乃木坂46『真夏の全国ツアー2019』で目撃した“円熟と継承”が交差する景色

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2019年09月08日 13:21  リアルサウンド

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乃木坂46

 乃木坂46の『真夏の全国ツアー2019』は、9月1日に明治神宮野球場で行なわれた東京公演Day3でファイナルを迎えた。キャプテンの桜井玲香がこのツアー最終日をもって卒業したことにもあらわれるように、ここしばらくの乃木坂46はメンバーの循環・継承の時期を迎えている。また同時に、卒業した人々も含めた初期からのメンバーの活躍を中心に、グループの表現としての円熟期に到達しているのが近年の乃木坂46でもある。今夏のツアーは総体として、その円熟期と継承期とが重なり合った時期ゆえのパフォーマンスが随所にみられた。


参考:乃木坂46 賀喜遥香×筒井あやめが語る、加入から初選抜までの怒涛の日々と4期生の成長


 グループの円熟期としての立ち振る舞いがあらわれるのは、ライブ序盤で畳み掛けられる夏楽曲の連続、そして東京公演ではライブ中盤に、各地方公演ではセットリスト冒頭に組まれた「インフルエンサー」「命は美しい」「何度目の青空か?」といったシングル表題曲である。全国ツアーのシーズンを告げるような夏リリースの楽曲群のパフォーマンスは、今や世間的に巨大なポピュラリティをもつアーティストとしての陽性の強さをたたえている。また、「インフルエンサー」をはじめとするシングル曲は、歳月をかけてメジャーグループとしてのスケールを伝える、乃木坂46の代表的楽曲に熟成されてきた。それらのシングルが発表された頃には振付の難度などから“挑戦”的な楽曲としても言い表されてきたが、もはやそうしたかつての印象を置き去りにして、グループの重厚さを示す作品となって久しい。現在の乃木坂46の余裕が見てとれるのは、これらの楽曲においてだろう。


 他方で、発展段階にある新進メンバーをこの充実期のグループに包摂しながら、次代の形を模索していることがうかがえるのは、ツアー限定で組まれたユニットによるパートである。これまでのアンダーライブなども含めて、特定のライブツアー限定のユニットでは、既存楽曲をいかに再解釈して異なる色をのせてゆくかが醍醐味だが、今年はとりわけこのパートに、円熟と継承とが交差する景色をみることができた。


 たとえば齋藤飛鳥と遠藤さくらによる「他の星から」はその象徴だった。元々、乃木坂46のデビュー2年目に誕生したこの楽曲はメンバー構成や振付や衣装など、オリジナル版のビジュアルが強く印象づけられた、ユニット曲のなかでも屈指の人気作品である。今回のライブでは、いわばリリース時の「型」が色濃く残るこの作品に大きなアレンジを加え、現在の乃木坂46のイメージを踏襲した振付を施し、1期と4期とを繋ぐデュエットダンスとして読み替えてみせた。


 あるいは、“NOGEAM GIRLS”としてモータウン調にアレンジして披露した「白米様」は、安定した歌唱力がなければ楽曲とのテイストのギャップによるコメディ的な精度を生み出すことが難しい意匠であった。ここに1〜3各期から生田絵梨花、伊藤純奈、久保史緒里と強い歌声をもちミュージカル適性を備えたメンバーを配置できるのは、グループが長いキャリアのなかで積み重ねてきた舞台演劇への志向の結実でもある。その歴史の流れに次代を引き入れるように、4期メンバーの賀喜遥香が加わったこともまた、長期的な展望としての意味は小さくない。


 今回のセットリストによって浮かび上がるのは、グループの継承を担う「層」が幾重にも充実していることである。ライブ前半には3期生の「三番目の風」から4期生「4番目の光」へと繋ぎ、3・4期合同でそれぞれの期別楽曲をパフォーマンスするパートが設けられた。2年あまり前、「三番目の風」は3期生初期のアンセムとしてあったが、現在の彼女たちによるこの楽曲は、かつてとは異なる大きさパワフルさを手にしている。それが現在の4期生との交わりのなかで披露されることで、加入初期からのキャリアを照らすような遠近感を生み、3期生以降の乃木坂46にも新たな継承の歴史が生まれていることが示される。


 また、選抜とアンダーの融合として表現された、「あの日 僕は咄嗟に嘘をついた」ほかアンダー楽曲もグループの層のあり方を捉え直すものだったが、特にアンダー楽曲についていえば、アンダーライブが培ってきた実力を知らしめる瞬間になったのは、北野日奈子がセンターを務める「日常」だった。ごくストレートなライブパフォーマンスとしては、セットリスト中でも「日常」は随一の力強さを誇っていた。フェーズの異なる「層」の厚さはここにも明確にうかがえる。


 ただし、幾重にも連なったこれらの「層」はやがて、ひとつの大きな和へと集約されていく。それを何よりも表現するのは、グループ全体で歌唱される「僕のこと、知ってる?」だった。メンバーたちが期別に登場する際、そこにはそれぞれの期としての結束や矜持がうかがえる。けれども、それらが最終的に溶け合って生まれるのは、互いを慈しみ合うようなひとつの円である。この曲が主題歌になったドキュメンタリー映画『いつのまにか、ここにいる Documentary of 乃木坂46』が乃木坂46のうちに見出したのは、まさにメンバーたちが相互に向けて、またこの組織に向けて投じるいくつもの愛着だった。波乱の物語でも激情でもなく、穏やかに慈しみ合うさまは、乃木坂46が一貫して体現するひとつの群像劇たりえている。「僕のこと、知ってる?」のパフォーマンスは、乃木坂46というグループの基調を何よりも表現していた。


 ツアー最終日のクライマックスは、キャプテンを務めてきた桜井玲香に最大のスポットがあたる。もとより、全方位的なスキルの高さをもつ桜井を称するうえで、“ポンコツ”という二つ名はさほど似つかわしいわけではない。歌唱にもダンスにも演技にも巧みさをみせ、またその技術を大仰にではなくごくナチュラルにパフォーマンスに織り込む手際はこれまで、多方面にグループを支えてきた。この日もユニットのパートでは「自分じゃない感じ」を鮮やかに再解釈し、楽曲の新たな可能性を示唆してみせた。


 彼女の卒業がなお鮮やかなのは、11月に予定されている帝国劇場ミュージカル『ダンス・オブ・ヴァンパイア』出演など、グループ在籍時の蓄積を卒業後の活動に繋げる道標となっているからでもある。グループ在籍中か卒業しているかを問わずさまざまなジャンルへと架橋し、それを個々人のキャリアに接続することに関していえば、乃木坂46というグループは現在、相対的にきわめて順調な立ち位置にある。否応なくグループの構成が変わっていかざるを得ない時期にあたって、そうした特性も継承してゆけるかどうかは、半年後、一年後のグループの景色を見据えるうえで重要になるはずだ。(香月孝史(Twitter))


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