『ロケットマン』監督が明かす、『ボヘミアン・ラプソディ』との違いとエルトン・ジョンへの共感

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2019年08月27日 12:02  リアルサウンド

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デクスター・フレッチャー監督

 『キングスマン』シリーズのタロン・エジャトンが主演を務めた映画『ロケットマン』が8月23日より劇場公開されている。本作は、世界的ミュージシャンのエルトン・ジョンの半生を、数々の名曲と共に描き出したミュージカル・エンターテインメントだ。


参考:タロン・エジャトンが語る、『ロケットマン』エルトン・ジョンの役作り 「エネルギーを意識した」


 監督を務めたのは、製作のマシュー・ヴォーンと主演のタロン・エジャトンとは『イーグル・ジャンプ』でもタッグを組んだ、子役出身のイギリス人監督デクスター・フレッチャーだ。撮影途中で降板したブライアン・シンガーに代わり、世界中で大ヒットを記録した『ボヘミアン・ラプソディ』の最終監督も務めた彼に、『ボヘミアン・ラプソディ』と本作との違いや、エルトン・ジョンとの共感性などについて語ってもらった。


ーー今回の作品はあなたが監督を務めた『イーグル・ジャンプ』(2016年)でもタッグを組んだマシュー・ヴォーンから話をもらったそうですね。


デクスター・フレッチャー(以下、フレッチャー):そうなんだ。同じく『イーグル・ジャンプ』で組んだタロン(・エジャトン)主演で、エルトン・ジョンが題材のR指定のミュージカルをやろうとマシューに言われたんだけど、もうその時点でOKというぐらい乗り気だったよ。


ーーそもそもの題材と座組みに惹かれたわけですね。


フレッチャー:うん。それに、最初に聞いたこの作品のキャッチコピーにグッときたんだ。「Based on truth」ではなく、「Based on true fantasy」。「実話に基づくで」はなくて、「実在のファンタジーに基づく」というキャッチコピーにね。想像力を働かせながら、いろんな意味で自由にやることができるというところにすごく惹かれたんだ。アーティストの伝記ものって、ある種の化学式のようなものがあって、どうしても一辺倒になりがちだからね。


ーー撮影途中でブライアン・シンガー監督が降板し、あなたが最終監督を務めた『ボヘミアン・ラプソディ』(2018年)も音楽の伝記ものでしたよね。


フレッチャー:『ボヘミアン・ラプソディ』はいい例だよ。フレディ・マーキュリーは既に亡くなってしまっている。亡くなってしまった偉大なスターは、神格化されがちと言うか、本人が「いや、実はそうじゃなかったんだ」って言えないところがある。そういった意味では、どうしても美化されてしまうところがある。だけど、エルトン・ジョンは現役の存命しているアーティスト。しかもエルトンは、自分のダークな時期や暗い部分に関してもすごくオープンなんだ。そういう部分を包み隠さず言う人だから、逆に「もっとクレイジーだった」と言ってくれるんだよね。本当に何の制約もなく映画を作れるというのは、僕にとってすごく魅力的だったよ。


ーーパブリックイメージとして、エルトン・ジョンはすごくこだわりのある人物で、製作にも名を連ねたこの作品に関しても細かく指示をしているんだと思っていました。実際はそうではなかったわけですね。


フレッチャー:うん、まったくそうではなかった。なんせエルトンは50年にわたって第一線で活躍してきた人物で、グラミー賞を5度受賞したり、7枚連続でビルボード1位を獲得するアルバムを出したりと、ほとんど誰も経験してこなかったようなことを成し遂げてきたアーティストだ。そして世界中のポップスターの誰よりもお金を儲けて、誰よりも浪費した。本当にありとあらゆる人生の荒波を経験しているからこそ、僕たちにも自由を与えてくれる余裕があったんだと思う。常に人の目に晒されながら成長してきた彼だからこそという部分が大きかったんじゃないかな。


ーーエルトン・ジョン自身の人生の自由さがこの作品にも表れているということですね。


フレッチャー:誰にだって、不機嫌になってしまったりイライラしてしまったり、気持ちの浮き沈みがあるもの。そういう時に、やってはいけないことに手を出してしまうことも少なからずあると思う。普通は誰も見ていないところでやるけれども、エルトンの場合はそれが表に出てしまうだけで、その点では僕たちと何も変わらない一人の人間なんだ。僕はそういうことをこの映画で伝えたかったし、エルトン自身もそうだった。暗い部分や、人にあまり見せたくない部分を含めて描くことで、一辺倒で表面的な映画にならなくてすんだところもあるかもしれない。僕自身もそんな映画にするつもりは毛頭なかったし、彼自身もそういう映画にはしてほしくないとハッキリ言っていたからね。だって、そんな映画は開始10分で飽きてしまうだろ?(笑)。 “こだわり”と言うのであれば、エルトンにとっても僕自身にとっても、ひとつの側面だけではなくて、悪い部分も良い部分も含めて多層的に全てを表現することだったね。


ーーあなたの映画界でのキャリアは、子役として『ダウンタウン物語』(1976年)に出演したところからスタートします。その後、父と息子の葛藤を描いた人間ドラマ『ワイルド・ビル』(2011年)で監督デビューを果たし、2作目の『サンシャイン/歌声が響く街』(2013年)ではミュージカル、3作目の『イーグル・ジャンプ』では伝記ものに挑戦しました。『ボヘミアン・ラプソディ』も含めて、キャリアの全てがこの『ロケットマン』に通じているようですね。


フレッチャー:本当にその通りだよ。1作目の人間ドラマ、2作目のミュージカル、3作目の伝記ものという3つの要素が全部重なり合ったという意味で、全てはこの『ロケットマン』のために道が築かれてきたんじゃないかという運命的なものを感じるよね。それに、実は僕自身、エルトンと共通する部分がすごくあるんだ。子役としてデビューした僕は若い年齢で大きな富や名声を全て手に入れた。だけど、エルトン同様に僕もその全てをドラッグに使い込んでしまった。自分で自分を破滅に追い込んでしまった経験が僕にもあったんだ。だから、エルトンが辿ってきた道のりが、まるで自分が辿ってきたかのように、しみじみと共感できるわけなんだ。最近の若い人たちは、InstagramやTwitterの「いいね」をもらうことが名声だと思っているようだけど、多くの人たちは名声にはどれだけの代償や犠牲が伴うのかを何もわかっていない。この作品のテーマ自体がそこにあるわけではないけれど、そういうことを含めて考えさせらるような作品になっていれば嬉しいね。(取材・文・写真=宮川翔)


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