくれた「ピンクじゃなくても」の監督が色味やアングルに昭和っぽい感じを入れてくれて。ダンスは今のダンスなんだけど、撮影方法や映像には懐かしさが感じられるというか。そのあたりもぜひ見てほしいですね。


ーー昭和を想起させる映像は、植木等さんが歌った「スーダラ節」に対するリスペクトの表れなんでしょうね。


shoji:そうですね。撮影前に植木さんが「スーダラ節」を歌った映画(『ニッポン無責任時代』)の映像も監督に見せてもらったんですけど、その雰囲気も入っていて。いきなり画面が一色に染まったり、文字がドーンと大きく出てくるところとか。当時の植木等さん、最高にカッコいいんですよ。


kazuki:オシャレだよね。僕も今回、初めて「スーダラ節」を歌っている映像を見せてもらったんですが、「この感じでやりたい」と思いましたから。


NOPPO:植木さんが歌っている場面を見て、「こういう動きは初めてだな」と思いました。いい意味でおもしろくて、頭に残る動き方なんですよね。サラリーマンの役だから衣装はスーツなんだけど、どこかカワイイところもあって(笑)。


Oguri:宴会のシーンのなかで、いきなりミュージカルみたいに歌って踊り出すのもいいなって。最近のミュージカル映画のような(演出的な)飛躍ぶりがすごいなと。こういう映画が昭和の日本にあったことを知らなかったんですよね。


kazuki:うん。海外のミュージカル映画の名場面、たとえば「Singin’in the Rain」の映像を目にする機会はあるけど、日本の作品はほとんど知らなかったので。まだまだありそうですよね。


ーー植木等さんもそうですが、“おもしろくてカッコいい”パフォーマンスが出来るのもs**t kingz の魅力だと思います。ただカッコいいだけではなく、何か違う要素を入れたいという気持ちもありますか?


shoji:うん、ありますね。


kazuki:世間のみなさんが想像するストリートダンサーみたいなことをやりたくないというか(笑)、ちょっと抵抗があるんですよね。それが「おもしろいことをやりたい」という気持ちにつながってるのかなと。


NOPPO:普通には踊りたくないところはあるかも。ヒネくれてるんでしょうね(笑)。


kazuki:今回の『ビジネスフィッシュ』とのコラボの場合、キャラクターもシュールだし、実写版のMVでカッコつけてダンスしても合わないですから(笑)。


ーーさらにアニメではすでにオンエアが終わってしまいましたが、s**t kingzが登場キャラクターとして踊っているTikTok風のエンディング映像も話題になりましたね。


kazuki:「スーダラ節」は全員“タイ”ですけど、こっちの曲はいろんなキャラクターに扮してるんですよ。shojiくんは女性役です(笑)。 


shoji:はい(笑)。そのほかにイカとエビもいるんですけど、アニメでは大人しいキャラが激しく踊ってたり、ギャップもかなりあって。


NOPPO:撮影現場は爆笑でした(笑)。


Oguri:(笑)「スーダラ節」のCG版のMVもそうでしたけど、誰がどのキャラクターになって踊ってるのかというクイズ企画をTwitterでやったのですが、これがけっこう当たってるんですよ。それぞれに踊りのクセがあるので、わかっちゃうみたいで。


・自分たちが「おもしろい」と思うことをやることが大事(Oguri)


ーー植木等さんが演じたサラリーマン役には、高度経済成長期のなか、“もっと気楽にやりましょうよ”というメッセージが含まれていたと思います。“踊りたい”という純粋な気持ちを持ったまま活動を続けているs**t kingz のスタンスとも近いような気がするのですが。


kazuki:遊びからはじまってますからね。誰に何を言われたわけではなく、「一緒に踊りたいね」ってやりはじめて、勝手にクラブでショーをやって、気づいたら、それが仕事になっていて。いまも「仕事に行かなきゃ」という感じではないんですよ。


Oguri:確かに「働いてる」という感覚はないですね。


NOPPO:リハでもワーキャー言いながらやってますから(笑)。


kazuki:普通の仕事場だったら怒られるよ(笑)。そう考えると、遊びの要素はかなり多いですね。


shoji:うん。何かを作り上げるときは「どうしよう?」と考え込んだり、頭を抱えることも多いんだけど、「連休が終わって、明日から仕事か……」みたいな感じではないので。生活のためにやっているわけではなくて、やっぱり踊ることの喜びが先にあるんですよね。ベースに「ダンスが楽しい」という思いがあって、それがいろんな枠組みのなかでビジネスにつながっているというか……。


kazuki:そうだね。確かにいまは仕事としてやってる部分もあるけど、そこに遊びを取り入れることも多くて。きっぱりと分けられないんですよ。


shoji:クラブでショーをやっててもまったくお金にならないけど、その動画を観てくれた人から「すごくカッコよかったので、お仕事をお願いしたいです」と連絡をもらうこともあって。最初からビジネスにつなげようとしているわけではなくて、むしろ遊びが仕事につながる世界なんですよ。


NOPPO:さっき「いかにもダンサーっぽいことはしたくない」という話をしましたけど、そのことがいろんな方から声を掛けてもらえるきっかけにもなっていて。


ーー遊びから生まれる発想が、新しい活動に結びつくわけですね。


Oguri:ほとんどがそうですね。自分たちが「おもしろい」と思うことをやることが大事というか。


shoji:ガチガチに作り込んでも、観てる人にとっては意外とおもしろくないんですよ(笑)。みんなでおもしろがりながら形にしたほうが、お客さんにも喜んでもらえるんじゃないかなって。


ーー最後に今後の活動について聞かせてください。昨年は結成10周年を記念した公演『The Library』を開催。10周年を経て、現在はどんなビジョンを掲げていますか?


shoji:10周年のタイミングは、「シッキンって何だろう?」と考えるいい機会になったんですよね。そこで考えたことを頼りに、「次はどんなことにチャレンジしようか?」とみんなで話しているところなんですが、シッキンはもともと、計画性では成り立たないんですよ。突発的な出会いだったり、自分たちの思い付きで方向性が大きく変わることも多いし、いろいろな人やアイデアとの掛け算で、おもしろいものを生み出していけたらなと。今年出した絵本(“絵本×ダンス”をテーマにした『あの扉、気になるけど』)も、俺とOguriがやった“朗読とダンス”の舞台(『My friend Jekyll』)も、自分たちにとっては新しい挑戦で。これからもそういう活動を続けていきたいですね。


ーー12月には東京、大阪で『メリーオドリマX’mas』が開催されます。テーマは「シッキン史上最も“踊りまくり”のダンスライブ」だとか。


shoji:2017年にビルボードで生バンドと一緒にライブ(『s**t kingz 10th anniversary show in Billboard Live』)をやったんですけど、12月のクリスマスライブは初めての”ダンスライブ”なんです。


kazuki:10年のキャリアのなかで、踊ってないのに、踊っているように見える技を身に付けてきて。たとえば去年の無言芝居(『The Library』)も、アクティング(演技)がダンスっぽく見えることもあったと思っているんですよ。それを踏まえて、今回のクリスマスライブでは、「自分たちが“踊りまくる”というショーをやったら、どうなるか」を汲み取っていただけたらなと。これまでに培ってきたものも使いながら、シンプルにダンスを見てもらいたいんですよね。


ーー「シッキンが本気で踊るとこうなる」というライブなんですね。


shoji:そうですね。ダンスの量がすごくて、「ちょっと休んだら?」って心配になるかもしれないです(笑)。


NOPPO:まだ具体的なことは言えないけど、ライブのなかで新しいことにもチャレンジしたいと思っているんですよ。


ーーリハのなかで、また新しいアイデアも生まれそうですね。


Oguri:そうですね。普段のリハのときも、何も考えずにスタジオに行って、4人で「さあ、どうする?」から始めることもあって。一人だったら「どうしよう……」と頭を抱えるかもしれないけど、「4人いるから大丈夫」と全員が思っているんですよね。さらに最近はいろんな方がお話をくれて、「ここにダンスを入れてほしいんですけど、どう料理しますか?」と投げてもらえることが増えて。この先も楽しみしかないですね。(取材・文=森朋之)


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