『凪のお暇』高橋一生がついに素直な気持ちを明かす それぞれの“WISH”と向き合うということ

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2019年08月31日 12:31  リアルサウンド

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『凪のお暇』(c)TBS

 「“でも“って言って、やらない理由を並べて、新しいことをしないほうがラクだけど。ずっとそうしてきたけど……それじゃ、見られない景色があると思うから」


 金曜ドラマ『凪のお暇』(TBS系)第7話。すべての登場人物が抱えるモヤモヤをクリアにしていくヒントが見つかった。それは、自分の“やりたい(WISH)を受け止める“こと。


参考:高橋一生と中村倫也が繰り出す、異なるアプローチ 『凪のお暇』で生まれた相乗効果


 大人になると、これまでの経験から実現するのが難しそうなWISHをそもそも望まなくなったり、世間体や周りの視線を気にしてやりたいと望んでいることすら隠してしまったりしてしまいがちだ。「でも……」「だって……」「私なんかが……」「今さら……」などと、そうしない理由を並べてWISHを抑え込む。そのほうが失敗する怖さからは逃げられるが、そのうち何が自分のWISHか見えなくなってしまう。


 凪(黒木華)も、慎二(高橋一生)も、ゴン(中村倫也)も、龍子(市川実日子)も、振り返れば自分のWISHではなく、親や職場、恋人など、いつも目の前の誰かのWISHに振り回されてきた。何がしたいかではなく、何をしなければならないか。人生を生きる指標が、自分のWISHを叶えることではなく、与えられたミッションをこなしていくことにすり替わってしまう。きっとその姿は多くの視聴者にとっても、身に覚えのあること。だからこそ、このドラマが多くの共感を呼ぶのかもしれない。


 自分のWISHがひとつも出てこなくなった凪。自分のWISHには素直になれなくなった慎二。相手のWISHを叶えることが自分のWISHだと思っていたゴン。自分のWISHを叶える武器があっても使いこなせない龍子。登場人物1人ひとりが不器用に見えるのは、視聴者の立場からはそれぞれのWISHが明確にわかるのに、本人たちが目をそらしているように見えたから。


 きっと、これは現実でも同じだ。周りから見たら「本当は、これがやりたいんでしょ?」と思われているのに、本人だけが「でも」と二の足を踏んだり、「違う」と頑なになったりしているのかもしれない。スナック・バブルのママ(武田真治)のように、以前とは変わりつつある凪と慎二の様子を見て、「本当は、やり直したいんでしょ?」とアシストパスを出してくれる人もいる。


 しかし、そのパスはまだ時期尚早だったようで大失敗。素直になれない慎二の想いを知らない凪は「300%ない!」と首を振る。それを聞いた慎二も「800%ないんですけど!」と、売り言葉に買い言葉で、さらに自分のWISHから遠のく態度に出てしまう。


 さらに、時をほぼ同じくして慎二は兄・慎一(シソンヌ 長谷川忍)と再会。相変わらず仮面で生きていると指摘され、大きく動揺してしまう。オフィスラブの相手・円(唐田えりか)はピンチの場面を助けてもらったが、それでも「ありがとう」ではなく「申し訳ない」と言っていたのは、きっと本心の距離感。


 そして、ようやく自覚するのだ。自分が本当顔をさらけ出せるのは、凪しかいなかったこと。凪といるときこそ空気を吸うことができていたのだと。その凪をこのまま失ったら、自分はどうやって息をして、生きていけばいいのか。その不安が慎二を、第1話の凪と同じように過呼吸へと追い込むのだ。


 「多くの人のお暇となる場所を作りたい」。龍子と共にコインランドリー経営をすることが、自分のWISHだと自覚して動き出した凪。龍子も同じ思いで、自主的に事業計画書を作成する。そして、凪が望むことをしてあげるのではなく、凪の幸せをそばで応援することが自分のWISHだと気づき夢のイメージ図を描き上げるゴン。それぞれが、自分のWISHにまっすぐ向き合っていく中、慎二もようやく凪に素直な思いを吐露する。


 「大……好きだった。幸せにしてやりたかった。幸せにしてやりたかった。できなかった……ごめんな。ごめん……」。その感情もろ出しのぐしゃぐしゃな姿は、いつものスマートな慎二とは真逆だ。しかし、それが慎二の本当の姿。のたうち回って、奇声を発して、雨に濡れ、涙をぬぐい、そうして凪の元に何度も通ってきた姿を視聴者は知っている。


 「なんだこれ。バカか、俺」と自分の言動に混乱する慎二。その素直な姿を凪に見せることが、慎二にとってどれほど勇気のいることだったか。衝動的に復縁本を捨てたときもあったが、それでも凪が大事にしていたぬか床、そして豆苗はそのまま取ってあった。どちらも手をかけなければ、すぐにカビて腐ってしまうものたち。誰に言われなくても行動できること、そこに本当のWISHがある。


 WISHと向き合うのは勇気がいることだ。先述したように、大人になるほど傷つくリスクばかりが目につくからだ。そんなとき、コインランドリー経営を巡って、緑(三田佳子)がオーナーに言った言葉を思い出してみてはいかがだろうか。「夢のひとつも見せてあげられないなんて」と。これは人生の先輩から、若い世代にできることとして出た言葉だが、今の自分から、未来の自分にできることにも通じる。


 WISHを前に足がすくんだら、“今の私が、未来の私に夢のひとつも見せてあげられないなんて“と、勇気を奮い立たせてみようではないか。徒歩は徒歩、自転車は自転車、車は車でしか見られない景色があるように。きっと、その一歩を踏んだからこそ見られる景色が広がっていく。


 そんな気づきをくれるドラマも、いよいよクライマックスに向かって加速していく。それぞれのWISHがどのような形で叶えられていくのか。それとも、さらなるWISHが見つかるのか。ますます目が離せない。


(文=佐藤結衣)


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