尾崎由香、結城萌子……ミュージシャンとのコラボで引き出される新たなカラー 最新作より考察

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2019年09月03日 13:51  リアルサウンド

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尾崎由香『MIXED』(通常盤)

 ロック、ポップス、クラブミュージック、ボカロP、多様なフィールドから集められた作家が一堂に会し、一人の声優の音楽面を支える。いま声優音楽において、そういった豪華なプロデュースも珍しくなくなってきている。


(関連:【写真】結城萌子、『innocent moon』インタビュー


●尾崎由香『MIXED』
 『けものフレンズ』を通じたどうぶつビスケッツ×PPPを含めた多岐に渡る活動で一気にブレイクを果たした尾崎由香の1stアルバム『MIXED』もまた豪華な面々が名を連ねている。後藤康二(ck510)、西寺郷太(NONA REEVES)、ミト(クラムボン)……様々なジャンルから選ばれたプロデュース陣を見てみると、今作は彼女の新たな側面を引き出すための作品であることが伺える。


 彼女と音楽の距離感を見てみると、ソロデビュー以降の彼女は「以前は聴く機会のあまり無かったジャンルの曲も、喰わず嫌いにならないようにミックスして聴くようにしてきた」(参照:https://spice.eplus.jp/articles/247947)と語るように、できるだけフラットな立場とリスニングを心がけていたようだ。


 今作における多彩な作家陣と楽曲は、そうした彼女の意向が十二分に反映されていると思える。語弊を恐れずに言えば、「これぞ尾崎由香の音楽!」といえるカラーを見つけ出す最中にあるからこそ、これだけの多彩さがあるのだと言えよう。


 今作に招集された作家陣のなかでも注目すべきは、沖井礼二(TWEEDEES)とミト(クラムボン)の二人。その名は、アニソン好きや声優音楽好きなマニアならばよくご存知であろう。ミトが書き下ろした「(you gave me…)My Brave Story」は、イントロのギターリフ、重なっていくバンドアンサンブルとギターサウンドの厚み、どことなくクールに歌われる尾崎の歌声が重なっていく。まるでLiSAや小松未可子を思い出させてくれそうな、声優ソング/アニソンファンにも聴き馴染みあるド真ん中なロックナンバーである。


 沖井礼二が手がけた「僕のタイムマシン」では、(作詞は清浦夏実との共作)。竹達彩奈に提供した「Sinfonia! Sinfonia!!! 」や彼が所属していたCymbalsでもお馴染みのベルの音/キーボード/コーラスワークで彩られたキュートでパンクロック的な8ビートのグルーヴを展開。掛彼にしか生み出せない沖井節が炸裂した楽曲となっている。


 西寺郷太が提供した「恋のマメチシキ」では、西寺本人から「役を演じるように歌ってほしい」というディレクションを受け(参照:http://mikiki.tokyo.jp/articles/-/22433)、台詞を語るように、それでいてラップフロウをするように、間を縫うように歌ってみせている。


 今作のアルバムジャケットでは、尾崎が様々な服に埋もれている。つまるところ、彼女は様々な服装を着こなしてみせようと今作でトライしているわけだ。そんな今作のタイトルは『MIXED』と名付けられているが、この言葉の反意語はPureである。尾崎はインタビューで「いつまでもピュアというイメージではいられないと思っていたので、いい意味でこの曲によって、そのイメージを卒業できたらおもしろいなと思っています」と語っている。“おざぴゅあ”という愛称で親しまれている彼女は、その純真さが多くの人に受け入れられていることを認識しつつも、自身にある様々な要素を形にして、“MIXED”された姿も受け入れてほしいという願いを今作に込めているのではないだろうか。(参照:https://rankingbox.jp/article/71475)


 何よりも、今作における彼女のスタンスは、スタイルや楽曲に固執しないことに重きを置いている。もしもどこかのタイミングで、彼女にとってマッチする音楽を見つけ、より雄弁かつ堂々とできる音楽を作り出せたなら、どんな姿を見せるのだろうか? 想像は尽きない。今作はその想像の一助になるであろう。


●結城萌子『innocent moon』
 8月にEP『innocent moon』をリリースした結城萌子。彼女のことを初めて知る人もいるだろう。


 もう一つ、綿めぐみという名前に覚えがある人はどれくらいいるだろうか。実は彼女は2014年に歌手としてデビューしている。当時の彼女は、小袋成彬が主軸となったレーベル・Tokyo Recordingsから綿めぐみとして作品をリリースしていた。


 2017年頃から活動が途切れてしまったが、「アニメに関わる仕事がしたい」と言い続けてきた彼女に昨今ようやく脚光が当たっている。今年1月に公開された劇場アニメ『あした世界が終わるとしても』で本格的に声優デビューを果たした後も、ゲーム作品などに出演しているのだ。


 そんな彼女の声色に期待をかけるのは音楽畑の人物が多い。シンガーとしての再デビューともいえる今作では、川谷絵音(ゲスの極み乙女。、indigo la End、ジェニーハイ、ichikoro、独特な人、美的計画)が作詞作曲をすべて務め、Tom-H@ck、菅野よう子、ゲスの極み乙女。のメンバーであるちゃんMARI、そしてミト(クラムボン)が編曲を担当している。


 川谷の楽曲で特徴的なのは、平歌部分のメロディラインの起伏があまり大きくなく、一つの音符に対して複数個の言葉を詰め込むタイプの楽曲が多いことにあるだろう。今作においてみると「散々花嫁」でのAメロからサビへと一気に飛び込んでいく約1分間の展開や、「さよなら私の青春」での50秒あたりからサビが終わるまでのメロディラインなどに、川谷絵音節を見つけることができるのではないかと思う。


 このような楽曲は、曲によって「語り」のような歌い口になる。川谷は自身のバンドの曲で、感情の起伏や一個人の思い移ろいを言葉巧みに象ってみせ、聴く者のシンパシーを誘ってみせる。一方結城の細い声色では、より独白的な色合いが強く響いてくる。シンガーソングライター川谷絵音のボキャブラリーと表現がそのまま生かされていることによって、歌手・結城萌子の作品として聴くことができるのだ。


 この色合いが顕著に出ているのは、ミトが編曲を務めた「元恋人よ」である。同曲はピアノと結城の歌声が軸となったバラードだ。途中から差し込まれるストリングスやスネアロールによって、沈痛な心象を独白していく歌声と物語を盛り上げていく。主張しすぎることなく、でも確実に、川谷のメロディと結城の声を引き立てたアレンジがされている。


 『innocent moon』というタイトルについて結城は「初めての作品なので、「まだ色が塗られてない状態の、真っ新なEPです」という意味と、「きっとこれからいろんな私が見られると思います」という意味も込めています」(参照:https://www.cinra.net/interview/201908-yukimoeko_kawrk)と語っている。尾崎の言葉とは少し異なるが、両者ともに「ここから様々に変化していく私を見てほしい」という点においては共通しているのではないかと思う。


 多くの参加者とともに多彩な楽曲を歌った尾崎由香、作詞作曲を同一人物に任せた結城萌子。楽曲数に違いはあれども、自身のカラーを探す旅を二人は始めたばかりだ。(草野虹)


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