『ワンハリ』&『引っ越し大名!』 洋邦期待の新作を阻んだトップ4の壁

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2019年09月05日 13:21  リアルサウンド

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『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』

 レオナルド・ディカプリオ&ブラッド・ピットの『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』。星野源&高橋一生の『引っ越し大名!』。この秋の目玉と言える外国映画と日本映画の実写作品が公開された先週末だったが、映画動員ランキングの1位から4位までは変動なし。『天気の子』の動員はここにきてまさかの前週超え、興収50億円を超えてからも順調に数字を伸ばしている『ライオン・キング』、3位の『劇場版おっさんずラブ 〜LOVE OR DEAD〜』と4位の『ONE PIECE STAMPEDE』も高い水準の数字をキープ。一つの作品に集中することなく複数の大ヒット作品が生まれた2019年の夏だったが、映画興行界全体のいい流れは秋以降も続きそうだ。


参考:8月9日=シャロン・テート殺人事件から50年 タランティーノ最新作のカギとなる衝撃の事件を解説


 初登場6位に終わった『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』の成績は、土日2日間で動員17万人、興収2億2600万円。3日間の動員は22万3200人、興収3億100万円。これはクエンティン・タランティーノ監督の前作『ヘイトフル・エイト』も、レオナルド・ディカプリオ主演作の前作『レヴェナント: 蘇えりし者』も、ブラッド・ピット主演作の(Netflix作品を除く)前作『マリアンヌ』も大きく上回る成績だが、いずれの作品からも比較的長い年月が経ってるし作品の趣向も大きく異なるので、ここで過去作品との興収比を算出することにはあまり意味がないだろう。


 今回、公開直前にタランティーノとディカプリオはプロモーションのために来日をして、特にタランティーノはかなりの数の取材をこなしていたが、その効果も少なからずあったに違いない。自分も劇場に足を運んだが(何度も観たくなる作品なのだ)、週末の都内のスクリーンでは満席続出の状況。その場内の熱気からもう少し高い成績になるのではと思ったが、都市部での動員と地方での動員に大きな差があったようだ。


 この「都市部と地方の動員力の大きな差」というのは、メディアは盛り上がっているのに実際はそこまで数字が伸びない作品によくありがちな現象。必ずしも実写の外国映画が地方で弱いというわけではなく、『ワイルド・スピード』シリーズのようにむしろ郊外のシネコンでやたらと強い作品もある。逆に言えば、30億円、40億円と興行成績を積み上げることができる外国映画とそこまでは伸びない外国映画の違いは、そのまま「郊外」や「地方」での浸透度の差と言ってしまってもいいだろう。


 そのこと自体は世界各国の都市部と地方でどこでも起こっている現象だが、『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』のようなオリジナル作品やハリウッド大作でもシリーズ1作目の数字はあまり伸びず、シリーズ化されて作品を重ねるごとに成績が上がっていく傾向は特に日本において顕著だ。雑誌からネットメディアへと主要な映画の情報収集経路もシフトし、NetflixやAmazonビデオで日本のどこにいても最先端の海外作品にリアルタイムで触れられるようになっても、なかなかこの状況は変わらない。


■宇野維正
映画・音楽ジャーナリスト。「MUSICA」「装苑」「GLOW」「Rolling Stone Japan」などで対談や批評やコラムを連載中。著書『1998年の宇多田ヒカル』(新潮社)、『くるりのこと』(新潮社)、『小沢健二の帰還』(岩波書店)。最新刊『日本代表とMr.Children』(ソル・メディア)。


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